ノルウェーの川を泳ぐサーモンをライブストリーミングする「FiskeTV.no」ーー趣味への情熱と水中技術を活かして拡大を狙う

by Yuki Sato Yuki Sato on 2015.11.18

FiskeTV.noのファウンダー、オルグソンさんがサーモンを捕らえた瞬間
FiskeTV.noのファウンダー、オルガソンさんがサーモンを捕らえた瞬間

毎年6月1日から8月末までの3ヶ月間、熱狂的な旅行者がアメリカやドイツなど世界各地からノルウェー西岸を訪れる。彼らの目的は、天然サーモンの川釣りだ。ノルウェーの西岸には400ほどの川があるが、そのうち250の川で天然のアトランティックサーモンの川釣りを楽しむことができる。アメリカやドイツ、スウェーデンなど世界各地からノルウェーにサーモンの川釣りをするために訪れる人は後を絶たない。知る人ぞ知る、サーモンの川釣りの「聖地」なのだ。

そんなノルウェーの資源を活用して、スタートアップを立ち上げたのがLars Erik Ørgersen(ラース・オルガソン)さんだ。彼は今年の7月に「FiskeTV.no」をローンチした。 Fiskeとはノルウェー語で魚を意味する。つまり、Fiske.TVとはFishTV、魚テレビだ。今回、FiskeTV.noのファウンダー・CEOのØrgersenさんにベルリンでお話を伺った。

まずは、FiskeTV.noについて。FiskeTV.noは、川の中のサーモンをひたすらライブストリーミングするサイトだ。現在は月額49NOK(約700円)で、会員が視聴することができる。

どのような動画なのか、その雰囲気はこちらからご覧いただける。

Laksekrig i Lakselv. Følg med på dette klippet fra Livekameraer for noen sekunder siden!

Posted by Fisketv.no on 2015年10月20日

サーモンの川釣りは熱狂的な趣味の世界

こうした、ただひたすら川の中をライブで配信する動画、その面白みが分からない人も結構いると思う。実際、私も最初にこの動画を見せられたときは一瞬ぽかんとしてしまい、しばらくコメントが出てこなかった。そんな私を見て、オルガソンさんは言った。「ははは、クレイジーだろう! でもこの動画を、僕も含めて夢中で観る人たちがいるんだ。彼らは、サーモンが今この瞬間に自分が釣りに行く川で泳いでいるのを見るだけで、エキサイトするんだよ」と言い、自身もサーモンを目にするたびに「おお、すばらしいサーモン…!」と声をあげていた。

冒頭にも書いたが、サーモンの川釣りを熱狂的に愛する人たちというのが存在する。彼らはシーズンの6月から8月末まで、ノルウェー西岸の川を訪れてサーモン釣りを楽しむ。「死ぬ前でに一度でいいから大きなサーモンを釣り上げたい」というのが、こうしたサーモン釣りファンの夢であるそうで、その夢をかなえるためにはあらゆる情報・映像を入手したいと考えるのだ、とオルガソンさんは言う。

ちなみに、最高にラグジュアリーなサーモン釣りの滞在プログラムは1週間で2万ユーロ(約260万円)もかかるのだそうだ。ホテル、釣りの道具、ガイド、最高の釣りエリアのアレンジなど、至れり尽くせりの内容だが、それにしてもそこまでのお金を出して参加したいと思うほど熱狂的な客がいるというのはすごい趣味の世界である。こうしたサーモン釣りファンは、アメリカ、ドイツ、スウェーデンなどを中心に世界各地から集まってくる。

FiskeTV.noのトップ画面 Image: Screenshot
FiskeTV.noのトップ画面
Image: Screenshot

「新しい動画コンテンツをつくりたい」

オルガソンさんが FiskeTV.no を立ち上げようと考えたのは1年前に遡る。それまでは、長年テレビコマーシャルのプロデューサーを務め、カンヌ映画祭での受賞歴ももつ。そんな彼は昨年、従来のテレビのコンテンツの作り方を古いと感じ、新しい映像コンテンツを生み出せないかと模索していた。

「そのとき思ったんだ。僕は12才からサーモンの川釣りを始めて、今に至るまで大好きだ。この情熱を新しいコンテンツづくりに活かせないかって?」

ベルリンでインタビューに応じてくれたオルガソンさん
ベルリンでインタビューに応じてくれたオルガソンさん

こうして「川の中のサーモンをライブストリーミングする」という、ニッチなアイデアを思いつく。そのアイデアを、また周囲の知人に話したところ、4名が投資してくれることになった。いずれもサーモン釣りの熱狂的なファンである。

とはいえ、趣味への熱い思いだけが彼や投資家を突き動かしているのではない。実際に市場調査の会社を通じて、消費者のトレンドを探ったところ、ストリーミング動画を有料でも視聴したいという消費者が増えている傾向も分かったという。実際、ノルウェーではストリーミング音楽や動画を有料でも購買する消費者は多い。

また、ノルウェーは東部の首都オスロから西岸の都市ベルゲンまで列車で7時間強かかる道のりを、列車の先頭に付けたカメラがただ映す動画、高齢の女性が編み物をする姿をひたすら映す動画など、いわゆる「スローテレビ」を好んで視聴する人が多いという国民性である。 FiskeTV.noもまた、スローテレビのファンを惹きつける可能性がありそうだ。

テクノロジー × コミュニティ × 趣味への熱い思い

川の中のサーモンをライブストリーミング配信する、と聞くと簡単そうなプロジェクトのように思えるかもしれない。だが、設置するカメラのクオリティ、設置する場所には高度な技術と知識が求められる。

より多くのサーモンを動画に映すためには、サーモンの繁殖場所の近くにカメラを設置する必要があった。雌と雄のサーモンが繁殖活動を行い、産卵床をつくる場所の近くであれば、多くのサーモンが行き交う確率が高まるからだ。そのため、カメラを設置するダイバーには生物学の知識が求められる。カメラもまた、長時間のストリーミングにも耐えられるように水中でもしっかり固定されるよう、特殊なケーブルをつけたカメラを独自に開発した。

また、カメラを設置する川の所有者との関係性も重要になる。現在、カメラは6つの川の計6ヶ所に設置されているが、そのカメラが設置される場所は特定されていない。もし場所が特定されると、そのカメラの設置場所に釣り人が集中する可能性があるからだ。そうなると、川の複数の所有者にとってフェアではない事態が生じる可能性があると判断して、カメラの設置場所の詳細は公開されないことになった。

何十年にもわたって続くサーモン川釣りへの情熱、同じような釣りファンのコミュニティ、地元住民との関係性、生物学の知識をもつダイバー、特殊カメラ、それらすべてが合わさってはじめて可能になるプロジェクトなのだ。

また、今後はサーモンに限らず川と海の魚全般のライブストリーミング配信に乗り出したいと語る。だからこそ、サーモンテレビではなく「魚テレビ」と名付けている。

ノルウェーは、水中技術ーSubsea technologyーにおいて長年の研究の歴史をもち、多くの技術を生み出してきた。特に、彼の住む西岸ベルゲンもまた、水中技術の研究が盛んな都市である。こうした国の資源と強みも生かしながら、Fiske.noが今後拡大していくことを期待したい。

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