ウォータールー~カナダの小都市が世界的なスタートアップハブになりえた理由(3/3)

本レポートはCompass(元 Startup Genome)の最新レポートであり、エコシステム・ライフサイクルモデルを最初に紹介し、世界中のスタートアップとエコシステムのリーダーが活用できる 教訓を提供している。2015年グローバルレポートのために編纂された膨大なデータを用いてエコシステムを深く解析した本レポートは、中小のエコシステム がトップクラスのそれらと対等に戦うための指針を提供している。

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中心部の King Street を南側へ臨む。(Image Credit: Wikipedia

資金調達

カナダ、および一般的に他のパフォーマンスの低いエコシステムが大きなイグジットを生み出せない第二の要因は、地元のファンディングの差である。

最も重要なこととして、プライベート投資家からシードファンディングを調達できているのは、きわめて少数のスタートアップに過ぎない。図7では、シリコンバレーを100%としたときの、各エコシステムがシードファンディングを調達できている割合である。アメリカの上位のエコシステムはシリコンバレーに近い数値である。しかしウォータールー、トロント、そしてバンクーバーははるかに低い。全体的に見てどのラウンドでも、資金調達できているスタートアップは、シリコンバレーと比較すると、最高でも1/3となっている。

各ラウンドでの解約(契約解除)率は、カナダのトップのエコシステムのほうがシリコンバレーより高いこともあり、シードファンディングの差が、シリーズAおよびシリーズBのファンディングを調達できるカナダのスタートアップが極めて少ないことに結びついている。1/5から1/9という数値の低さである。

ニューヨーク、ロサンゼルスおよびボストンの平均と比較すると、カナダやウォータールーのスタートアップで、各ラウンドで資金調達できているのは、1/3から1/5となっている。オースチンのパフォーマンスはニューヨーク、ロサンゼルスおよびボストンの平均に近く、それが意味するのは、シードファンディングが行われる率が低いのは、小さいエコシステムの宿命というわけではないということだ。

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図7 資金調達できるスタートアップの割合(シリコンバレー比)

グラフ左から、シードラウンド、シリーズAラウンド、シリーズBラウンド。
グラフのバーは、左から順にトロント、バンクーバ、ウォータールー、オースティン、ニューヨーク市・ロサンゼルス・ボストンの平均。

これらの調査結果は、専門家の発言(およびデータ)であるところの、

  • A)ウォータールー発のアイデアは他のエコシステムより質が高い、
  • B)ウォータールーの技術人材の質は北米一である、

……とはまったく異なっている。ウォータールーは優れたビジネスアイデアと優秀な技術人材を生み出しながら、シードやシリーズAファンディングを受けられるスタートアップは少ないのである。

これらすべてが、重要なファンディングの差に行き当たる。それをさらに補強する調査結果として、ファンディング額の中間値および平均値を分析したものを図8および図9に示す。ウォータールーやカナダのスタートアッがシードおよびシリーズAラウンドで調達できている額は、アメリカのスタートアップより小さい。シードラウンドにおいて、ウォータールーはアメリカトップ4のエコシステムと比較して、平均で25%、中間値で76%も低い額しか調達できていない。

ここからわかるのは、シードラウンドでの国内でのファンディングにおける深刻なギャップである。シリーズAラウンドでの差分はそれほど重要ではなく、ウォータールーで見ると平均で33%低く、中間値は同じになっている。しかし、回帰分析からわかることは、ウォータールーでのスタートアップは、シリーズAラウンドで国内投資家だけに頼る場合、ひとつでも海外投資家を含めている場合と比較して250万米ドル少ない額しか調達できていないということである。これがシリーズAにおける国内ファンディングの差である。

しかしここで注意しておきたいのは、カナダのエコシステムにおけるソフトウェアエンジニアの給料が低く、アメリカの半分以下ということである。これはシリーズAの調達額の低さを補うことが可能で、シードラウンドでの額の差も、いくらかは生めることができる。これはアメリカ以外のエコシステムでしばしば当てはまることである。

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図8 シードラウンド 資金調達額(米ドル)

 

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図9 シリーズAラウンド 資金調達額(米ドル)

ウォータールーのような中小規模のエコシステムにとっての鍵は、海外顧客とグローバル市場のニーズを見据えた顧客獲得活動であり、それは成長のためのチームを、選択した海外市場で立ち上げることで可能になる。アメリカ市場をターゲットにするのであれば、経験豊かなアメリカ人セールス、マーケティング人員を活用し、彼らの知り合いリスト、持っている交流関係や、身に着けている仕事のプロセス、カルチャーを持ち込んでもらうのだ。これらの行動は、スタートアップ企業自らが行えるものである。

その他のアクションは、エコシステムリーダー、政策立案者その他のステークホルダーの同意や、調整済みの活動が必要になる。彼らが一体になり、国際的なコミュニティを活用し、スタートアップの成長にフォーカスした、アメリカベースの経験豊かなハブやプログラムにファンディングして、スタートアップが「世界を目指す」のをサポートするのである。

他のエコシステムで成功した政策に倣い、政策立案者はシードおよびシリーズAファンディングにおける差分の解決をサポートできるはずである。たとえばマッチングファンド(一定割合での資金援助)や、特定のラウンドに特化した税額控除プログラム、また、リミテッドパートナーシップとして、エコシステム内にオフィスを構えようとしている国内ファンドおよび海外ファンドに投資をするようなことが考えられる。

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ウォータールー大学(Image credit: University of Waterloo)

別の面からの解決策として、近傍の都市と融合し、より大きく世界的に競争力のあるスタートアップ・エコシステムを形成することである。たとえばサンフランシスコとサンノゼ、ロンドンとケンブリッジがあげられ、いずれも似たような地理的距離があるが、電車やバスといった共通の公共交通機関を用いて、そのハンデを緩和するのに成功している。

同様に重要なこととして、ステークホルダーは2都市に対する活動を完全に統合しなければならず、さらにその後は、コミュニケーションも同様である。これにより、世界のスタートアップコミュニティは、2都市を真に統合されたエコシステムと認識することになる。例えば、トロントとウォータールーが統合されたエコシステムとなれば、国内外の起業家や投資家にはより魅力的に映り、規模やファンディングのハンデを解決する助けとなるだろう。

ウォータールーについて具体的に言えば、エコシステムとスタートアップの成長を加速させるために、ステークホルダーが注力すべきことは以下である。

  1. アメリカ市場およびグローバル展開にあわせてゆき、問題を解決する
  2. ファンディングのギャップを、特にシード段階において、そしてシリーズAにおいても縮めていく
  3. トロントとウォータールーを統合し、より大きく、世界的にも魅力あるスタートアップ・エコシステムにする

ウォータールーのトップクラスの技術人材および、革新的技術やスタートアップを生み出す飛びぬけた生産性を加えていけば、これらの問題を解決することで、高額のイグジットやユニコーンが生まれる可能性があり、結果として世界中の起業家、資金、その他のリソースをひきつけ、エコシステムをより速く、ノンオーガニックの成長率で伸ばすことが可能になる。より重要なことに、その結果として、同地域を、経済成長と雇用創出のより強力な動力源とすることができるのである。

【via Compass】 @startupcompass

【原文】

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