なぜカスタマーエクスペリエンスが、次の「ディスラプト」なのか?

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Image Credit: Ken Yeung/VentureBeat
Image Credit: Ken Yeung/VentureBeat

今日ビジネスを始めようとするならば、商品に単に付加価値をつけるだけでは十分ではない。人々はもはや個々の商品を追い求めてはいないのだ。問題を解決してくれるだけでなく、ワクワクする気持ちや楽しさを同時に得られるようなトータルなサービスの経験を求めている。Apple、Google、Disney、Airbnb、Amazonといったごく少数の企業がこういった体験を提供している。では、これらの企業はどうやってこのようなことを実現しているのだろうか?

『X: The Experience When Business Meets Design』という最近出たばかりのこの本はこの問題を取り上げ、企業に対して、顧客の考え方や行動に訴えかけるためにも技術やクリエイティブなマーケティング戦略の先を考えるべきだとアドバイスしている。こういった顧客の期待は、スマートフォンやオンラインのショッピング、レビューなどの普及により大きく変遷を遂げてきた。この本の著者でProfetのグループ会社であるAltimeter Groupの主任アナリストであるBrian Solis氏が訴えたいことはつまり、すべては人間らしくあることだ。つまり、顧客を売上記録の数字として扱うことを止めて、個々人のために経験を築き始めるべきだということだ。

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「今や経験は製品よりも重要です。もはや、経験そのものが製品といってもいいでしょう」Solis氏はXに書いている。「世界中が耳を傾ける顧客からのコメントの主な話題は、経験です。現代のコネクテッドエコノミーにおいては、人々は企業や製品でどのような経験をしたかをシェアするようになってきています。私たちは望ましい経験を創造し育てるように積極的に参画することもできるし、あるいは、望ましくない経験に対応したり埋め合わせたりすることに多くの時間を割くこともできます。さらに言えることは、顧客の要求は進化し続けるということです。私たちはまだこういった営みを始めたばかりです。」

246ページを読み進めていく間に読者は、「真実の瞬間」とSolis氏が呼ぶ、戦略的に練られた経験を確立していくために部品をつなぎあわせていく過程を経験できる。XにはCoca-Cola、Airbnb、Disney、Cisco、Appleといった著名なブランドの例も取り上げられている。これらの企業はすべて、長期に渡って最高の顧客経験を提供する方法を見出す、という同様の課題に取り組んできている。

古いことわざの「Xはいるべき場所を意味する(X marks the spot.)」とは使い古された言い回しに聞こえるかもしれないが、人々の結びつきを探し出そうとしているときにはまさに当てはまる。Xは、ビジネスが最新のデジタル戦略が顧客を集めてくれるだろうという無作為広範囲的な考え方を脱出したときに、探し求めるべきスイートスポットだ。マーケティング、セールス、エンジニアリング、デザイン、ビジネスなどの部署を伝統的な縦割り体制(Solis氏が「Circle of Rife」(はびこりの輪)と呼ぶもの)から押し出し、彼らを共通の明確なゴールに向けて共に動かすことだ。

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ではXにたどり着くための公式とは何なのか? Solis氏はConversation Prism(会話プリズム)とSocial Compass(社会的コンパス)と呼ばれる概念を発展させ、それらに関係する可動要素について説明している。まず個々の顧客の経験とシェアされた経験を見ることから始めている。

そこから、どんな瞬間(モーメント)をデザインしたいかを考える。顧客がただ商品を検索している段階であれば、ゼロのMOT(決定的瞬間)。第一印象が重要な影響を顧客に与える段階は最初のMOT。商品とより深い関係を築いている段階は二番目のMOT、そして最後の瞬間というのは、顧客がプロダクトやサービスに関してコンテンツを作り、良い話、悪い話も含めてあらゆる人にそれを伝える段階である。

これらすべては、Solis氏が全ての瞬間を統合し、経験を強化していく役割をする「経験の領域」の中に入る。「人々に共有してもらいたいものと、人々に見つけてもらいたいものは偶然の産物ではなく、デザインされたものなのです」と彼は書いている。簡単に言えば、このXの概念を使えば、技術を越えて、顧客がどこにいるのか、また彼らがどんな問題の解決を望んでいるのかを深く理解することができるのだ。

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Xはありふれたビジネス書籍ではない。Soli氏の過去の書籍『Engage』、『The End of Business as Usual』そして『What’s the Future of Business』に続くものだ。ビジネス戦略に焦点を当てるのではなく、Xは社会学的な問題とデザインの問題を取り上げている。顧客と親密さを築き上げるために、企業がなにをすべきかか各論に入ることなく、ハイレベルな議論を提供している。それは合理的なことだ。それぞれの企業の置かれている立場は違うし、細かい課題については各企業が解決するべきだ。

カスタマーサービス、広報、開発関係、ウェブサイト、アプリケーション作成、他業種ビジネスへの販売など、どの領域について考えているかにかかわらず、あなたは最終的に理解を得なければならないが、それをこの本はあなたに保証すると言う。「共感を持つことです」とSolis氏は語る。「イノベーションは共感から始まるのです。」つまり、顧客の立場に立って物事を見ることだ。

重要な点は、イノベーションはイテレーションとは異なるということだ。Solis氏は、テレビのリモコンの例を挙げて、違いを説明する。複数のボタンを追加したり、リモコン自体の形を変更する。これはイテレーションだ。一方、イノベーションとは、その機能をスマートフォンに組み込んで、テレビのコントロール全体を変えてしまうようなやり方を指すのだ。

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自ら説く教えを実践していることを証明するため、Solis氏はデザイン会社Mekanismと協力し様々な書籍を出版した。標準的なフォーマットのかわりに、Xは展示用の大型書籍に似た作りになっており、タブレットで雑誌を読む感覚で読めるようデザインされている。Solis氏が目指したのは現状に対する挑戦であり、今日の顧客にとっての体験を再構築することだった。

確かにこの本のフォーマットでは、混雑したバスに座って読むのは(幅が広いので)やや難しいだろうが、デジタルデバイスで習慣的に行っているように指でスワイプしてページをめくるのは、なるほど印象深い。テキストに比重を置いた書籍に代えて、ビジネス書にはほとんど見られないデザインフレンドリーなレイアウトの採用により、Solis氏はXを再構成してみせたのだ。

Solis氏のデザインは、10代の若者たち(彼らの考え方がよりモバイル向けであるため)からインスピレーションを受けたものである、と同氏はVentureBeatに語った。

本書は「セクション(節)」ごとに分かれており、本全体に関連性を持たせつつも、それぞれが単独で理解できるよう作られている。後半のセクションでは、それまでに話してきた内容から実際にどのように実践できるかについて語られている。

「X」の購入はAmazonまたはお近くの書店で。

【via VentureBeat】 @VentureBeat
【原文】

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