キリマンジャロで日本人がサービスローンチ、登山者とガイドをつなぐ「Berguide」

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登山者とガイドをつなぐプラットフォームが誕生した。ベルリンに拠点を置く日本人2名のファウンダーが立ち上げた「Berguide(ベルガイド)」だ。

Berguideは、登山者とローカルのガイド・ツアーをマッチングするプラットフォーム。現在はキリマンジャロのツアーに絞られており、キリマンジャロを登山したい人は、6つの登山ルートごとにツアーを検索することができる。各ツアーのページには料金、日程、内容などの詳細のほか、ガイドやツアーの写真や動画も掲載されており、登山者はツアーを比較した上で、サイト上で申し込みから決済までを行うことができる。

ボリビアでの登山で命を落としかけた経験から、アイデアが生まれた

Berguideは、佐藤勇志(さとうたかし)氏と岳獅悠司(がくしゆうじ)氏の2名の日本人がベルリンで昨年の夏に設立した。両者とも26歳だ。

Berguideのアイデアが生まれたのは、佐藤氏自身の強烈な体験がきっかけだった。約2年前、自身もよく登山をするという佐藤氏は、南米ボリビアで登山をする。英語が話せるプライベートガイドを雇ったものの、途中で高山病になり体調が悪化。下山したい旨をガイドに伝えるも、ツアーに参加していた他の登山者のペースが優先されて、下山できない状況に陥ってしまう。

最終的に5500mの地点まで登ったところで、他の登山者が体調の悪化に気付いてくれて、ガイドに掛け合ってもらった結果、下山をすることができた。命さえ落としかねない危険な状態にまで追い込まれてしまったのだ。

下山後、彼はそのガイドのツアーに参加した他の登山者がノートに書いた感想を発見する。ノートには、ひどいレビューばかりが書かれていた。「このレビューをツアーに参加する前に見ることができていたら、絶対にそのガイドを選ぶことはなかった」という佐藤氏は、いかに登山ガイドの情報が一般的にオープンになっていないか、情報へのアクセスがしにくいかを痛感する。

Berguideでは現在、キリマンジャロ登山の6つのルートごとに、ツアー情報を見ることができる。
Berguideでは現在、キリマンジャロ登山の6つのルートごとに、ツアー情報を見ることができる。

アディダスを辞めて、ベルリンで起業

ガイドとツアー内容の情報をオープンにし、登山者に多くの情報と選択肢を与える必要があった。そして、ボリビアでの経験から2年後、ついに自らプラットフォームを作ることを決意する。

それまで彼は、日本の大学を卒業後、ドイツのニュルンベルクにあるアディダスの本社で幹部候補育成プログラムに日本人としては史上初めて参加し、グローバル戦略チームで仕事をしていた。いわば「エリートキャリア」を約束された道であったが、そのポジションを手放してベルリンでBerguideを立ち上げることを決意する。

「約2年前から “こんなサービスがあったら便利になるんだけどなぁ” と思い続けるも誰もつくる気配がなかった」「プログラミングを独学で学んでいるうちに、なんだか自分にもできる気がしてきた」と彼は言う。ニュルンベルクを離れて、ベルリンを拠点に選んだのは「ベルリンは外国人にも寛容な街であること」そして「近年、起業ブームで盛り上がっている」ことが理由だ。

上:コーファウンダーの佐藤勇志氏(左)と岳獅悠司氏(右)
上:コーファウンダーの佐藤勇志氏(左)と岳獅悠司氏(右)

最初はすべて一人でやるつもりだったという佐藤氏だが、彼の挑戦に仲間が加わることになった。中学生時代からの友人でエンジニアの岳獅悠司氏だ。学生時代からITスタートアップのソフトウェアエンジニアとして働いている岳獅氏に、プロトタイプをつくる過程で技術的な質問を投げかけていたところ、彼が相談に乗ってくれていたという。相談は夜中まで至ることもあったというが、岳獅氏自身も次第にプロジェクトに興味を抱くようになった。

その後、ドイツから東京に帰国した際に、佐藤氏は岳獅氏を飲みに誘って言った。「これあげるからさ、一緒にベルリンで働いてもらえない?」渡したのは、細いボールペンで「かぶ 50%」と書かれた紙の切れ端だった。岳獅氏は、これがきっかけでBerguideに加わることを決意。約1ヶ月後にベルリンに移住した。

キリマンジャロでローンチ

二人は昨年9月にベルリンのアパートを借りて、ローンチの準備を進めていった。ローンチの場所として狙いを定めたのは、タンザニア。アフリカ最高峰のキリマンジャロの登山者とガイドを最初のユーザーとして惹きつけることを目指した。

二人は現地に何もコネクションを持っていなかったが、タンザニアに行く前から入念な準備を怠らなかった。

まず、2000人以上のガイドをメンバーに持つキリマンジャロガイド協会のトップに、ベルリンからコンタクトを取り、Berguideのサービスについて説明。現地のツアー会社に対してもメールでサービス概要を送り、反応を探った。「そんなサービスがあったら、ぜひ使ってみたい」という好感触を現地に行く前から得ていたという。

タンザニアに滞在するのは、3ヶ月弱という限られた期間だ。1日も無駄にしたくなかった彼らは、可能な限りの準備をして現地に臨んだ。そのおかげで、現地に来てからも効率的に営業をしていくことができたという。キリマンジャロガイド協会の臨時総会では、300人もの現地ガイドの前でサービスをプレゼンする機会にも恵まれた。ベルリンからメールでやり取りをしていたガイドたちの元も訪れた。

さらに、現地で知り合ったツアー会社が他のツアー会社を紹介してくれて、またそこから紹介が広がっていくことも多かった。Berguideの存在を知ったツアー会社が、二人が宿泊するホテルまでわざわざ訪れて来てくれたことも一度や二度ではなかったという。

タンザニアで、登山ガイドたちにBerguideの提供するサービスを説明
タンザニアで、300名もの登山ガイドたちの前でBerguideのサービスを説明

「登山ガイドの人となりがもっと見えるようにしたい」

Berguideのサービス内容の何が彼らをそんなに惹きつけるのか。「キリマンジャロの登山ツアーの多くは、海外の代理店経由で予約がされ、代理店がツアー料金の多くを取るという構造になっています」と佐藤氏は言う。個人の登山者がネットでツアー情報を探しても、外観が良くSEO対策がしっかりなされているアメリカやイギリス、カナダなどの代理店のサイトに行き着く場合が多く、ローカルなガイドのサイトは埋もれがちだ。

Berguideはツアー会社・ガイドと登山者のマッチングが成立した際に手数料を取るが、その方が代理店を介するよりもツアー料金を抑えつつ、かつガイドへの報酬を高くすることできる。

また、これまで代理店を挟んだ場合、現地のガイドが直接評価を得られる仕組みが存在していなかったが、Berguideは登山者がレビューを書き込む機能が備わっているため、ガイドは直接登山者の感想を得て、それを次のツアーに生かすことが可能になる。

こうした点が現地ガイド・ツアー会社を惹き付け、30社を超える現地のツアー会社がBerguideに登録した。なお、佐藤氏によると、タンザニアでは国の認可を得たツアー会社でなければガイドをすることができないため、フリーランスの個人ガイドのマッチングは行っていない。今後、個人ガイドが許可されている国でサービスを展開する場合には、個人ガイドと登山者のマッチングを行っていく予定だという。

登山者側にとっても、価格を抑えたツアーを予約できるだけでなく、ガイドやツアーの情報をよく理解した上で選択できるというメリットがある。

「今まではツアーを予約できても、自分が誰と山に登るのか現地に行くまで分かりませんでした。現地で会うまで分からないのはなんか嫌だなとずっと思っていて、なんとか公開できる仕組みを作っていきたいと思いました」

佐藤氏はこのように語る。直接会わずともガイドの人となりが分かるように、動画で表情や声を伝えるようにした。確かにキリマンジャロ級の登山となるとツアー日程は1週間近くになる。その間共に過ごす人がどんな人なのかが分かれば、登山者の安心感もぐっと増すだろう。

現在、登録しているツアーはキリマンジャロのみだが、今後は世界各地の山のツアーを追加していく予定だ。

世界中の山のツアーを検索、予約できるプラットフォームというのは存在しない。世界の山の情報サイトとしては summitpost.org があるが、ガイド/ツアーを検索・予約する機能は付いていないし、日本の登山コミュニティサイトであるヤマレコも日本国内の山情報を対象にしている。

Berguideの挑戦はまだ始まったばかり。だが、登山ガイド、登山者、そして業界関係者の経験を大きく変える可能性を秘めているのは間違いない。

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