深度センサ付きカメラが切り拓く、スマートフォンの新たな可能性

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Eric Rachlin氏はBody Labsの共同設立者で、同社の製品開発を指揮している。Body Labs以前はMPI for Intelligent Systemsで上級科学研究員として勤務し、人間の姿勢及び体型の統計モデルを構築するコンピュータビジョン研究チームの運営に貢献していた。

via Flickr by “A Health Blog“. Licensed under CC BY-SA 2.0.
via Flickr by “Nan Palmero“. Licensed under CC BY-SA 2.0.

[開示情報ーBody LabsはIntel Capitalの支援を受け、Intel RealSenseを用いたスマートフォン向け3Dボディースキャニングソフトの開発に取り組んでいる。]

2016年、スマートフォンのハード面において重大な飛躍が始まる。深度センサ付きカメラだ。加速度センサ、ジャイロセンサ、気圧計、カメラ指紋認証センサはもはや手頃な値段のスマートフォンにまで普及した。今年は、世界のトップ企業間で加速するハードウェア部門の競争によって、深度センサを搭載した一般向けタブレットが市場に登場するだろう。

このようなセンサは今日の単眼型RGB画像にピクセル単位で奥行きに関する情報を与えるものだ。(たいていの場合、その情報は被写体に赤外線を投影することで得られる。)この技術によって物体、身体、顔そしてジェスチャーの認識はより高まる。

深度センサによって、スマートフォンはその場の状況に対しより多くの情報を得ることができるようになるだけでなく、空間上からユーザの身体を抽出・特定する技術を向上させることにもなる。最終的には、衣服の仮想試着から自分の生活空間上にマッピングされた個別なVR体験に至るまで、消費者向けアプリケーションにおける革新へとつながるだろう。

もっとも重要なポイントはその技術ではなく、フォームファクタになる。Microsoftが2010年にKinectを発表しているように、深度センサ付きカメラ自体は新しいものではない。しかし、もしGoogle Mapsが室内までナビゲートしようとするのなら、また、Oculusが没入型仮想現実(VR)体験の質を高めようとするのなら、ハードウェアを動かす際の「インプット上の障害」という、私が以下に言及する問題が解決されなければならない。この障害には主に3つの課題がある。

1. コスト。以前、同種の技術は1万米ドルからハイエンドモデルのレーザースキャナーなど25万米ドル以上といったものまで、一般的消費者の対象には収まらない価格で展開されていた。しかし、近年の深度センサ付きカメラの普及により、それをスマートフォンに導入するのにかかる費用はより妥当なものとなっている。

2. 利便性。Intel RealSense、Google Project Tango、Apple PrimeSenseによりセンサが開発され、深度センサ付きカメラはスマートフォンに組み込まれるほどに小型化した。スマートフォンに組み込まれることで、ユーザが購入を決意すべきデバイスはひとつで済む。

3.採用性。多くのハードウェア企業が採用しなければ、この技術に価値があるとは言えない。幸運なことに、スマートフォン産業はその製品サイクルが極めて早いことで利益を得ている。アメリカの消費者の間ではテレビは7〜8年毎に買い替えられるが、スマートフォンはおおよそ18ヶ月毎に買い替えられる。それゆえ、自宅リビングに4Kテレビを置くよりも先に深度センサの付いたスマートフォンを所有した、というアメリカ人の方が多くなるということもあり得る。

Intel、Google、そしておそらくAppleも今年自分たちのセンサをモバイル端末に搭載する用意ができており、3Dセンサから取得されるデータはすぐに開発者たちにとっての開発材料を提供するプラットフォームになるだろう。

3Dデータを活用してソフトウェアを開発することは大きなチャレンジではあるが、私の会社のような企業は既にこうしたセンサから生成される生のデータを、新たなアプリケーションや機能を可能にする使いやすい3Dモデルに変換する技術に取り組んでいる。結果的に、この新たなプラットフォームは今年末までには以下に挙げるようないくつかの主要なマーケットをディスラプトする可能性を秘めている。

1. デジタル写真

3Dの情報を写真や動画に組み込むことで、デジタルコンテンツの編集において新たな選択肢が生まれるだろう。たとえば、映像の背景を自動的に取り除いたり入れ替えたりすること、スタンドアローン型のグラフィックとして使用するためにある特定の事物を分割すること(たとえば「カットアウト」すること)が可能になる。これらはスマートフォン写真の価値ある機能となるはずだ。

2. 地図作製とナビゲーション

Google Mapsはアメリカにおいて最も幅広く利用されているナビゲーションソフトだが、建物内ではその利便性は失われてしまう。深度探知の技術があれば、GPSに接続していなくても、建物内部の正確な3Dモデルが地図作製アプリケーションに対し提供される。また、商品やサービスまで直接案内ができるよう、建物の中でユーザがどこにいるか、どちらを向いているかといった情報を提供することも可能である。オックスフォード大学では、視覚障害者に周囲のナビゲーションを行うことでその支援を行う「スマートグラス」を供給するために、深度センサに関する実験が数年行われている。

3. ファッションとアパレル

衣類のフィッティングの問題は、小売業者にとって数十億米ドル規模の課題であると推測されている。オンライン上で販売した衣類の3分の1がサイズが合わないという理由で返品されているからだ。

だが、スマートフォンに深度センサが内蔵されれば、ユーザが自宅のリビングを離れずとも、正しいサイズを把握したりオーダーメイドを注文することが可能になるかもしれない。小売業者はTrue Fitのような、適切なサイズについてレコメンデーションエンジンを提供するアプリケーションを個々の体型をキャプチャするツールと合わせて使用することができ、返品数を減らしたり顧客に関する情報を改善したりすることが可能となる。

4. 仮想現実(VR)と拡張現実(AR)

VRに関する課題は次の3つのポイントにおいて、臨場感を高めることにある。(1)手の使用、(2) オクルージョン(他の物体が被ることで奥の物体が見えなくなった状態)、そして (3)周囲環境への移行である。

深度センサ付きスマートフォンによって作動するSamsungのGear VRのようなVRヘッドセットを使用することで、現実世界にある障害物を認識し、それを仮想世界においてどのように映像化するかといった情報を送ることがゲーム上で可能になるかもしれない。また仮想世界だけでなく現実世界上の臨場感も維持することで、ユーザがゲームの中を自由に歩き回る、またゲームを自らの居住空間に合わせカスタマイズするといったことが可能になるかもしれない。

5. プロダクトデザインと3Dプリント

3Dプリンタ市場は2018年までに54億米ドル規模にまで成長すると見られている。深度センサがあれば、ユーザは現実世界の物あるいは人物をスマートフォンによってほんの数秒でスキャンすることができるだろう。そこからアーティストは個人向け商品の制作・印刷・製造をシームレスに大きな規模で行うことができる。この技術により3Dのデザイン及びプリントに必要とされる専門技術や経費は減少するだろう。

分節化された組み立てユニットで構成された複数の部分から成る折り畳み式の型を作成する4Dプリントに向け、3Dでデザインを行いそれから運動学の体系を利用するNervous Systemといった企業も今では見られる。こういったものが、迅速で手頃かつ大規模に3Dプリントを宅配するVoodoo Manufacturingといった企業と組めば、製品の開発サイクルに付随する費用と時間の削減につながるだろう。

6. 健康とフィットネス

世界中には総計1億3800万以上のフィットネスクラブがあり、その市場規模は781億7000万米ドルと見積もられている。これらのクラブが重視するのは次の3点だ。(1)新たな会員の獲得、(2)既存会員の保持、(3)現存の会員に対しさらなるサービスで出費を促す、である。

新サービスを正当化するために、フィットネスクラブはトレーナーに深度センサ付きカメラを装備させ、ワークアウト時に記録した体重の減少や筋肉の成長といった進捗を効率的に視覚化することを検討している。これによって長期的な体型変化の記録が可能になり、Google FitやAppleのHealthKit、SamsungのS Healthといったアプリは新たな機能を開発するかもしれない。また、VirtualUといった企業も3Dスキャニング技術を採用しフィットネスクラブと手を組むことで、BMIのような古い指標ではない新鮮な健康とフィットネスの数値トラッキングを提供しようとしている。

これらは、深度センサ付きスマートフォン向けに開発され得る数多くのアプリケーションのうちのほんの数例である。これらの可能性を実現させるには真摯な取り組みと多額の投資が必要になる。高品質な3Dセンサも、しっかりとしたソフトウェアのラインナップによるサポートがあってはじめて便利なものとなる。

センサメーカーは、既にスマートフォン業界に蔓延している問題でもあるプラットフォームのフラグメンテーションを防ぐために標準的APIを遵守しなければならないだろう。またAPIも、3D映像関連のアプリケーション開発に関して言えば、多くのことを習得しなければならないという現在の状況を改善しなければならない。RGB-Dのデータを用いた作業は今のところPhDレベルの機械学習を利用しており、関連する学術研究についてのざっとした知識以上の物が必要とされている、と同僚と私は実際の経験から言うことができる。

新たな3Dセンサをリリースする企業は、こうしたセンサに必要とされるソフトウェア開発リソースに大量の投資を行わなければならないだろうと我々は予想している。だが、たとえ大量の投資を行ったとしても、これら新デバイスの潜在的価値は採用されるまでにかかる投資をゆうに上回るものとなるだろう。

今年、深度センサが端末へ搭載される流れに向かっている中、現在もイテレーションを繰り返しているスマートフォン産業は、非常にワクワクする新たな変化に対応する潜在力を秘めている。

【via VentureBeat】 @VentureBeat
【原文】

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