孫泰蔵氏・伊地知天氏・麻生要一氏が語る、オープンイノベーションの現在と未来〜SENSORS IGNITION 2016

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左から:佐々木紀彦氏(NewsPicks 編集長)、孫泰蔵氏(Mistletoe 代表取締役兼 CEO)、伊地知天氏(Creww ファウンダー兼 CEO)、麻生要一氏(リクルート Media Technology Lab)

26日、日本テレビの情報番組「SENSORS(センサーズ)」のイベント「SENSORS IGNITION 2016」が東京・虎ノ門で開かれた。一般的なスタートアップ・イベントに比べると、テクノロジーやハードウェアを使って〝体験で魅せるサービス〟を披露するチームが多く集まっていたように思える。

本稿では、イベントの終盤に設けられたパネルディスカッション「大企業×スタートアップ オープンイノベーションがもたらすインパクト」を取り上げる。気鋭のプレーヤーを招いたこのセッションは、SENSORS や SENSORS IGNITION が追っている、ものづくりにフォーカスしたスタートアップ・エコシステムの形成に軸足を置いたものとなった。

このセッションのパネリストは(登壇順)

また、モデレータは、ニューズピックス取締役で NewsPicks 編集長の佐々木紀彦氏が務めた。


アクセラレータか VC か——これまで全容がわからなかった Mistletoe だが、先ごろ今後の運営方針を孫氏自らが発表。東京・青山を拠点に、「1.5歩〜2歩くらい先を行く」スタートアップの起業を共同創業という形で支援していくことを明らかにしている。

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オープンイノベーション・コミュニティを運営する Creww は、大企業とスタートアップをつなぐ3ヶ月間の協業プログラムを現在進行中のものを含め、これまでに60本程度運用しており、伊地知氏によれば、これまでにプログラムから日の目を見た共同プロジェクトの総数は150件ほどになるという。

リクルートの新規事業部門である MTL(Media Technology Lab)室長を務める麻生氏は、渋谷の会員コミュニティスペース TECH LAB PAAK、今年10年目を迎えるハッカソン・イベント「MashUp Awards」、三井不動産や千葉県柏市と共に取り組む Smart City Innovation Program など、同社が手がけるオープンイノベーションに向けた活動の事例を説明した。

オープンイノベーションの今と昔

佐々木氏は日本のオープンイノベーションの置かれている状況を3人のパネリストに尋ねた。

麻生氏は、MashUp Awards を手がけてきた10年を振り返り、当初はハッカソン参加者が自由に使える API を提供してくれる協力企業が少なく、MashUp Awards から出てきたアウトプットは「Google Map の上に何かを置いたくらい」のものが多かったが、回を重ねるごとに使える API の数が増え、さまざまなサービスとの連携が可能になり、行政との取り組みも増えてきたと語る。特に大企業側の姿勢として、元来、新規事業開発というのは外部秘であることが一般的だったが、最近ではプロジェクト着手当初から情報をオープンにし、スタートアップとの組み方を探すアプローチが増えているのだという。

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伊地知氏は、Creww を創業した当初はマネタイズ方法を考えていなかったこともあり、「オープンイノベーションでマネタイズします」と宣言したところ、周囲からはブーイングの嵐だったと数年前を振り返る。2013年以降、安倍政権の後押しにより、銀行・監査法人・証券会社らが表立ってベンチャーを育てようという活動を行うようになり、これが日本でオープンイノベーションに火がつく契機になったと語る。昨年末以降は、フィンテックブームの影響で金融機関、さらにはメーカーや公共交通機関などからの問い合わせが増えているのだという。

孫氏は、オープンイノベーションの概念は新しいものではなく、インターネットを構成するオープンソースがオープンイノベーションを具現化した形の一つであり、その視点に立てば、インターネットの歴史は、オープンイノベーションの歴史そのものだと述べた。ただし、ここ数年、本質は変わらないものの、オープンイノベーションのあり方がラディカル(急進的)になってきていて、例えば、Google Glass や Oculus などもそうであるように、完成度は高くない段階でもプロダクトを披露してしまい、協業の可能性を模索しながら開発を進めていく、というアプローチが増えているという。

孫氏はセッションの冒頭、Mistletoe が関わる「1.5歩〜2歩くらい先を行く」スタートアップのことについては多くのことを開示できないと述べたが、前出の Google Glass や Oculus のラディカルなアプローチの事例から「一切の情報はコンフィデンシャル…というようなことではダメ」と自戒し、情報を出すことによるリスクよりもコラボレーションの可能性のメリットに視点を置いて、情報を全部出せるようにしたいと述べ、聴衆の笑いを誘った。

オープンイノベーションのポテンシャル(可能性)とハードル(困難)

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伊地知氏は、オープンイノベーションにおけるハードルとして、

  1. 大企業が自社に適したパートナー(スタートアップ)をどう見つけるか(ソーシング)
  2. 発注側/下請けの関係ではなく、両者にとってメリットのあるモデルをどうやって作るか
  3. そのモデルをどのようにエグゼキューションするか

…という3つの課題があると述べた。特にエグゼキューションのプロセスにおいては、大企業側で中長期的に窓口になるのは経営企画室や新規事業室だが、ここから実際にアクションをする現場部門にどうつなぎこむか、実施にあたってスモールテストをどう重ねるかなど、さまざまな困難が伴うという。

麻生氏は、スタートアップを受け止める側の立場として、自社のアセットと組み合わることでどういう価値が生み出せるのか、スタートアップとコラボレーションすることで生まれるプロジェクトを、自社にとっての価値に変換して社内に説明することが重要だと主張。説明できる価値を思いつくのが難しく、一方で、まずはコラボレーションを始めてみたいと価値を思いつけないという、〝にわたま〟的なハードルがあるという。しかし、何よりも大企業の担当者は、社内でコミュニケーションを粘り強く続けることが肝要であると述べた。

孫氏は、シリコンバレーには世界の叡智が集まっていることは事実だが、IoT (Internet of Things)分野では、日本に大きなアドバンテージがあり、インターネット産業のみならず、建築・土木・自動車産業・農業技術など、IoT がつながるあらゆるセクターでイノベーションを起こす契機になるだろう、と述べた。

特に再生医療の分野では、薬事法の改正により承認までの期間が最短2年にまで短縮され(孫氏の話によれば、多くの先進国では10年)、このことが拍車となって、世界中の再生医療の企業が日本に本社を移し始めたのだそうだ。孫氏は最近会った再生医療分野の企業経営者との話を引用し、例えば、再生医療の応用事例の一つである美容の新しいアプローチを、一般の女性消費者にうまく伝えられるように、再生医療の企業にとってモバイルアプリの開発が得意なスタートアップとの協業が求められると述べ、多くのビジネスチャンスが存在することを示唆した。

<参考文献>

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