SaaSの王者・Salesforceの6つの「ここが凄い」

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shibata柴田尚樹氏はSearchManのCo-Founder。2006年に入社した楽天では最年少執行役員となり、その後東京大学助教授を経てスタンフォードへ。500Startupsの出資を受けシリコンバレーでSearchManをスタートアップさせた。本稿は彼のnote「決算が読めるようになるノート」からの転載記事。同氏からの許諾を得て掲載させてもらった。彼の全ての記事はここで読める

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今日は、SaaSビジネスの話です。SaaSとは、Software As A Serviceの略で、クラウド上のソフトウェアをサービスとして提供する形です。一昔前はASP(Application Service Provider)とも言われていました。一般的に、月額課金や年額課金などの継続課金で提供される場合が多いです。

このSaaSビジネスというのは比較的最近始まったビジネスなのですが、その「王者」と呼ぶべき(と個人的には思う)Salesforceについて見てみたいと思います。

Saleceforceとは

クラウド上で、CRM(Customer Relationship Management、顧客管理)のためのソフトウェアを提供する会社で、上場ティッカーはCRMです。(すごいティッカー名ですね。)SaaSビジネスの開拓者でもあり、世界最大級のSaaSビジネスです。

直近の決算では、「セールスフォース、予想を上回る第4四半期決算を発表–見通しも上方修正」という報道がある通り、未だに大きく成長を続ける会社でもあります。

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四半期の売上が$1.81B(約2000億円)もあるにも関わらず、YoY+27%も成長しています。

今日は、このSalesforceの歴史を振り返りつつ、Salesforceの「ここが凄い」を6つに絞って紹介したいと思います。

ここが凄い#1: 創業後7年で$500m(約550億円)の衝撃

Tomasz TunguzさんというVCの方のブログがあります。この人はSaaS界では知らない人がいないくらい有名なVCで彼のブログ(ほぼ毎日更新!)は、SaaS界の人には欠かせない情報源となっています。はじめに、Salesforceというのは、最初から急成長を遂げた企業でした。

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横軸が創業からの年数、縦軸が売上です。

青がSalesforceの推移、黒がSaaSの上場企業(アメリカ)の中間値です。

なんと、創業(厳密には最初の資金調達)からたった7年で、売上が$500m(550億円)にもなっています!たった7年で500億円になるスタートアップ、驚異的すぎます…

ちなみに売上推移はこのようなグラフになっています。圧倒される規模感です。

ここが凄い#2: 中小企業にも大企業にも売れるプロダクト

Salesforce’s averaged an $11k account at IPO across 8000 customers, which is among the bottom third of SaaS companies. SMBs (less than 200 employees) contributed 40% of revenue, mid-market customers (200-500 employees) contributed 30%, and enterprise rounded out the last 30%.

との記述があります。日本語に直すと、以下のようになると思います。

Salesforceは、上場時に8,000社の顧客があり、1社あたり$11,000(120万円)/年の売上があった。売上構成は、(従業員200名以下の)中小企業が40%、(200-500名の)中規模企業が30%、(500名以上の)大企業が30%だった。

つまり、売上の70%もが500名以下の企業から来ていたということになります。これは非常に大事なポイントで、中小企業に売る場合、営業マン(人間)が売ると、コストが合わない場合が多いため、セルフサーブで売る必要があります。

Salesforceの凄さの一つは、セルフサーブで売れる優れたプロダクトにあった、ということが出来るでしょう。

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ちなみに、上のグラフが、SaaS上場企業のARPC(1顧客あたりの年間売上)なのですが、Salesforceは「1顧客あたりの年間売上」が非常に低い部類の会社です。「つまり、比較的低価格なものを多くの顧客に売る」モデルです。

1社あたりの売上が120万円/年(=10万円/月)なので、このサイズの売上を作るのに、全部営業マンベースでやると、少なくてもアメリカではコストが合いません。(日本の場合、非常に狭く交通網が発達した東京にほぼ全ての顧客がいるという状況もあり得て、また人件費もアメリカよりは安いので成立しうるかもしれませんが、アメリカは広い上に時差もあるため、多少事情が異なります。)

ここが凄い#3: 営業・マーケティングがとても上手

営業マンが使うサービス(ソフトウェア)を売っている会社なので、当たり前と言えば、とても営業・マーケティングが上手な会社です。

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SaaSビジネスで大事なKPIの一つが、Sales & Marketing費の対売上比です。要は、「売上の何%を営業・マーケティング」に使っているかという指標です。以下、「営業・マーケ費率」と書きます。

グラフの横軸が創業からの年数、縦軸が売上を100とした場合の営業・マーケティング費の割合です。

Salesforceの場合、「営業・マーケ費率」が約50%で、上場しているSaaS企業の平均的な数値です。

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横軸が創業からの年数、縦軸が売上を100とした場合のR&D費の割合です。

他方、R&D費(要は、エンジニアの人件費)は、20%以下で、上場しているSaaS企業の中間値から比べると、だいぶ低いまま推移してきました。

この2つから考えるに、Salesforce社は、(少なくても初期は)技術力ではなく、営業・マーケティングで勝っていた、と言えるでしょう。

ここが凄い#4: M&Aが上手

Salesforce社は、M&Aや投資にも積極的です。

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M&Aは、2010年から2015年の間に、$100m(110億円)以上の買収を5社行っています。他のSaaS系の会社に比べると多い方の部類です。

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他方、一件あたりの買収金額は、$390m(430億円)と競合他社に比べて非常に小さい部類です。

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また、$100m(110億円)以上のM&Aの合計額も、競合比では小さいです。

つまり、比較的小規模だがキレのある会社を買収して、自社サービスに統合し続けている会社、だと言えるでしょう。

最近は、特にAI(人工知能)系の買収が目立っています。

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CrunchBaseを見ると、Prediction IO、Tempo AIなどを買収しているのが見て取れます。

ここが凄い#5: 投資もSaaS企業中心

最後に、シリコンバレーの企業としては、珍しく、コーポレートベンチャーキャピタルを有し、投資も行っています。ファンドサイズも$200m(220億円)と大きく、2009年以来150社に投資をするという非常に積極的なCVCです。

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CrunchBaseを見ると、2016年に入ってからこれだけの投資がなされています。自らSaaSビジネスを展開しているのは上述しましたが、投資先もB2BのSaaSビジネスがほとんどです。自分たちがSaaSの「王者」だからこそ、投資先もSaaSを中心にすることで、勝率を上げられる、という戦略なのだと思います。

ここが凄い#6: SaaSビジネスの教科書も出版!

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M&Aや投資だけでなく、SaaSスタートアップの教育にも熱心です。今年のはじめに、「The SaaS Startup Founder’s Guide」という教科書的な電子書籍を公開しました。英語ですが、無料です。

私は全部読みましたが、執筆者が豪華なだけでなく、非常に内容の濃い本で、英語で読むのは大変かもしれませんが、SaaSビジネスをされている方には必須かと思います。

英語で全部読むのはなぁ、という方は、下記の最初の3章だけでも是非一読をオススメします。あるいは、SaaSスタートアップで集まって「輪読会」をするのも一つの手かもしれません。

Chapter 1: Subscription Economics: How Recurring Revenue Changes Everything
Chapter 2: Do the Time
Chapter 3: The Climb: How to Get to $10 Million

1章は、SaaSビジネスのKPIの話です。最低限、どのようなKPIを設定すべきなのか、という内容が書かれています。

2章は、「Hard Things」にも通ずるものがありますが、SaaSビジネスを始めるに当たっての心構えの話です。

3章は、年商10億円に到達するまでの一般的なマイルストーンが書かれています。

転載元:決算が読めるようになるノート:SaaSの王者・Salesforceの6つの「ここが凄い」

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