ガチャはついに捕らわれたのか?——日本オンラインゲーム協会が制定した自主規制ガイドラインを考える【ゲスト寄稿】

mark-bivens_portrait本稿は、パリと東京を拠点に世界各地のスタートアップへの投資を行っているベンチャー・キャピタリスト Mark Bivens によるものだ。英語によるオリジナル原稿は、THE BRIDGE 英語版に掲載している。(過去の寄稿

This guest post is authored by Paris- / Tokyo-based venture capitalist Mark Bivens. The original English article is available here on The Bridge English edition.


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CC BY-SA 2.0: Via Flickr by Danny Choo

ちょうど4年前の今頃、私は桜に象徴される物事の移り変わりについて考えていた。日本では満開の桜は春の訪れを表し、新しい季節の訪れだけでなく新学期が始まったり、各々の目標を新たに設けたり、経営目標を再査定したりなど、人生の様々な局面における再生を象徴している。

同じように今、企業は様々な形で移り変わりを経験しており、新たなビジネスモデル(輸送)、新たなテクノロジー(ケーブルテレビ)、そして新たな規制(金融取引)からイノベーションを得ているのを私たちは目の当たりにしている。

前回、私は革命と再生がモバイルゲームの分野に起きていると書いた。市場ではあまり注目されていないが、私たちは日本でこの分野における新たな事実に直面している。日本オンラインゲーム協会は新たに自主規制を敷き、それが今月初めに施行されたのだ。

ガチャ捕らわる

新しいルールというのはモバイルゲーム内のガチャ機能について定めたものだ。ガチャは収益を上げるための技術として日本では広く知られているが、欧米では最近まであまり知られていなかった。

ガチャ機能は日本で人気の「ガシャポン」というカプセルに入っておもちゃをランダムに売る自動販売機が元となっている。売り物がランダムに出てくるという点で、いちかばちかという要素が加わり、ガチャがギャンブルと類似していることは明らかだ。モバイルゲームではガチャの商品として特別なキャラクター、武器、パワー、ゲーム内イベントへの参加やその他のレアアイテムをもらえる。

ある時、ゲーム専門家のSerkan Toto氏と話していて気づいたのだが、ガチャ機能は宝くじのような原理を元にしているが、ゲームデザイナーはそれを各々派生させて利用している。(詳しくはSerkan 氏の多様なガチャ機能の解説を参照)

ビジネスモデルはクジラが作る

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ガチャ機能を用いるにあたり、モバイルゲーム制作側がターゲットとするのはギャンブルに大金を使ってくれる「クジラ」と呼ばれる人たちだ。特定のモバイルゲームのビジネスモデルにおけるクジラ層への依存度は測り知れない。マーケティング会社の Swrve による最新の統計では、プレイヤーの上位10%がモバイルゲーム全収益の半分近くを占めており、収益の48%は全プレイヤーのわずか0.19%によるものである。

12月31日、日本人のある「クジラ」ユーザが、Cygamesのグランブルーファンタジー内のガチャ機能でレアキャラを獲得するため一晩で6000米ドル以上も費やした。ヨーロッパのゲームスタジオには自社のゲームにガチャ機能を導入し始めたものもいくつかあるが、その技術は今日においてもヨーロッパでは何らかの形で制限されている。その要因の一つとして、ヨーロッパと日本の間でモバイルゲーム開発のプロセスにわずかな違いがあるからだと私は考えている(最下図参照)。

いずれにしても、政府による厳格な規制を避けるための策として、日本オンラインゲーム協会はモバイルゲームにおいて、2つの重要な制限に関する新たなガイドライン(アイテム取得の期待値は課金額の100倍以内とする、1プレイヤーあたり最大課金額5万円以下とする)を制定した。厳密に言えば、こういった業界の「ガイドライン」は法律ではないが、違反すればより厳しい政府介入を招くことをゲーム会社は承知しているのだ。

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この動きを株式市場は把握しているのか?

推奨銘柄を紹介するのは私のポリシーに反するので名前は出さないが、日本の上場モバイルゲーム会社の数々の株価を見れば2月中旬の反発以来かなり着実に上昇している。その時期はCygamesがグランブルーファンタジーのプレイヤーに対して自主的に払い戻しを開始した時期だ。日本オンラインゲーム協会によると、新たな自主規制ガイドラインは4月1日に施行したが、3月までは内容が未確定であったという。

各々のガチャ機能に関する道徳的見解がどうであれ、私はこれらの新しい自主規制(アイテム取得率を上げて課金上限を設けるもの)によって今四半期の売り上げは大きく減少するのではないかと考える。そして不思議なのは、なぜこの件にもっと株式市場が反応してこないのか、ということだ。

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