マシーンは人間よりクリエイティブな存在になりつつある

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Risto Miikkulainen氏はテキサス大学オースティン校コンピュータサイエンス・ニューロサイエンス学科の教授。ニューロ・レボリューションのパイオニアでもあるほか、AIのスタートアップSentient Technologiesのフェローも務めている。

 via Flickr by “A Health Blog“. Licensed under CC BY-SA 2.0.
via Flickr by “Horia Pernea“. Licensed under CC BY-SA 2.0.

マシーンはクリエイティブな存在になれるだろうか? AIにおける最近の研究成果によると、自動車の運転、会話の理解、物体の認識といった数年前には近未来のことだと思われていた多くのタスクを人間と同等レベルでこなせるようになっている。しかしこれら全ては、こなすべきタスクがわかっているものであり、マシーンは私たちの動きを真似ているにすぎない。正解が未知のタスクはどうだろうか? マシーンは自ら解決策を見つけ、人間が見出すことの困難なクリエイティブな解決法にたどりつけるようプログラム化できるだろうか?

その答えは間違いなくイエスだ! 進化的計算法や強化学習など、この問題にフォーカスしたAIの系統がある。話題のディープラーニングと同様、これらは最近のAIにおける成功の現れと目されるもので、 このAI系統は、最近20年間で何百万倍にも向上した計算能力の恩恵を受けている。宇宙船にはアンテナが設置されているが、あまりに複雑な構造なので計算能力の進化なしには設計され得なかった。オセロ、バックギャモン、そして最近では囲碁など、名人レベルの戦いができるように学習をするゲームプレイエージェントもある。 AlphaGoについて言えば、最高名人の能力すら超えてしまった。Unreal Tournamentにはプレイヤーでないキャラクターがいて、もはや人間のプレイとは見分けがつかない。 そのため、少なくともゲームボットとしてTuringテストをパスしてしまう。 金融では株式市場におけるコンピュータ取引があり、実際にマネーを動かせるほどに進化している。

こうしたAIエージェントは、特定の行動を起こすよう教えられていないという意味でロボティクス、ビジョン、会話処理でよく見られるものとは性質が異なる。その代わりに、可能性のある行動を考え、どれが最善の結果をもたらすかを決定することによって自ら最善の行動を学び取る。

こうした手法の多くは生物学に見られる適用行動をもとにモデル化されている。例えば、進化的計算法は生物学的な進化からその概念を取り入れている。その考え方は、候補となる解決法をコード化することで(ビデオゲームのプレイヤーのように) 、新たな方法の発見を目指して複数の方法を何度も組み合わせ、突然変異させるものである。

そして、多くの多岐にわたる候補の一群が得られると、並行検索法が適用されて問題を解決する1つの解法が見つけ出される。最も優れた結果を残すため、突然変異と再結合には一番有望な候補のみが選択される。このような方法で、可能性のある候補の集団全体からほんの一握りが実際に問題を解決する方法として採用されるよう、検索をしなければならない。うまくゲームをプレイする、というように。

私たちはこれと同じアプローチを、候補の質をコンピュータ的に評価できるドメインにも適用することができる。先に述べた宇宙船のアンテナのようなデザインドメイン、フィンレスロケットのコントロールシステムのデザイン、複数の足を持つ歩行ロボットなどに応用されている。進化の結果、まったく予想されない形で解決策が出てくることもあるが、それでも効果はある。別の言葉で言えば、クリエイティブな効果だ。

一例を挙げると、 障害物の周りを動くロボットの腕を操縦するコントローラを作業しているとき、何らかの事故でメインモーターが動かなくなった。垂直方向に回転ができなくなったためターゲットに到達できなくなってしまった。それに対しコントローラは進化して、ゆっくりとターゲットからアームを離し、残りのモーターを使って実に一生懸命動き、慣性でロボット全体をターゲットの方に向けたのだ!

私が思うに、この分野で最も目新しく最もエキサイティングなのはコンピュータによるデザインの創造性に関する取り組みだ。これも生物学からモデル化されたものだが、新たに出てきた考え方は次のようなものだ。進化的なコンピュテータ計算は特定のデザイン上の目的を最適化するよう設定されるべきではなく、単純に新しい解決法を見出すよう設定されるべきというものだ。少しずつ改善して解決しようとする場合、多くの難しい問題は見た目に惑わされやすく、作業が止まってしまうだろう。

これに対し新規性の検索は、パフォーマンスが悪くても高度にユニークなアプローチをする候補といった足掛かりを見つけようとする。本当の意味でクリエイティブな解決法では、こうした候補の新たな機能を、稼働している解決法と組み合わせることによって見つけ出せる場合がある。例えば、二足歩行ロボットが早足歩行で進化するのは、 徐々に歩く速度を早めようとすることによってではなく、できるだけ早く、そして一生懸命取り組んでも失敗することを許容し、 段階を踏んでその失敗が起きないようにする方法を進化させることによってなのである。

コンピュータの創造性のおかげで私たちは多くの新しい応用事例を目にするようになった。ただし、その多くを私たちはまだ実感していない。可能性のある解決法が自動的にテストできるようなデザイン上の問題に直面しているときは、その解決法を自動的に進化させることができるだろう。 かつてコンピュータがデザインの下絵を描くのに使われていた分野で起きる自然な変化は、進化的検索をさせることだ。

これにより人間のデザイナーは、作るのが容易な機械部品やリスクを最小化する株式ポートフォリオ、さらには多くのコンバージョンをもたらすウェブサイトなど、そのアイデアで多くのトラクションを獲得できる。他の分野では、コンピュータがデザイン上の問題を定義するためにはいくらかエンジニアリング面での取り組みが必要になるかもしれないが、フィンレスロケット、新しいビデオゲームのジャンル、個人仕様の予防薬、より安全で効率的な交通など、まったく新しいデザインという形で報われるかもしれない。

そして、時間が節約されるので、私たち人間はクリエイティブな目標追求のための時間を確保することができるようになるだろう。

【via VentureBeat】 @VentureBeat
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