スタートアップのレジェンドYossi Vardi氏を招き、シンガポールで「InnovFest unBound」が開幕

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本稿は、InnovFest unBound Singapore 2016 の取材の一部だ。

例年この時期になると、シンガポールでは Smart Nation Innovations Week が開催される。Smart Nation とは、シンガポール政府が小さな国家であることを武器に、積極的に ICT を取り入れ、さまざまな規制緩和を実施することで、シンガポール人にとっても国際企業にとっても、便利な社会環境を実現しようとするイニシアティブだ。期間中は、さまざまなテクノロジーイベントが開催され、多くの場合、欧米に端を発するの有名テクノロジーイベントのアジア・バージョンで構成されている。

昨年は、ロンドン発の Founders Forum のアジア版が Raffles Hotel で開催され、ブロガーの Robert Scoble(UploadVR)や Mike Butcher(TechCrunch UK)など有名人も招かれていた。今年は、InnovFest unBoundForbes Under 30 Summit AsiaTech SaturdayBig Bang Data という4つのイベントで構成され、一週間を通しての参加者のべ人数は1万5,000人に上る見込みだ。その幕開けとも言える InnovFest unBound が17日、3,000人以上の参加者、350以上のブース出展者を集め、シンガポールを象徴する Marina Bay Sands で始まった。

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InnovFest unBound はロンドンを拠点に開かれているスタートアップ・カンファレンスで、オーガナイザーである unBound Media(または、AcreWhite という名前でも呼ばれる)の CEO Daniel Seal 氏は、イスラエル出身の伝説的起業家・投資家の Yossi Vardi 氏とともに、さまざまなスタートアップ活動を行っている。ICQ の発明者としても有名な Vardi 氏は、母国イスラエルでのカンファレンス DLD のチェアマンに加え、スペイン・バルセロナの Mobile World Congress で併催される 4YFN(4 years from now)の創設者でもある。InnovFest unBound がシンガポールで開催されるのは2回目ということだが、今回は NUS Enterprise(シンガポール国立大学の起業支援組織)が共催者となっており、Vardi 氏を牽引役に、世界中のスタートアップ・ハブのエッセンスをシンガポールに持ってきました、というのが、今回のイベントに隠された文脈のようだ。イスラエルが世界中から Startup Nation と呼ばれていることになぞらえ、シンガポールを Smart Nation と呼んでほしい——そんな意図も感じられる。

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InnovFest unBound Singapore 2016 オーガナイザーの Yossi Vardi 氏(右)と Lily Chan 氏(左)

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イベントの冒頭、シンガポールの Daniel Seal 氏、Yossi Vardi 氏らとともに登壇した、シンガポールの Smart Nation 担当大臣 Vivian Balakrishnan 氏は、

シリコンバレーやイスラエルのモデルを、そのままシンガポールにコピーしたとしても成功しない。若い世代は、それぞれが新しいライフスタイルを探求していて、それにあわせてアプリを作り、世界を変革させようとしている。我々は、彼らを支援するためにここにいるのだ。(中略)

(シンガポールの研究学園地域の)One North で無人車の実験が始まっていることに象徴されるように、シンガポールは(規制を緩和して実験活動を促進する)regulatory sandbox としての存在でありたい。

…と語った。

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Yossi Vardi 氏(右)に質問を受ける、シンガポール Smart Nation 担当大臣 Vivian Balakrishnan 氏(左)

あわせてこの日、Blakrishnan 氏は、シンガポール首相府傘下の NRF(National Research Foundation、シンガポール国立研究財団)が、不動産大手の Capitaland Limited、IT大手の DeClout、農業ビジネスの Wilmar International、サプライチェーン大手の YCH Group の4社それぞれの CVC に対し、1,000万シンガポールずつ(約7.9億円ずつ)を拠出し、スタートアップの育成を助成することを表明した。

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スタートアップ350社のカオスなブース空間

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出展者350社に上るスタートアップ・ブースにも圧倒され、その様子は、まさにカオスという表現が的確かもしれない。ロシアの Skolkvo、イタリアの Italia StartupOrange Fab Asia などなど、世界中のスタートアップが結集し、所狭しと来訪者にピッチを行っていた。典型的なスタートアップ・カンファレンスと異なり、Smart Nation の期間中は、NUS(シンガポール国立大学)や各種 Polytechnic(技術専門大学)などの研究成果も披露されているのが特徴的だ。ビジネスモデルなどはまだ無く、基礎的な技術研究に終始しているものが多いが、これらの中から世界の明日を変える発明が出てくるのかもしれない。

アジアのスタートアップ市場では、VC やアクセラレータ/インキュベータが飽和状態え、互いの競争や差別化は激しいものになりつつある。特に、アクセラレータ/インキュベータについては、いわゆる Y Combinator モデル追随型の一辺倒から、WeWork に代表されるコワーキング・スペースのチェーンモデルと、アメリカの Expa や日本の Mistletoe に代表される Startup Studio のモデルに二極化しつつあるようだ。

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会場では、起業家とともにプロジェクトを立ち上げる Startup Studio に何社か会うことができた。VC(および投資資金)とスタートアップの需給バランスから見て、現在は VC にとって投資条件にはまる有望スタートアップが不足する中、VC においても、ハンズオン・サポートを強調するところが増えてきているので、これは時代の流れかもしれない。

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Santora Nakama(日本語の「三虎仲間」に由来)はバンコクのシーロムに拠点を置く Startup Studio で、アイデアを持った起業家を迎え入れ、ともにプロジェクトを立ち上げることを目的としている。シンガポールにも拠点を持っており、フォローオンの資金調達やパートナー探しにも協力しているそうだ。

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シンガポールの AppLabx も同様に Startup Studio を運営している。物理的な拠点は持っていないので、仕事場が欲しいスタートアップは別途コワーキング・スペースなどと契約する必要があるが、むしろ、それ以外のビジネス開発やシステム開発の側面から起業家を支援するとのこと。Managing Director の Gilbert Neo 氏によれば、オープンイノベーションのような大企業が顧客なわけではないが、新しいものを開発したい課題を持つ中小企業を顧客に抱えており、彼らに予算を拠出してもらって、スタートアップを支援するモデルのようだ。

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シンガポールのテレビ局 Channel News Asia や Media Corp、新聞の Straits Times などを運営するコングロマリット Singapore Press Holding(略称 SPH)と、シリコンバレー・サニーベイルのアクセラレータ Plug & Play Tech Center がシンガポールで共同で運営する SPH Plug & Play は、メディアビジネスに特化したスタートアップを育成するアクセラレータだ。現在進行中のバッチからは Hyperlinked.io というスタートアップが出展していた。

ブログやニュースサイトの「関連記事(ネイティブ広告を含む)」よりも、文中のハイパーリンクの方がクリックされる可能性が高いことに着目。一般的なニュースサイト(英語の場合)では、一つの記事に平均7つの固有名詞が含まれることがわかっており、これらを独自開発のエンジンにより、同じサイト内の関連記事やネイティブ広告にハイパーリンクで関連づけることで、ビジターの回遊率アップに貢献する(サンプル記事)。StraitsTimes が導入している Outbrain や、Los Angeles Times が導入している Taboola といったレコメンドエンジンがコンペティター。現在、エンジェルラウンドで35万ドル(米ドル)を調達中だ。

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タイから出展している Matrix DSLRs Control Suite は、12台の DSLR(一眼レフ)が組み合わせられたパッケージで、映画製作者などが一つの被写体を同時に違うアングルから撮影するのを可能にする。撮影しておいて後からポストプロダクションでアングルを決めたり、複数アングルの映像が必要になる 3D 映画の撮影に使ったり用途は数知れない。DSLR を12台も使っていることから、高価であり、重量も相当なものになるので移動撮影には適さないが、聴衆には今までに見たことのない映像体験を届けることができるソリューションだ。

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ベトナム発の emoTalks は、例えば、オフィスの受付嬢や営業系社員の表情をモニタし、画像認識によりスマイルの度合いを測定。スマイルが足りなければ、上司を通じて、または、直接本人に改善を促すプラットフォームだ。日本などの先進国で導入すれば、社員の精神衛生上よくないとの批判を浴びる可能性はあるが、スマイルが少ないと言われる旧共産圏のサービス業などでは高価を発揮するかもしれない。

Urban Experience

最後に、1日目のイベント終了後に、チャイナタウン近くのナイトスポット Ann Siang Hill(安祥山)のバーやパブなど8店舗を貸し切って行われた「Urban Experience」と名付けられたミートアップ/パブクロール・パーティーの模様で本稿を締めたい。各店舗ごとに、NUS Enterprise、SingTel Innov8 らがスポンサードする形で、夜遅くまでイベント参加者にビールやワインが振る舞われた。

なお、InnovFest unBound の2日目には、ユニリーバがスポンサードするスタートアップ・ピッチコンペティションの模様を中心にお伝えする予定だ。乞うご期待。

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