進化を続けるウィーンの Pioneers Festival、「良いスタートアップイベント」づくりの秘訣とは?

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Pioneers Festival 2016より。オーストリアのクリスティアン・ケルン首相も登壇。
Pioneers Festival 2016より。オーストリアのクリスティアン・ケルン首相も登壇(著者撮影)

ヘルシンキのSlush、ダブリンのWeb Summit、ケルンのPirate Summitなど、数千名〜数万名規模の欧州を代表するスタートアップイベントはいくつかあるが、ウィーンで開催される Pioneers Festivalもまた欧州では有名なスタートアップイベントの一つだ。

今年もまた、Pioneers Festivalは5月24日・25日にウィーンの宮殿で開催され、約3000名の起業家・投資家・企業担当者などが集まり、盛況を博した。今回のPioneers Festival のイベントの様子、また主催者の考える「良いスタートアップイベントのデザイン方法」についてレポートしたい。

良いマッチングを実現するためには「量よりも質が大事」

「スタートアップイベントはあくまでビジネス機会を広げることにフォーカスするべきです。イベントによって、本来出会うのに時間がかかるような出会いの機会を増やせることが大事だと思います。」

「良いスタートアップイベントとは何ですか?」という筆者の質問に対して、PioneersのCEO・コーファウンダーのAndreas Tschas氏はこう答えてくれた。

「本来出会うのに時間がかかるような出会いの機会を増やす」。つまり、投資家と起業家、起業家と企業担当者のマッチングを効率的に実現することは、Pioneersが注力しているポイントの一つだ。

確かに、筆者の周囲の人々の意見を伺う限りは、スタートアップイベントがリピーターを失う原因の一つに「イベントが大きくなりすぎる」という点がある。つまり、参加者層が広がりすぎると、出会いたい人に出会える機会が減ってしまうのだ。

PionnersのCEO・コーファウンダーのAndreas Tschas氏
PionnersのCEO・コーファウンダーのAndreas Tschas氏

この点に関して、Pioneersは質の良いマッチングができるように気を配っており、参加者は回を重ねても2500人〜3000人に収まるように調整している。「量よりも質をとっています」とTschas氏は言う。

参加者の質を保つために、主催者は「Pioneers Challenge」というプログラムを通じてスタートアップを募り、選考を突破したスタートアップでなければ参加できないようにしている。今回は500のスタートアップ枠に対して、4000の応募があったそうだ。また、7つの領域ごとにスタートアップを分けて、特定領域のスタートアップの数が偏らないようにしている。

こうして選ばれたスタートアップ約500社、300名ほどの投資家、その他企業担当者や政府関係者、メディアなども集めて、参加者の属性がバランス良くなるように考慮されている。

また、人と人をつなげるという点に関しては、オンラインのマッチングシステムも導入しており、参加者だけがログインできるページから、会いたい人に事前にメッセージを送ってミーティングをアレンジすることも可能だ。二日間という限られた時間を参加者が最大限に活用できるような工夫が凝らされている。

そして、会場内のレイアウトも、個別ミーティングに使えるスペースにかなりの場所が割かれている。

オープンな会話を促進するための、カジュアルな雰囲気づくり

「伝説のVC」Tim Draper氏は、「スタートアップを励ます歌」を壇上で熱唱した。
TeslaやTwitter、Skypeに投資をした VC、DFJのファウンダーTim Draper氏は「スタートアップを励ます歌」を壇上で熱唱した。

もう一点、イベントづくりにおいて気をつけていることとして「参加者同士がオープンな会話ができるように、リラックスできる、カジュアルな雰囲気をつくることも大切です」とTschas氏は言う。

「カジュアルな雰囲気づくり」という点では、確かにPioneersは秀逸だ。まず、各会場は照明や音響に工夫がこらされていて、特にメイン会場はコンサート会場のようだ。

気の利いたジョークを挟んでテンポよくプログラムを進行する司会、プログラムもエンターテイメントの要素が取り込まれている。シリコンバレーの著名投資家Tim Draper氏が「スタートアップを励ます曲」を壇上で熱唱したり、生体チップをその場で手首に埋め込む実演デモがされたりと、聴衆が飽きないようにうまく練られている。こうした「楽しさ」は、参加者同士の心理的な距離を縮める上で重要だ。

オーストリア首相も登壇「スタートアップと協力することが大事だ」

会場は宮殿だ。シャンデリアで装飾された華やかな内装がスタートアップ色に染まった。
会場は宮殿。シャンデリアで装飾された華やかな内装がスタートアップ色に染まった。

Pioneersが立ち上げられたのは2012年のこと。「テクノロジーの力で個人の力が強まっている時代において、もっと起業家と企業が結びつく機会があるべきだと思った」とTschas氏は言う。起業家・スタートアップと投資家・企業を結びつけるプラットフォームとして誕生したPioneersは、年々進化を遂げてきた。

中でも今年のプログラムの目玉の一つはオーストリア首相の登壇だった。今月5月17日に就任したばかりのクリスティアン・ケルン首相は初めて公の場に姿を表す場所として、スタートアップイベントを選んだ。「失業率を下げ、競争力を高めるためには、スタートアップと協力することが大事だ」と首相が壇上で話すと、会場からは大きな拍手がわいた。

「今ここで約束をしてくれませんか? さらに私たちとの議論を深めるために、来年もまたPioneersに来てくれませんか?」とTschas氏がステージ上で首相に嘆願すると、首相は「分かった。だが、議論を深めるためになぜ1年待つ必要があるんだ?」と巧みに回答する一幕もあった。

今年は3月に東京で「Pioneers Asia」が開催され、アジアにもそのネットワークを広げているが「ぜひ、次回東京でPioneersを開催した際には、安倍首相にも来てもらいたい」とTschas氏は意気込む。

ここ1、2年では、世界中で良いスタートアップを発掘する取り組み「PIoneers Discover」が始まったり、スタートアップにシード投資をする「Pioneers Ventures」がローンチしている。Pioneersは、イベントを超えてその活動とネットワークを拡大し続けている。

以下は今回のイベントの様子だ。また、会場で出会った個々の起業家・スタートアップの話は、後ほど別途お届けしたい。

ARアプリを開発するBlipper
ARアプリを開発するBlipper
スタートアップに必要なノウハウを学ぶ「Academy」の部屋
スタートアップに必要なノウハウを学ぶ「Academy」の部屋
Product HuntのAndreas Klinger氏とBinary Capitalの Jonathan Teo氏のセッション
Product HuntのAndreas Klinger氏とBinary CapitalのJonathan Teo氏のセッション
スタートアップのピッチブース
スタートアップのピッチブース
会場入り口
会場入り口

pioneers2016 - 9

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スポンサー企業のブースエリアも多くの人でにぎわう
スポンサー企業のブースエリアも多くの人でにぎわう
参加者のエネルギー補充のためにドリンクや軽食も常に提供されていた
参加者のエネルギー補充のためにドリンクや軽食も常に提供されていた

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