迫られる検索の進化ーーAmazonやFacebook、AppleはGoogleのお家芸「検索」でいかにして勝てるか

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Ivan Bercovich氏はGraphiqのエンジニアリング部門VPで過去6年間ナレッジプラットフォームの開発を指揮してきた。

Image Credit: Anthony Ryan, Flickr
Image Credit: Anthony Ryan, Flickr

過去20年間私たちが目の当たりにしてきたすさまじい技術革新(スマートフォン、クラウドコンピューティング、ソーシャルネットワーク)とは裏腹に、検索のインターフェースとその基本構造はほぼ変わらずに停滞が続いている。

2000年代前半によく目にしたポータルは、今日でも私たちが主に目にしているものである。空欄の入力ボックスやユーザーが入力するクエリ、ウェブページや文書につながる青色のリンク先などは何も当時と変わっていない。

私たちは検索技術を「最先端」の生産物で、何にでも答えてくれるインデックスだとみなしている。でも考えてみてほしい。検索するにあたって、あたかもスキルであるかのように人をグーグル「上手」と表現するのはおかしくないだろうか? もしこれが人と人とのコミュニケーションなら、自分が「賢い」友人に何かを尋ねるとして、必要な情報を引き出すためには「上手に」質問しなければ、とは思わないだろう。

友人は、自分がどんな言い回しを使ったとしても意図を汲み取ってくれるだろうし、曖昧な部分は問い返してくれるだろう。もし質問が漠然としていたら、もっと詳しく聞き出してくれるだろうし、マニアック過ぎてわからないなら、わからないとも言ってくれるだろう。

サーチが機能していない理由

長年積極的に資金が投入されてきたにもかかわらず、サーチ技術は未だに現代の世の中において重要で明白な問題点を解決するには至っていない。その主な原因は以下の通りだ。

権威者不在

インターネットが始まった当初はデジタル知識人がコンテンツを作成、共有していた。多くの問いに多くの回答があり、その答えは信用できるものだった。いまや誰もがシステムを作成、操作でき、インターネットはスパムとネット荒らしで溢れかえっている。

権威を得ることが困難になり、手にする情報を読み解く必要が出てきたばかりではなく、情報源が信用できるものなのかも考えなければならなくなっている。結局のところ、手にした回答が正しいのか間違っているのか見分けもつかない。Googleはスパム対策である程度の前進をみせたが、スパマーと検索との冷戦はパラダイムシフトが起きるまで続く運命にあるのだろう。

高すぎる期待値

現代人のデータに関する知識が増大し、事実やデータに裏付けされた検索が当たり前だと思われている。今の時代、誰もが複雑な問いかけを発している。

以前は良いスキー場の検索で十分だったのに、今では、どこどこのスキー場が最も標高差のバランスがとれていてとか、スキーができる範囲や積雪量はどのくらいか、などの検索に変わっている。ピンポイントな質問項目に対するピンポイントな回答が求められている。

インターフェースの縮小

以前はモバイルのインターフェースと言えば、デスクトップの縮小版と捉えられていた。けれども、これが旧来のGUIからシフトする方向にある。スペースには限りがあるため音声入力のインターフェースに人気が出ている。

従来の青色のリンクで示される検索結果と、その先にあるページや広告表示のパターンはモバイルの世界ではどうも使えない。

情報化時代の到来で、人々はますますデジタルに精通し、テクノロジーがどんな複雑な質問にも答えてくれるという期待値が高い。特に、それは人々が忙しく動き回っている最中に顕著だ。スローなネット体験や、流れを中断するような広告、回答が得られないシステムなど許容できなくなっている。

未来の検索の姿 -ー 権威の強化、精密さ、適応性

これからの情報検索はどうなっていくのだろうか? はっきりしたことはわからないが、以下の点を無視できないのは明らかだ。

権威。コンテンツをまとめる力と編集監督のレベルを引き上げ、権威を強化する。

精密さ。ユーザーのニーズを正確に把握し、それをユーザーの負担にならないように的確に提供する能力。

適応性。社会がテキストを超えたメディア形態(データ、ビデオ、および視覚化したもの)も消費するに至ったと認識すること。さらには、適正なフォーマットで適時にユーザーに提供できるようにすること。

私たちは、聞きたいことがあれば誰でも情報を自由に入手できる世界を作った。広告やオンラインの評判などインセンティブになる環境が整い、知識を共有するモチベーションになっている。

しかしこのシステムでは情報は断片的で作成工程をほとんど必要としない。Stack OverfowやQuoraなどのコミュニティでは「専門知識」を快く提供する人が大勢いるが、それは常に信頼要素と同調しているわけではないのだ。

さらに、百万のソースの中から少しずつ編集を加える無数の小さなウェブサイトを維持し続けるのには無理があり、ユニークで、ロングテールな質問に対する答えを提供する場としては不十分で、拡張性も新鮮さもない。次世代の検索を築くには、コンテンツの目録を作るだけでは不十分なのだ。

ナレッジグラフが新しい検索をパワーアップさせる

Google Mapsは未来のサーチがあるべく姿をあらわす良い例である。そこにはナレッジグラフが供給する拡張公的データがある。

Googleには常時エラー訂正を行う数千人ものスタッフがいて、住所を解読する機械学習クラスタや、地表レベルのデータを収集している車、写真を撮る衛星、持続的にアップデートを送信している数百万の電話もある。このインフラをもってGoogleは世界をリアルタイムで描写したり、一度も尋ねられたことがない地理空間の質問にも答えられることができる。

人々がより複雑な質問をするにつれて、検索の未来は掘り下げた単一知識の似通ったモデルを受け入れる必要があるだろう。これは複雑さとインフラがプロセスに組み込まれていなければ不可能である。同レベルの複雑さとプロセスが将来のデータドメインに適用される必要がある。

Googleはさらに構造化された回答を提供し始めたけれども、まだまだ情報は不十分だ。特定の検索は他のコンテンツをクローリングするという土台の上に成り立っている。これらのデータはどこから来るのだろう? Googleは立ち位置を変えてコンテンツ制作者になるのだろうか。

Googleは積極的にナレッジグラフに投資しているが、唯一無二というわけではない。Microsoft、IBM Watson、Apple、Yahooなど他にも多くあり(筆者のいるGraphiqも含まれる)、それぞれがナレッジグラフの開発に取り組んでいる。

ナレッジグラフでは人々が詳細な方法で質問ができて、瞬時に答えを得ることができる-たとえまだ誰も聞いたことがない質問であっても問題ない。検索の未来には十分な領域と、情報における精密さ及び瞬時に結果が提供できる必要性が求められる。

Googleのジレンマ

検索を次の世紀に導く、強くて明白な立役者であるにもかかわらず、Googleはイノベーションのジレンマという、成功したテクノロジー企業がどこも乗り越えなければならない大きな課題に直面することになるだろう。

Googleはデスクトップの世界で進化していった。そのため検索はコンテンツと広告を並べて表示するという方法が意にかなったものだった。

しかし今の時代はデスクトップの世界ではない。収入の90%を広告でまかなっている現状で、どんな方向転換ができるだろう? モバイル広告が予想通りに機能しない場合はどうなるだろうか。Apple Watchでの広告表示は? 音声インターフェース(Siriなど)の場合など、広告収入がどのくらいになるかわからない場合はどうしたらいいのだろうか。

それぞれのパラダイムシフトに伴い、現職者を守っている壁が弱まり、新しいプレーヤーに活躍の機会が与えられるだろう。モバイルは既に検索の世界に対して進化を迫る大きなプレッシャーを与えてきた。そして対話型インターフェース(音声とメッセージング)への差し迫った推移はいっそう強く推し進められていくだろう。

Googleは多くの点でこの新しい世界に君臨できる有利な立場にいる。データとエンジニアリングの専門知識を有しているからだ。しかしこれが故にGoogleはイノベーションのジレンマに陥っている。

もし自らの手で市場に革命を起こすようなことがあれば、自社の純利益はさらにダメージを受けることになるだろう。そして、他の企業が行動を起こした場合は、Googleは革新的ではなくなるが、金銭面では長く安泰することになるだろう。

Apple、Facebook、Amazonという手強いライバルたち

情報検索の億万長者ビジネスを引き継ぐ競争者には誰がいるだろうか?

Apple – API開放によって新機会が作れるか?

予測されていたことだが、AppleのTim Cook氏は今週WWDCで、Siriをデベロッパーに開放すると発表した。しかもそれだけにとどまらず、Appleは積極的に新しいエコシステム開発と対話型インターフェースにも投資していくそうで、iMessageもデベロッパーに開放するそうだ。いくつかのキラーアプリがサーチエンジンの市場占有率を形成していくことが予測される。

例えばスポーツのスコア及びデータ分野、ニュース、レストランのレビューなどだ。Appleの新しいAPIは好機会を作り出すのに十分な力強さがあるだろうか?どのくらいの早さでiPhoneユーザーが(もしあるのなら)新しいパラダイムを受け入れるだろうか?また対話型アプリの本格的開発までどのぐらい時間がかかるだろうか?

Facebook – 対話型アプリへの移行

Facebookは知的アシスタントMの最初のリリースではインパクトを与えることはできなかったが、CEOのMark Zuckerberg氏は迅速にAI技術の開発に取り組んでいる。

MessengerとWhatsAppは世界最大のチャットプラットフォームであり、スマートフォンユーザーはiMessageのようなiOSのネイティブアプリではなく、Facebookが所有するこれらのアプリに長い時間を費やしている。スタンドアローンアプリから対話型アプリに移行していくことはFacebookにとってAppleより優位に立つきっかけになるかもしれない。

Amazon – Alexaの浸透が鍵になる

Amazonは今興味深いプレーヤーである。小売業から収益を得ているので、折々の売り上げがある限り、理論的には24時間無料でサービスの提供ができる。それに対してGoogleは収入源の90%が広告である。

Alexaのリリースによって、検索の将来を担う可能性があるかもしれない。自社のビジネスモデルを損なうことなく、さらに強化していけるからだ。人々をAlexaと話すことに慣れさせることで、Amazonとの対話にも慣れさせていける。これが何につながるかというと、購買の増大だ。Amazonは広告収入には興味がない。購買力がすべてだ。

どのプレーヤーが上記の未来を実現できるのだろう? Googleはマップの分野で成果を出したが、一般的な検索では何も新しいものを生み出せず苦戦している。Bingは構造化された検索ではいくつか興味深い成果を上げたが、Googleと比べるとそれほど革新的ではない。

Siriは早いスタートを切ったが、Appleはさらなる開発を長年遅らせている。Facebookには良い発案があったものの、具体化していない。IBM WatsonとアカデミックのWolfram Alphaは勝負に出たが牽引力はみられない。

その他小規模なプレーヤーでは、GraphiqやViV、Houndが出てきた。検索の将来を担う競争が始まったが、この歴史的な大きなビジネスの勝敗がどうなるのか、行方はまだわからない。

一つだけ確実に言えることは、誰が勝ったとしても、勝者は全世界で最も大きなデータライブラリを作ることになるだろう。

【via VentureBeat】 @VentureBeat
【原文】

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