アーリーステージのボット投資家による7つの予測

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現在、ボット業界にいる Facebook、Microsoft その他170以上の企業は、チャットプラットフォームの内部にソフトウェアを埋め込もうとしている。ボットが世界最大のプラットフォームの一部になりつつある中、テックやビジネスをどのように変えるかという議論が広く行われるようになっている。

そういった経緯から3人のアーリーステージベンチャーキャピタリストが今週(9月12~13日)サンフランシスコで開かれた Intelligent Assistants Conference に招かれ、ボットやインテリジェンスアシスタントの将来について語った。

Sarah Guo 氏は Greylock Partners に所属。同社は、ヒトと AI の専門家をつなぐボットの Operator や、SMS で利用できる栄養士ボットの Rise に投資している。彼女は、ボットの影響について綴った人気作『Clippy’s Revenge』の著者でもある。

Phil Libin 氏は General Catalyst のマネージングディレクターで、昨年は BeginGrowbot、Butter を含む5社のボットスタートアップに投資した。今後数年で複数のボット事業を立ち上げる計画がある。

Joshua Kauffman 氏はアーリーステージの投資企業 Wisdom のゼネラルパートナーで、ボットは人を賢くする手助けができるほか、個人用アシスタントとしてではなく教師としても機能できると考えている。

3人とも、ボットや人工知能を製作しているスタートアップによるピッチを時間をかけて聞いていた。そして、まだ揺籃期のこの業界に対し一家言ある人たちだ。以下、将来ボットが私たちの生活をどのように変えていくか、彼らの予測を紹介しよう。

ユーティリティ志向のボットの登場

複雑な AI で動くボットは今日多くの関心を呼んでいるが、企業のタスク実施や顧客とのコミュニケーションを手助けするような、単純で派手さのないボットも強力な力を発揮することになるだろう。

Guo 氏は何億人ものユーザを抱える Line、Messenger、WeChat といったプラットフォームに言及しつつ、こう語った。

もっとユーティリティ志向のボットが増えると思います。伝統的な企業やこれまで実際に投資を行ってこなかった企業(成功を収めたモバイルネイティブアプリなど)にとって、こうしたプラットフォームを活用できる機会は実際たくさんあるでしょう。これは最新の配信チャネルになったり、理論的にも巨大なインストール基盤を獲得できるという便益があります。

彼女はチャットプラットフォームが大きな役割を果たすと考えている。その理由として、モバイル、プッシュ通知がある、そしてアプリのインストールを必要としないことが挙げられる。

これは私たちに関係あるなしに関わらず、一連のユースケースにとって実に魅力的です。伝統的な企業の手助けとなる、ユーティリティの会話や送信による会話を可能にする機会があると個人的に思っています。しかしそこには違ったユースケースの場面があるでしょう。興味深いのは、単に人間と AI の完全な会話のように見えるだけのものではないということです。(Guo 氏)

ボットは人を賢くする

Kaufmann 氏の企業は、優れた知能を活用して人が生活できるよう支援するスタートアップに投資している。そのため、彼はインテリジェンスアシスタントやチャットボットに関心を抱いている。

Kaufmann 氏は、「私たちの人生、寂しいときがあるものです。手助け、反省、 広い視野を必要とするときもあります。でも適切なときに適切な人がいるとは限りません。そこにテクノロジーが入り込む余地があります」と述べている。

人はいつでも関係を求めています。人がそこにいないとき、チャットボットが入り込める機会があるのです。今後数年、この世の中でもっとテクノロジーを身につけると、私たちの究極の目的は創造性その他の事柄に加え、お互いに会話をすることだということがわかるでしょう。ですから、チャットボットやインテリジェンスアシスタントと交わされる会話が多くなります。(Kaufmann 氏)

ボットは聴衆の一人になる

Kauffman 氏によると、ボットは私たちのチャットプラットフォームでの行動様式を変えるという。 人はボットを聞き手の一部と認識するようになるからだ。

人が一番恐れるのは、自分という存在が周りに受け入れられないという感覚だと思います。それこそ、ソーシャルテクノロジーを現状のようにとらえている理由です。人間の存在意義に対する究極的な動機は、観衆や聴衆を手に入れたいという欲求です。

Kauffman 氏はそれを健全な動機だという。聴衆は私たちの人格を形成し、正しい方向に導いてくれるからだ。

ボットは人と同じように有名になる

ボットの発見可能性について議論している間、Libin 氏は現在のアプリより多くのボットが現れるという意見を呈していた。ボットの発見は、私たちが有名人を見つける方法と同じものになろうとしているという。

それを考えると、私たちはどのようにして人を見出だすのでしょうか?確かに、人は有名になるのです。ではどのようにして有名になるのでしょうか?そう、ボットも同じようにして有名になれるのです。何かすごいことをしたり、適切なときに適切な場所にいたり、適切な人や他のボットの周りにいたりすることで有名になるボットが現れるでしょう。今、人を有名にしているものと、今後ボットを有名にするものは全く同じでしょう。発見可能性とは、そうした方向に向かって行くのです。

App Store の発見モデルではほとんどのアプリが埋もれて日の目を浴びないと言う人もいるが、Libin 氏によるとそれは実は健全なのだという。

なぜなら、平均的なアプリなど発見されるに値しないつまらないものだからです。本当に良いものを作りたいのなら、App Store をのぞいてみてください。良いものは人の目につき、評価が広がっていくものです。

つまらないボットにはロングテールがある

有名なボットが登場するという予測の次に、Libin 氏はボットに対して楽観的になれる理由はたくさんあるとはいえ、ほとんどのボットは大多数のアプリと同様につまらないものだという。

200万のボットをチェックするのが大変に感じるようなら、状況はさらに悪化するだろう。

今後2~3年以内に1億のボットが現れて飽和状態になるでしょう。平均的なボットを作るのはアプリ製作よりもずっと簡単だからです。つまらないアプリを作るには数時間、これに対してつまらないボットの作成は数分で済みます。場所によっては人の数よりボットの数の方が多くなりますので、平均的なボットは粗悪で使えない巨大なロングテールになるでしょう。(Libin 氏)

全体の数は意味のないものになりますが、良いボットは日の目を浴びて評価され、人が有名になるようにボットも有名になっていくのです。(Libin 氏)

状況によっては、人はボットに話しかけたくなる

カスタマーサービスに関して言えば、ある企業はボットを人のように見せようとしているという。顧客の多くは人と話したいと思っているというのがその理由だ。

Guo 氏はこれに賛同しない。「私はそれが正しいと思いません。慣れの問題だと思います。」

現在、人がフリーダイヤルに電話をかけるのは、それが一番早い問題解決法だと往々にしてわかっているからである。しかし Guo 氏は、ボットがより複雑な質問に対処できるようになれば状況は変わるとみている。そして実際、人ではなくボットに話しかけることで満足してもらえる状況も出てきている。

中国では何百万人もの人が英語の勉強をしているが、英語で他人と話す自信が持てない。

無限に待ってくれて、やり取りが簡単にでき、ネイティブの英語話者のような発音をしてくれる」ボットに話しかけられるなら、「社交上の負担も減り、不安もほぐれるでしょう。(Guo 氏)

Libin 氏は、このユースケースでは人よりもボットに話しかける方が好まれると考えている。ボットは優れた言語学習の教師になれるという。

ネイティブの英語話者ほど知的で機知に富まないことがあるかもしれませんが、発音を良くするという限定的な目的であればボットの方が優れている可能性があります。(Libin 氏)

こうした議論がなされるまで認識をしていなかった Libin 氏は最近、言語学習ボットを製作している企業に投資した。

彼によると、ともかくボットをアシスタントや人間もどきのように考えてはいけないという。彼が見るところ、ボットはサービスアニマルのような存在だ。会話をこなすのは不十分かもしれないが、特定のことであればとても上手にできる。

ボットはある特定の単純なタスクをこなせるかもしれないが、教育はそれに当てはまらないという意見もある。Kaufmann 氏はそのうちの1人で、やがては AI で動くボットが英語教師の能力を超えるという考え方を否定している。

今後5~10年以内に教師の役割を果たすボットを難なく製作できるという考え方には疑問を強く感じています。教師と生徒の関係は理解するのが難しく、多くの感覚や観察事項をコードに読み込ませるのは不可能です。(Kaufmann 氏)

大いなる変革の始まり

火曜日(9月13日)の長時間の議論を通して、投資家らは投資に関する質問を1つ受けた。 それは、大手プレーヤーはボットの開発にがんじがらめになっているのか、それとも投資機会の展望の始まりにすぎないのか?というものだ。

Libin 氏はこう述べた。

私は始まりにすぎないと思っています。テクノロジーはこの7~8年で S 字カーブの動きをしていますが、その間多くの基礎的なモノが開発されています。そうしたスタートを切った企業は今後7~8年の次なる成長に向け力をつけています。この成長はやがて横ばいとなりますが、結論的に言えば、今現在は低成長期にあります。

彼によると、この低成長期における基礎技術は AI だという。

私たちには現在、ボットや通常の UI があります。そして何兆ドルものスタートアップの時価総額がこの低成長期に起業される会社によって生み出されるでしょう。投資に関して言えば、最初の3分の1の段階にいるのではないかと思います。

ボットは、携帯端末上でサービスを提供する新しい手段でもある。チャットプラットフォームはユーザを記憶して ping 通知の送信を行ったり、アプリのダウンロードが不要なため中国ではすでにソーシャルメディアより人気が高まっている。近い将来、世界中の人がさまざまなことに疑問を持ち始め、実世界でチャットプラットフォームやモバイルデバイスの活用方法を模索していくことになるだろう。

Guo 氏はこう述べている。

どうして至るところにある QR コードをスキャンしてメッセージングアプリを通じた購入ができないのでしょうか?周りにいる人たちをどうして認識できないのでしょうか?常時、自動翻訳ができないのはなぜでしょうか?私のメッセージングプラットフォームと内蔵アプリに全てのコンテキストがないのはなぜでしょうか?私たちは、携帯電話の使い方を知っている現実世界でこうしたとてつもない数の疑問を感じながら過ごしていくのだと思います。ただ画面を眺めてネットブラウジングをしたりゲームで遊んだりするだけではありません。

このボット技術と企業・消費者間の自動化、会話促進の機会を探ろう。そうすれば何か大きなことが起こるはずだと Guo 氏は述べた。

私たちの現状とこの分野で科学的に実現可能な範囲を考えると、今はまだ初期段階にすぎません。だからこそ楽しみなのです。現在、平均的な消費者が本当に興奮できるボットはまだ存在していないという別の考え方もあります。私たちはまだ最初の変革点に到達していないのです。ただし、それももうすぐでしょう。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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