シンガポールのスタートアップ・アクセラレータの先駆けJFDIがプログラム終了を発表、多国籍企業とのオープンイノベーション創出にピボット

by e27 e27 on 2016.9.15

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インタビューに答える Hugh Mason 氏
Image credit: e27

夕闇は、1年以上前の典型的なシンガポールの春の日に訪れた。シンガポールのスタートアップ・アクセラレータ JFDI の共同創業者 Wong Meng Weng 氏と Hugh Mason 氏は、シンガポールのイスタナ(大統領官邸)を離れ、公園を抜けて戻って来た。カエル(JFDI のキャラクタ)が鳴いていた。

2015年に、イスタナで開催された Founders Forum のレセプション・パーティーはフォーマルなイベントで、ウェイトレスがサテーをふるまい、Lee Hsien Loong(李顯龍)首相がテックエコシステムを支援する旨の演説を行い(首相が自分で C++ で書いた、数独のパズルを見せながら)、Facebook の共同創業者 Eduardo Saverin 氏が祝辞を述べた。Wong Meng Weng 氏と Hugh Mason 氏は、そんな Founders Forum から帰ってきたところだった。

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シンガポールの大統領官邸イスタナで開催された Founder Forum のレセプションで、参加者と歓談する Lee Hsien Loong(李顯龍)首相。首相が話す相手(手前左)は、TechCrunch UK の編集主幹 Mike Butcher 氏。
(2015年4月20日、イスタナで池田将撮影)

Mason 氏は e27 に語った。

それは非常に心苦しい時でした。我々は大統領官邸を離れ、Orchard Road に面したゲートへと歩いて行きました。警備員に手を振って、外へと出て行きました。そして、このとき、あぁ一つの時代が終わったと思いました。今や、スタートアップはメインストリームになったのだと。

自分の祖母が Facebook を使い始めたとき、時代は変わったのだと思いました。それでいいのです。人生とはそういうもの、それはいいことなのだから。

2人は正しかった。先週、大学の中退者が創業した会社 Glints のシリーズ A ラウンド調達に支援の声が鳴り響いたように、起業はすでにメインストリームになり、今までになく話題に上るようになった。

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シンガポールの大統領官邸イスタナで開催された Founder Forum のレセプション
(2015年4月20日、イスタナで池田将撮影)

従来からは変化したこの環境下で、JFDI は今日(9月14日)、正式にピボットし、シンガポールのスタートアップ・コミュニティで先駆的なアクセラレータと見られてきた、同アクセラレータのプログラムを永久にシャットダウンすることを発表した

JFDI は今後、リスク資本を取り入れた成長の著しいスタートアップが、可能性豊かな大企業と連携が図れるよう、大企業との協業を始める。JFDI のチームは、多国籍スーパータンカー(大企業)が、自ら出航してビジネス機会を見出そうとする小さなスピードボート(スタートアップ)とつながるのを支援し、そのような積極的な大企業にスタートアップが求める機敏さを提供したい、と考えている。

JFDI はこれまで、約6億人もの人口を抱える、可能性に満ち溢れた東南アジア市場を模索してきた一方で、中国やアメリカなど違って、この地域は多くの国々からなり、さまざまな通貨や言語が使われていることから、ビジネスをスケールする上では不利だったと Mason 氏は語った。

多国籍企業なら、すでにそのような問題を解決していて、それぞれの国に友人を持っている。もし、スタートアップを多国籍企業と連携させれば、我々が求める地域でのビジネス拡大を、スタートアップが実現できる可能性があるのではないかと考えた。

これからのスタートアップ支援は「K-POP 方式」で

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Huge Mason 氏(左)と、Meng Weng Wong 氏(右)と、JFDI のキャラクタのカエル
Image credit: JFDI

JFDI は、Bosch や Mediacorp といった大企業と連携し、スタートアップに「典型的な企業アクセラレータから得られるものとは違うサービス」を提供したい、としている。

Mason 氏は、JFDI がやろうとしていることを、音楽アーティストのスカウト業務に例えた。それには「パブめぐり戦略」と「K-POP 方式」の2つの方法があるのだという。

パブめぐり戦略では、次なるローリング・ストーンズやボブ・ディランに出会える期待を胸に、地元のアンダーグラウンドなパブを徘徊するのに多くの時間を費やす。タレント事務所は、スカウトしたアーティストの髪の色を少し変えさせ、ステージへと押し上げる。これは、今までのアクセラレータがやってきた手法だ。可能性のあるスタートアップを見つけ、彼らを磨き上げ、光り輝く投資を受け入れられる存在へと育て上げる。

JFDI は K-POP 戦略をとろうとしている。この方法では、魅力的な個人を集め、彼らでグループを組成し、その結果として、次なる少女時代を作り出そうというわけだ。

つまり、流通チャネル、市場でのプレゼンス、資本を提供できる、みんなで一つの会社(仲間)を作るということです。しかし、彼らは、必ずしも市場に合ったプロダクトやサービスを持っているとは限りません。(Mason 氏)

正しいタイプの人々、Meng 氏が言うところの「こういった企業を経営するプロ起業家」のために、JFDI はビジネス機会を作り出すのだと Mason 氏は語った。JFDI がターゲットとするプロフィールは、大学を出て経営コンサルタントなどの職業を経験し、MBA を取得し、JFDI がスタートアップに送り込みたいと考えるような人たちだ。

Mason 氏は JFDI の CEO として残るが、Meng 氏は2016-2017学年度をシンガポール国外で過ごし、自身の SaaS サービス Legalese の開発に専念する予定だ。Meng 氏のオープンソース・スタートアップ Legalese は「プログラムがソフトウェアをコーディングするやり方で、法的書類の下書きを作成する」というミッションで運営されている。シードやシリーズAラウンドを目指すスタートアップを、法的書類の雑務から解放することを意図している。

新生 JFDI の最初のプロジェクトは、ハードウェアと金融サービスを組み合わせた Bosch とのジョイントベンチャーだが、Mason 氏は詳細については語ろうとはしなかった。

JFDI の収入に問題

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JFDI の 2015年B期バッチのデモデイから
Image credit: JFDI

JFDI は、そのアクセラレータとしての安定した収入源を見つけるパズルを、これまで解こうとはしてこなかった。同社の売上モデルは、アクセラレータプログラムに参加したスタートアップの、後々に起こるであろうイグジットに依存している。買収が早く進む文化を持つシリコンバレーでは、この方法が機能している。アメリカでは、アクセラレータに参加したスタートアップが、18ヶ月後から2年後には買収されるのは一般的だ。買収によって、投資家は出資額の2〜3倍の金額を回収できる。このサイクルが続くことで、投資家はサイコロを再び投げ、アクセラレータに再投資が実行されることになる。

しかし、このようなビジネス環境はアメリカ特有のものかもしれない。世界中の多くの地域では、スタートアップが買収されるまでの企業に育つには7〜8年を要する。また、売却時のバリュエーションが低く、そこからもたらされる資金が少ないことから、アクセラレータが長期にわたって維持運営するのを難しくする。

シンガポールにいる人は、この意見に対抗して皆こう言うだろう。

そうはいっても、シンガポールのあちらこちらで、アクセラレータが新しく生まれているではないか。

そこには、公から資金調達したアクセラレータか、コーポレートアクセラレータかの違いがある。コーポレートアクセラレータには、セーフティネットを提供できる大きな投資家がいて、Mason 氏はこれが問題になっていると語った。

みんなが同じ池で釣りをしてしまっていて、これが事を悪くしている。人真似したアイデアしか持たない弱いチームが、ただ数字を合わせるだけのために(アクセラレータに)招聘される。スタートアップは、どのアクセラレータが一番お金をくれるか見定めようと、スタートアップをもて遊び始めるんだ。お金を稼ぐために本当に必要な、最良のメンタリングをどのアクセラレータが提供してくれるかじゃなくてね。

二流スタートアップの大量生産は、やがてシンガポールにスタートアップ・バブルを生み出すだろう。多くの人が、そう遠くない時期に訪れると予想しているように。

おそらく、それが我々がやってきたことのすべてだ(Mason 氏)

起業家は決して、孤独になる必要はない

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Image credit: Audax Singapore

JFDI のピボットは決して後ろ向きな進展ではなく、むしろそれは、一つの時代の終焉を象徴するものだ。人生の一幕が閉じるときのように、人々の反響を呼び、しばしば寂しさを誘う。しかし、今こそ前進し、Block 71(編注:シンガポールのスタートアップハブのビル)にあった JFDI のオフィスを良い思い出にするときだ。

非常に多くの友達ができたと思う。人々が時々、この小さなカエルのことを思い出してくれたら、うれしい。

Block 71 にあった我々のスペースを離れるのは寂しい。多くの人が、寂しくなると私に言ってくれた。ここにあったのは、正真正銘のコミュニティのためのコミュニティだ。単純に内装が施された場所とか、家主やファンドが作った場所だとかいうものではない。コミュニティが作り上げたのだ。そういったことは変わるだろうか?(Mason 氏)

JFDI は大きな影響をもたらしたが、インタビューの終盤、Mason 氏は読者の涙を誘うような重大な変化について口にした。

我々がオープンハウスイベントを開催したとき、そのあたりに立っていた男性が寂しそうにしていたので、私は彼に近づき声をかけた。「お元気ですか?」 すると、彼は目に涙を貯めていた。歳は50歳くらいだっただろうか。そして、こう言ったんだ。「こういう機会が欲しかったんだ、こういう機会が欲しかったんだ。私はとても孤独だった。」

この男性は当時、まさにビジネス失敗しそうな状況にあり、彼の母は彼に裕福な人だけがビジネスを始められるのだと言い、彼の兄は失敗したら、子供の面倒をちゃんと見るようにと言ったのだそうだ。

この経験から、Mason 氏は前の世代の起業家には敬意を示すべきだと悟った。当時の起業というのは、考えられもしないほど難しかったからだ。

Mason 氏は JFDI のイベントを始めた時、彼のような人を見て、自分のやってきたことは正しいと確信したという。

我々が始めたことは、ここでコミュニティを形成したことだと思います。最初は人々が集まれる場所を作ったのですが、その頃は、それが大変重要だったのです。なぜなら、(起業というのは)考えられないほど孤独なものだからです。

Meng 氏は、1,400ワードに及ぶこの記事などよりもよい表現で、JFDI がもたらした影響をたった1行で伝えている。

起業はいつも困難の連続だ。しかし、孤独になる必要はない。

【via e27】 @E27co

【原文】

 

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