韓国におけるメンタルヘルス支援システムの崩壊、スタートアップが手を差し伸べられる方法とは…

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私は韓国が大好きだ。

風景も文化も好きだ。だが一番好きなのは、ここに住む人々と彼らが創り出す活気あふれる環境だ。

コンビニでアルバイトをしている未成年から、地下鉄に乗るたびに腹パンチをしてくるおばさん方まで、この国の独自性を高める皆が大好きだ。

だからこのテーマは私にとって非常に重要であり、取り組むべきものである。

韓国では毎年10万人中約30人が自殺する。これより高い自殺率は世界でもガイアナでしかみられない。

この記事では、なぜこんなことになるのか、自殺率に最も寄与している集団である学生と高齢者に注目してみよう。その次に、現在何が行われていてなぜそれが上手くいかず、そして彼らを助け出すためにスタートアップコミュニティに求められていることは何なのか、これらを分析的にみていこう。

韓国の学生は朝から晩まで苦難の連続

確かなデータほど物言うものはない。韓国では・・・

  • 24歳未満の自殺率は OECD 平均の1.5倍である
  • 学生のおよそ10%が自殺を考えたことがある
  • 2001年から2011年にかけて、この年齢グループの自殺者数は57%上昇した

皆さんはこの数字を見てゾッとするだろう。政治家も然りだ。

韓国国会でも議会のたびに、この問題にどう対応するかに終始するが具体的な対策は何も取られていない。

この危機の最たる要因は教育機関である。学生は毎日早朝から夜中まで勉強させられているからだ。

学生たちは「一流大学に入学する」という永遠に続くかのようなプレッシャーに直面しながら、失敗することへの絶え間ない恐怖に対処しなければならず、それができなければ落ちこぼれとみなされる。あらゆる社会的プレッシャー(社会的、経済的など)と併せて考えると、両側から点火されたダイナマイトが爆発するのをただ待っているようなものだ。

子どもたちは青春を奪われている。楽しむ機会も学びたいことを学ぶ機会も与えられない。回り道は許されないのだ。

韓国の高齢者は赤貧と孤独に露命を繋ぐ

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毎年10万人中50人以上の高齢者が自殺する。これは全国平均のおよそ2倍だ。この傾向の原因は、増加していく赤貧を食い止めることができない破綻したシステムと、それによる孤立感である。

ソウル繁華街の江南や狎鴎亭の高級街は、韓国が世界最高レベルの経済大国にまで上り詰めた富裕国である証である。最新のビルに備えられた大型ビジョンでは裸同然の女性が香水の宣伝をするコマーシャルが流れ、その下では有名ブランド店を周ってせかせかと買い物をするカップルがいる。

しかし、資本主義の成功によるこういったありふれた光景の中で、上述の現実はよく忘れられてしまっているのだ。

たった数セントのために資源ごみを載せたリアカーを引くお年寄り。そのすぐ向こうにも老紳士が、通りすがりの若者が捨てた空き缶をごみ箱から注意深く取り出して、同じようにリアカーを引いている。

ソウル中をくまなくまわるとバッカスおばさんを見かけるだろう。これは可愛らしい音楽グループではない。自暴自棄になって体を売るお婆さんたちだ。

<参考記事>

韓国の高齢者のおよそ半数は貧しい暮らしをしており、これも高齢者の自殺の主因となっている。

福祉制度は崩壊しており、高齢者のセーフティネットはない。

もし高齢者に子がいれば、その子らは利益を享受できないだろう。というのも、時代遅れの儒教の教えに基づくと、子は親の世話をするのが当然と考えられているからだ。

理想の中の韓国社会では儒教は堅く守られ、子供は親の世話をするはずだ。しかし、私たちはそんな社会に生きてはいない。そういった社会は過去のものであり、私たちはそれを受け入れなければならないのだ。

この問題に対処するために行われていること

ここまでメンタルヘルス危機に関する韓国の暗い見通しについてみてきた。韓国のシステムには重大な欠陥があり、これを修復するためには何か手を打つ必要があるのは明らかだ。そうだろう?

いや、違うのだ。

学生の自殺が多いにも関わらず、ほとんど手は打たれていない。というのも、長い目で見ると大学に行かないことで社会的・経済的に失うものがあまりに多いからだ。一流大学に入学することで、学生は数少ない社会経済グループに飛躍できる。勉強が最優先され、精神衛生やストレス、不安は後回しにされる。

2010年代初頭には学習塾に通う時間を制限しようという動きもあったが、単に公教育を貧富の差なく充実させるに留まった。

この論文に示されているとおり、学習塾という列車を止めるものはない。ある線路を遮っても他の線路が作られてしまう。

韓国の学習塾は学問のメデューサだ。

高齢者に関しても、政府は助けようとはしていない。著者の Se-Woong Koo 氏は以下のように書いている。

韓国は裕福なように見せかけているが、高齢者に対する政府の支援は驚くほど限られている。韓国は GDP の1.7%を高齢者介護に費やしているが、これは OECD で最も貧しいメキシコよりわずかに多い程度だ。一方で、隣国の日本は高齢者に惜しみない援助をしており、GDP の8.9%を日本中の高齢層に施している。

朴大統領は選挙運動の中で、高齢者に月額20万韓国ウォン(180米ドル)というわずかばかりの年金計画を約束したが、完全に破綻した。世界で最も高齢化が進んでいる国の一つである韓国においては最適な政策ではなかったのだ。

スタートアップが支援する理由と方法

Facebook に代表されるような「楽しい」スタートアップのどれを見ても、何百というスタートアップが人の暮らしをより良いものにすることに焦点を当てている。

アフリカで水質を改善しているものから都心部の教育をより効果的にしているものまで、スタートアップコミュニティが手を広げている範囲は計り知れない。スタートアップコミュニティがこの問題を独力では解決できないとしても、事の解決の中核を担うことは間違いないだろう。

スタートアップで働く人たちはイノベーションや問題解決が好きで、行動が早い。単純な仕事でも終わらせるのに何年もかけるような肥大化した官僚組織とは対照的である。

うつ病と戦う学生には、自分を助けることについて政治家が議論しているのを待っている時間はない。彼女にはまさに今、助けが必要なのだ。

コミュニティ作りと改革による韓国の若者の救済

韓国の若者の自殺率を減少させる2つの解決策がある。

メンタルヘルスをクールなものに

1つめは、Sanctus という名前で同様のことをやっているイングランドの友人から拝借した考えである。コンセプトの概要は自分の苦悩や悩みを他の人と共有するのは普通だ、ということを学生に示すことで、「メンタルヘルスをクールなものにする」というものである。

自己表現することは弱さの表れではなく、自分を劣った人間にするものではない。むしろより良い人間にするものである。

これは、中学生や高校生だけでなくコミュニティ意識を生み出す年配の人もターゲットにしたさまざまなワークショップや授業、イベントを通して達成することができるだろう。

だがこれを順調にスタートさせるのはなかなか難しいとされる。韓国ではメンタルヘルス関連のことはタブーとされているからだ。しかしこれを成し遂げる産業があるとすれば、それこそがスタートアップである。

学習塾制度の刷新

学習塾のシステムを改革するには長い時間がかかるが、最重要課題である。

現在の教育システムは詰め込み、長時間、単調さなどあまりに不健全で、それにも関わらず誰も修正しようとか別の手段を考えようとかしていない。若者の精神衛生問題に取り組むためには、これに代わるものが必要である。

スタートアップは考えられるほとんどすべての分野に革命をもたらしてきた。今こそ学習塾業界にメスを入れるときである。

ターゲットプログラムによる高齢者の救済

学生の問題と同様に、高齢者のメンタルヘルス問題には二面からのアプローチが必要である。

経済的困窮に取り組む

ターゲットとなる最初の分野は、自殺の増加を引き起こす最大要因とされる経済的困窮である。

韓国の起業家は、安全、親切、かつ安定したやり方で高齢者を実社会に積極的に呼び戻す方法を模索する必要がある。これを行っているスタートアップは既にある。Seniors and Youth などだ。彼らは高齢者に世界中で韓国語教育をしてもらい固定給を支払うことで負担を和らげている。

コミュニティ作り

もう一つの方法は、高齢者が頼れる友人グループを作るために自分自身の間で大きなコミュニティの基礎を作り上げることである。

高齢者を打ちのめす絶望の連鎖の大きな要因として、話しかける相手もいなければ行く場所もない、といった絶えず続く孤独感が挙げられる。

これは起業家にとっては高齢者が集まって一緒に活動に参加できるような機会を提供する素晴らしいビジネスチャンスである。Korea Legacy Committee などの団体の働きによりこういった考えは既に実行に移されているが、この問題に対処するにはまだまだ助けが必要である。

韓国はインターネット網が発達しているため起業家の理想の地であるが、一方で起業家が飛び込んで実際に変革を起こす機会も溢れている。

結論

メンタルヘルスは全く恥じるものではない。この認識が韓国中に広まるのが早ければ早いほど、より良くなるだろう。

私はこの国が大好きであり、この国民が大好きである。

メンタルヘルスについてオープンで率直な議論をしよう。話す相手がいない?私にメールしてほしい。話そうではないか。

【via Tech in Asia】 @TechinAsia

【原文】

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