「B Dash Camp 2016 Fall in Sapporo」1日目のまとめ——LINE上場後の事業戦略から、小室哲哉氏が予見する音楽界の未来まで

by Masaru IKEDA Masaru IKEDA on 2016.10.18

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本稿は、B Dash Camp 2016 Fall in Sapporo の取材の一部である。

10月17日〜18日、B Dash Camp 2016 Fall in Sapporo が開かれている。長野から始まり、大阪・福岡など場所を変えながら今回で9回目を迎える B Dash Camp にとって、この北の地を舞台にするのは初の試みだ。B Dash Camp 開催前日まで、札幌市内では SXSW にインスパイアされた新地方イベント「NoMaps」のパイロット版が開催されるなど、この北の地にもスタートアップの息吹がにわかに高まりつつあるようだ。

B Dash Camp 2016 Fall in Sapporo での1日目の動きをまとめてみた。

LINE舛田氏が語る、日米同時上場後に目指すもの

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1日目の冒頭を飾った LINE 取締役 CSMO(Chief Strategy & Marketing Officer)の舛田淳氏を迎えてのセッションでは、LINE が7月に果たした、東京・ニューヨーク同時上場の際のエピソードから話が始まった。舛田氏は複数証取への同時上場を選択した理由として、現経営陣がいなくなっても組織が世界を意識して成長していくための布石と答え、Twitter や Facebook と並んで海外の投資家からの理解も高いことを指摘した。また、上場時の日米の反応の違いを尋ねられると、ニューヨークではまるで映画のように、取引所の掃除をする人や警備をする人まで、「今日はいい日になるね」と成功を賛美してくれたと明かし、起業文化を盛り上げるためにも、東証にも街ぐるみで成功した起業家をショーアップするような雰囲気づくりをしてほしい、と注文をつけた。

今回の上場で市場から集めた1,000億円を、舛田氏はLINE のさらなる成長に使うと強調。では、具体的に何をするのか? その答えは、LINE のこれまでの〝言動〟を見ることで推測することができる。スマートポータルを標榜してきた LINE だが、メッセージングサービスを軸に発展してきた生い立ちゆえ、ポータルサイトやバーティカルなコンテンツサービスはポートフォリオに存在しない。個人のための便利なサービスの開発に注力してきた分、皆が同じ情報や体験をシェアするしくみは希薄だったのかもしれない。舛田氏は、最近の出前館の買収、自撮りアプリ「B612」へのコミュニケーション機能への追加、画像加工アプリ「SNOW」への出資などは次なる展開への布石であるとし、ソーシャルネットワークサービス(SNS)も LINE が狙う「ネクストライン」の選択肢の一つになり得ると語った。

F1層を魅了する、インフルエンサーマーケティングの旗手たち

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日本のみならず、アジアを席巻するインフルエンサーマーケティングの波。その多くは、20代後半から30代前半の女性からの高い支持に人気の秘密があるようだ。このパネルセッションでは、3ミニッツの細川潤氏、UUUM の中尾充宏氏、BIJIN&Co. の田中慎也氏が登壇した。

3ミニッツは動画による商品プロモーションを軸に据え、ファッション動画マガジン「MINE」の運営、人気インフルエンサーの支援、プライベートブランドの創出支援を行なっている。

UUUM は日本を代表する MCN(マルチチャンネルネットワーク)で、HIKAKIN やはじめしゃちょーらをはじめ有名 YouTuber を擁する大手芸能事務所のような存在。同社所属の YouTuber らによる動画投稿の月間再生数は2016年に20億回を超え、VidstatsX の統計によれば、MCN トップ100中、YouTube チャンネル登録者数で33%、月間再生数で40%の国内シェアを持つという。

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BIJIN&Co. は「美人時計」で成功した田中慎也氏が仕掛ける、モデルとモデルを起用したい企業のマッチングサイトだ。テレビ局、一般企業、メディアなどが利用しており、マッチング数が今年に入って格段に伸びているという。興味深い事例として、田中氏はインフルエンサー自らが、インフルエンサーマーケティングの力を活用して、自分のファッションブランドやビューティーサロンを立ち上げるケースが出てきていることを紹介、BIJIN&Co. から2人のモデルが登壇した。

マスマーケティング全盛だった20世紀とは違い、現在は情報があふれている時代。ファッションを選ぶにも、ライフスタイルをデザインするにも、ユーザは昔のように一辺倒に東京を見るのではなく、身近な誰かが何を買っているか、どう行動しているかに注目し、情報の質の高さを求めている。東京ではない地方にこそ、インフルエンサーマーケティングの真髄を知るヒントが隠されているようだ。

グリー田中氏と一問一答:2016年秋、旬な若手起業家4人

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年に春秋2回開催される B Dash Camp、その時々の最も旬な若手起業家にスポットを当てるこのコーナーには、dely の堀江裕介氏、Candle の金靖征氏、ココンの倉富佑也氏、ゴローの花房弘也氏が登壇した。一見すると成功者に見える彼らも、一筋縄では行かない起業家人生に苦労を強いられつつ、そんな毎日をまた楽しんでいるようだ。

2014年4月に dely を創業した堀江氏は、7月にフードデリバリをローンチするも2015年1月に同サービスをクローズ。今年に入って、料理レシピ動画の分散型メディア「KURASHIRU」で再起を図り、4月にはシリーズAラウンドで数億円の資金調達を成功させている。スタートアップに必要な不可欠なチームビルディングにおいて、堀江氏は将来が成功するか失敗するかもわからない事業に友人を誘うのはあえて避け、Facebook から一緒に仕事してくれそうなエンジニアなどに、片っ端から連絡をしまくったそうだ。「起業したいが、まわりに人がいない」という言葉は、そう簡単に吐いてはいけない、と堀江氏は語る。課金できるコンテンツは「経済」か「食」という信念のもと、現在は、時間が経過しても鮮度が失われない料理コンテンツに照準を絞っているそうだ。

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時期を同じく、2014年4月に Candle を設立した金氏は、当初は iQON にも似たファッションコーディネートサービスを運営していたが、その後、ファッションの「MARBLE」などを核とする、キュレーションメディア事業にピボット。先週、ネットサービス大手のクルーズ(東証:2138)で総額12.5億円で買収された。金氏は、グノシーCEO の福島良典氏らも在籍していたことで知られる、東大の起業サークル「TNK」の出身で、TNK の内部やツイッターで「エンジニアをやりたい」とつぶやいていた人たちに連絡をとり、創業チームを組成したのだそうだ。学生ベンチャーにとっての優位性は「死ぬほど働いて、死ぬほど考えることで勝てるビジネスを創ること」と捉え、現在は親会社となったクルーズの事業価値向上にどれだけ寄与できるかを考えていると語った。

日本人3人と上海拠点の中国人2人で共同創業したココンは、21世紀はインターネットと資本主義が変化する、との考えから、事業拡大に向け、さまざまなスタートアップの買収にも余念が無いようだ。

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ゴローの花房氏は2年半前に10代女性向けのコマースアプリ「melo(メロ)」を立ち上げ、事業拡大を図るにもうまくいかず、その後、薄毛対策に特化した話題を扱う「ハゲラボ」などコンプレックス・メディアの運営事業にピボット。昨年9月、ユナイテッドに株式60%を8.1億円で買い取られる形で子会社化された。ヒットさせるサービスの作り方を問われると、花房氏は、既存のメディアによる情報では、人が意思決定しづらくなっている領域がどこかを見つけることが重要だと指摘。ゴローの場合はそれがコンプレックスだったが、それ以外にも「まだまだ空いているバーティカルがあると思っている」のだという。

セッションの終わりには、セッション登壇者はそれぞれ誰を超えたいか、目標に掲げる先輩起業家の名前を挙げた。堀江氏は國光宏尚氏率いる gumi の時価総額300億円を3年でキャッチアップすると豪語、金氏は同じサークル出身のグノシーを時価総額で抜きたいと語り、また、倉富氏は食事したこともあるソフトバンクの孫正義氏に、出資話の提案を受けられるくらい可能性のある企業に成長させたいと目標を掲げた。花房氏は、出資者でもあるサイバーエージェントの藤田晋氏のほか、同年代の Evan Spiegel 氏(Sapchat CEO)や Ritesh Agarwal 氏(OYO Rooms CEO)らと肩を並べられるくらいの存在になりたいと抱負を述べた。

小室哲哉氏:業界の発展のためには、業界を超えて、人をつなぎ、まとめる人が必要

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ヤフー上級執行役員の宮澤弦氏のモデレートによる小室哲哉氏のセッションで、小室氏は Spotify の日本市場に上陸を引き合いに出し、音楽文化がコピーからシェアの文化に変化してきていることを指摘した。レコード会社は以前のように一人勝ちはできなくなっているとし、音楽プロデューサーの視点から、アーティストの姿勢の変化についても、次のように洞察を披露した。

「アーティストはファンを大切にしないとやっていけないが、最近は、媚びていたり、気を遣い過ぎていたりするのではないか? アーティストが冒険できなくなっている。ヤフーを含め、データは皆たくさん持っているが、データは過去の情報、新しいことはやってみないとわからないのに。」

一人や一グループのアーティストのライブには観客が動員されなくなり、音楽イベントの多くは、複数のアーティストが参加するフェスや EDM(Electronic Music Dance)になってきている。アーティストをマネージメントするレーベル担当者も、まずは観客にアーティストの名前を知ってもらうことが第一義で、特にフェスの場合は、誰かのヒット曲が聞けてうれしいというよりは、アンセム、つまり、みんなが歌える曲を聞いて帰りたい、というのが観客の大きなモチベーションになってきているそうだ。

小室氏は先ごろ、オーストリア・リンスで開催された ArsElectronica に参加したことだが、そこで映像をプロジェクションするドローンが一気に飛び立つような、コンテンポラリーアートの集団に魅せられたのだそうだ。エンターテイメントとして完成はしていなかったもの、その幻想的なイメージに未来を感じたとのこと。ただ、音楽がついていなかったことが残念だったそうだ。

技術は技術、ドローンはドローン、音楽は音楽で人が分かれてしまっており、それらをつないでまとめる必要だと思う。(中略)例えば、ハリウッドにはパブリシストという人たちがいた。ヨーロッパにも。日本にも、アーティストをプロデュースするようなパブリシストがいない。そういう人が出てきてほしい。

Spotify が日本でサービスを開始したことで、日本の音楽シーンも世界のトレンド標準にまで追いついたという印象。プロデューサーよりも、アーティストとしての活動に注力したいとしつつも、「小林克也氏みたいな最高のキュレーターになりたい」と〝プレイリスト共有時代〟のスター DJ としての顔をのぞかせた。

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