スマートデバイスや電気自動車で活躍するバッテリーの犠牲者たち

本稿は、Geektime 英語版に掲載された記事を、Geektime の了解を得て日本語に翻訳し掲載するものである。 The Bridge published the Japanese translation of this original article on Geektime in English under the permission from Geektime.


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コバルトを含む鉱石
CC BY-NC 2.0 via Flickr by Fairphone

Washington Post の数ヶ月に渡る調査から、コンゴ民主共和国(DRC)に始まり最後には消費者のiPadやスマートカーのリチウムイオン電池にまで行き渡る世界的なコバルトのサプライチェーンでは、いまだに権利侵害や問題あるビジネス習慣がのさばっていることが明らかになった。

その調査では、世界最大の ICT や自動車会社を含め、複数の製造業の関与が示唆された。

Washington Post は調査を行い、給料日も、法的権利、道具、保護具もほとんど持たない採鉱「職人」がコバルトの原鉱を採掘しそれを商社や中間業者に販売する、というサプライチェーンについて詳述した。精錬した鉱石の主な買い手は、中国のHuayou Cobalt(華友鈷業)の子会社である Congo DongFang International Mining であり、今でも Apple の主なサプライヤーである。

Huayou は他の中国国有企業と共同で、アフリカにおける業務効率化を目的としてコンゴの国営採鉱企業である Gecamines から鉱業権を含む広大な土地を近年購入した。欧州の多国籍企業が製品の供給過剰のせいで業務を縮小する一方で、中国企業は長期的なアクセスを確保するためにどんどん市場に参入してきている、と南アフリカの Mail & Guardian が3月に報告している。

Huayou は Washington Post に対し、「サプライチェーン管理に対する認識が不十分である」ことを認めている

ゴブリンの魔法の元素

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Gecamines 社が保有する、コンゴの Kolwezi にあるコバルト鉱山
CC BY-NC 2.0 via Flickr by Fairphone

世界のコバルト供給の50~60%は、高純度の沈殿が多く得られるコンゴで採掘されている。「グレムリン」を意味するドイツ語に由来するコバルトは、研削と電気分解といった処理を経て原鉱から抽出され、飛行機のエンジンの原料となる超合金を製造するのにも使用される。

Samsung と LG は、2015年以降 Huayou からのコバルト調達はしていない、と述べている。しかし両社とも、Huayou からコバルトを調達して主要家電メーカーに電池を販売していた中国と韓国のいくつかの電池部品メーカーとの提携があったことから、過去には間接的に Huayou からコバルトを調達していた。今でもサプライヤーからの情報が不鮮明なため、間接的に Huayou からコバルトを調達している可能性はある。

Dell、HP、Motorola、Microsoft、ソニー、Huawei(華為)、ZTE(中興)、Vodafone、さらにAmazon といった、他の主要な家電メーカーもこのサプライチェーンとの関与が示唆されている。しかし実際のところ、自動車会社においても近年のエネルギー効率の高い動力系開発のためにコバルトの需要が非常に高まっている。

中国はさて置き、圧倒的な輸入国である日本とフィンランドはコンゴ産コバルトの大きな市場である。しかし、彼らは実際に既にコンゴに存在したサプライチェーンまでは細かくチェックすることはできず、ただどこからコバルトを仕入れているのかということ以外には知る由もないことは多くの人が思うだろう。

特に、金(電気回路)やコルタン/タンタル(キャパシタ)のように電子機器に使われるようなコンゴの他の資源の乱用可能性をカバーしている米国法が、コバルトには適用されない。しかし、コバルトはこういった鉱物とは比べ物にならないくらい世界で広く使われており、今も続く戦争での不当利得行為とは何ら関係はない。DongFang の抽出作業に子供が就いていると疑われており、コンゴの鉱業全体が非難されている。コンゴの鉱物資源は自国と他のアフリカの国の両方で長い間乱用されてきた。自国では長期独裁者の Mobutu Sese Seko 氏の馬鹿馬鹿しい計画や贅沢な生活を支えるために銅産業がいつも乗っ取られていたし、他のアフリカの国では、1997年にMobutu 氏が失脚してからコンゴの領地をめぐって戦争を繰り広げている。

数十年に渡る Mobutu 氏の統治で、コバルト産業への被害は甚大だった。携帯電話やラップトップPCが一般的になってきた1990年代には、ひどい政治腐敗によってコンゴ一の鉱山の公的産出量が急激に減少した。1985年のコンゴの鉱物産出量は世界の45%を占めていたが、Mobutu 政権転覆直前にはたった7%であった。1997年以降のコンゴの様々な戦争のせいで鉱業が再度軌道に乗ることはなく、経済発展は見られなかった。そのため大半は、ましな選択肢がない地域の小自作農の管理下にある。国の鉱山地帯は貧困で悪名高く、他の雇用機会が不足している。Amnesty International によると、コンゴでは11万から15万人が採鉱「職人」として働いているという。

コンゴの鉱物の一部は、1990年代から2000年代初頭に侵略してきた占領組織に盗まれてきた。国連の専門家委員会は、Mobutu 氏の後の政権の名目上の同盟国であるウガンダ、ブルンジ、ルワンダが、その領土から採掘して再販売用に貯蔵していた鉱物を出荷することによってコンゴに戦費を調達していたことを突き止めている。このことは他の鉱物ほどにはコバルト市場に影響を与えなかったが、ザンビアとコンゴの国境では長い間コバルトと銅の闇市が盛況だった。

コンゴでコバルトがこれほどまでに一般的な理由の一つに、コンゴと隣国のザンビアでは銅が有り余るほど埋まっており、コバルトは銅と一緒に見つかることが多い、ということが挙げられる。しかし世界シェアのおよそ4分の1を占めるザンビアのコバルトはコンゴの鉱脈のものほど純度が高くなく、またザンビアの産業界は就労法違反や横領といった、コンゴと同じような問題に悩まされている。

次のステップ

This is a Gecamines owned artisanal cobalt mining site
Gecamines 社が保有するコバルト鉱山
CC BY-NC 2.0 via Flickr by Fairphone

スマートフォンに数グラム、ラップトップに1オンス、というように、単一の家庭用電子機器に入るコバルトは比較的少ないが、市場に出回るこういった商品数は莫大であり、年間数百億ドルもの価値の原鉱販売に値する。サプライチェーンの犠牲者は鉱夫にとどまらず、リチウムイオン電池を含めた機器の組み立てを行う労働者に長時間低賃金で危険を強いるような製造分野にまで存在している。

こういった問題に取り組むために、コバルトを金や他の鉱物と同じ処理基準「3TG」にするという案が最も広く議論されているが、同じ会社が同じ場所でコバルトと銅の2つの鉱物を採掘することから、このリストにはも加える必要がほぼ確実にあるだろう。この問題に取り組むに当たっての大きな障害の一つとして、採掘が行われる国の政府が生産を一極集中させてより高い基準を課すためにインセンティブをごちゃまぜにしてきたことが挙げられる。これは産業界全体のプラスになるだろうが、腐敗した団体にとってはそのままにしておいてくれた方が都合がよいことになる。

電子廃棄物の再生利用もこの状況に手を差し伸べるだろうが、独自のサプライチェーン問題を抱えている。というのも、この残骸のほとんどは発展途上国のよいとは言えない環境で働く解体業者によって「リサイクル」されるからだ。世界の最先進国の電子廃棄物の23%は再処理のために第三世界へと持ち込まれる。現代的な器具などなく重度に汚染された廃品置き場では、リサイクルのために機器類は燃やされバラバラにされている。

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