Web 2.0の父、Tim O’Reilly氏を熱中させる新たな疑問:人工知能は未来の仕事をどう変えるか?

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Above: Tim O'Reilly speaks at the Next:Economy conference. Image Credit: O'Reilly Media
Next:Economyカンファレンスで語るTim O’Reilly氏.Image Credit: O’Reilly Media

テックのカリスマの多くは、未来についてあらゆる疑問に対する回答を持っているように見せかけるのが好きだ。

しかし Tim O’Reilly 氏はそうではない。未来の姿、それが持つ意味について、テック系パブリッシャーでシリコンバレーの予測研究者である同氏は、あらゆることが解明されて Twitter で簡単にシェアできるような5つのポイントのスライドにまとめることができるわけではないと認めている。その理由は、O’Reilly 氏にとって未来を知ろうとするのが1つの楽しみだからだ。

発見作業は正しい質問をすることから始まる。この場合、O’Reilly 氏は新たな疑問、すなわち未来の仕事について正しい質問とそうでない質問とは何かを理解しようとしている。同氏はたった今、サンフランシスコで行われた2日間に及ぶ「Next:Economy カンファレンス」を終えたところだ。そこで様々な起業家、学識者、投資家、コミュニティオーガナイザーを集め、このトピックに対する答えを得ようとした。

O’Reilly 氏はインタビューの中で次のように述べた。

私は、「テクノロジーが未来の仕事をどのように変えるかを模索する方法」に焦点を当てました。いま何かが起こっています。テクノロジーによる失業の恐れを含め(中略)私はオンデマンドサービスや AI といったものについて、そしてそれが仕事に対して持つ意味について頭の整理をしようとしているのです。

彼にこの問題を考えさせているのは単一のテクノロジーではなく、様々な要素がぶつかり合い、予期せぬ方法で影響を与えているものである。これが意味するものは常に明確だとは限らない。このテクノロジーはより良い未来を作るのか、それとも市民社会の基盤を揺るがしてしまうのか?しかし O’Reilly 氏の当面の関心は、このような問題を間違った角度で見ている人があまりにも多いということである。

AI を例にとって考えてみよう。この技術の長期的な応用について法律的、哲学的な議論が行われている中、AI が与える現実的な影響を超えて未来に対する恐怖が広がっているのを彼は憂慮している。

AI に対する話題は完全に間違ったところにフォーカスされています。これは AI に対して予め刷り込まれた恐怖です。おお神よ、AI は実在する恐怖なのです!というような。

遠い未来の話をするのは構わない。しかしここで見過ごされているのは、私たちはすでに、しかもかなりの程度、内在されたバイアスを含むアルゴリズムに支配されているという点だ。職場で、ゲームで、マーケットプレイスで、人間による意思は最小限のまま、謎めいた力が私たちの決定を促し、目に見えない方法で影響を与えている。「心配することはない」と言うだけでは不十分だ。

私たちはシステムに支配された世界を構築しようとしていますが、そのシステムを理解していないばかりか、コントロールもできていないのです。

これにより影響を受けているのは、自分が見る映画やソーシャルメディアへの投稿、閲覧する広告、LinkedIn での友達の招待、金融市場での行動などである。コントロールできていないために、心配が増幅される可能性がある。私たちの職場での判断・決定もますます影響を受けるようになるからだ。O’Reilly 氏が知りたいのは、このシステムが現実的な経済に与える影響だ。それを単なるマクロレベルではなく、個々のミクロレベルで知りたいという。仕事から得られる安定や補償、満足度に対する考え方を変えるのはミクロの主体だからだ。

多くのスタートアップはイノベーションや新たな効率性を生むためにアルゴリズムを歓迎しているが、O’Reilly 氏によると、従来型店舗でもこの技術を採用して従業員のスケジュール管理、人材採用、売上確保に活用しているのを多くの人が見過ごしているという。確かに効率をもたらしはするが、従業員にとっては自分がますます容易に交換のきく部品であるかのように感じたり、今している仕事よりも自分のほうが価値が低いと感じさせるリスクがある。

労働に対する新たなアプローチとして多くの人が Uber を話題にします。ところが、Walmart がすでにアルゴリズムによって管理されているということは見落とされているのです。私はこのような会話に全く違ったアプローチを提供したいと思っています。Uber と Walmart を同じ枠組みで論じなくてはならない理由を知ってほしいのです。

とはいえ、O’Reilly 氏を悲観主義者だとするのは正しくない。むしろ彼は好奇心が異常に強く、楽観主義ととれるケースがあると自認している。例えば、自動化や自動運転車・トラックのようなものは多くの人が恐れている雇用を奪う主体になるという考えに全面的に賛同していない。どれほど技術が洗練されようとも、こうしたシステムには人による介入が必要となる場合がある。しかしテクノロジーはこうした役割に変わりつつあり、それに対応するスキルが必要とされている。

新たなシステムが退屈な仕事を取り除き、ルーチンワークを代替してくれて私たちがクリエイティブな仕事ができるよう解放してくれる、というケースが望ましい。それにはもちろん、新たな訓練や教育、補償モデルが必要になる。しかし私たちが解放され別のタスクに集中できるようになれば、それによって新たなキャパシティが生まれて時間が活用でき、さらに大きな社会的課題を考えられるようになるだろう。

O’Reilly 氏はカンファレンスのウェブサイトにこう投稿している。

Next:Economy では、企業がテクノロジーを使うのは従業員に力を与えるためであって代替させるためではありません。それによって、以前はできなかったことができるようになるのです。

改めて言うが、これはあくまで希望だ。しかしさらに楽観主義的な方向へ向かうには、この変革が広くシェアされることによって得られるメリットを確かにするところから始めるべきだと O’Reilly 氏は言う。彼は引き続き問いを発しているが、次のようなある種のマニフェストを作り始めるところまで思索をめぐらした。

経済が本当の意味でうまくいくのは、ほんの一部の人だけでなく、皆がより豊かになるときです。裕福な人が享受している経済を皆のための経済にするのは、私たちの責任であるばかりか、チャンスでもあるのです。(中略)それこそ Next:Economy なのです。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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