3億米ドルを資金調達したインドのスタートアップ「AskMe」、倒産に追い込まれるに至ったおぞましいドラマの背景とは?

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Photo credit: Wikimedia.
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運命の8月17日、AskMe が閉鎖しテクノロジー業界を驚かせた。デジタルリスティングと e コマースを専門とする同スタートアップは、3億米ドルの財政支援を受けユニコーン企業になりつつあると言われていたが、一夜にして苦境に追い込まれたように見えた。だが実際には、同社はだいぶ前から問題を抱えていた。

経営陣は、ビジネスが崩壊していくのを隠していた。ビジネス停止が正式に発表されることは一切なく、いまだに大勢の従業員が給与を待っており、またベンダーも支払いを待ち続けている。AskMe がどのようにして苦境に陥ったかをここに説明しよう。

匿名希望の同社幹部が Tech In Asia に語ったところによると、AskMe がリスティングビジネスの軌道から外れ出したのは、インドの e コマース分野が盛り上がってきた頃だったという。

彼はこう語った。

私たちは良い商品を手にしていました。インド版 Yelpという位置づけまでのぼりつめたいと考えていました。ですがその途中のどこかで、色々な部分で透明性に欠けていることに気づいたのです。何かを変えようとすると、経営陣からの反対がありました。事業はプロフェッショナルな形で営まれていなかったのです。

最終的にできあがった商品は、私たちの希望とはかけ離れたものでした。

第2の化身

AskMe は、Getit Infoservices の2番目の化身だった。30年前に設立された Getit Infoservices は、商品やサービスの販売業者をディレクトリの形でリストアップしていた。Astro Overseas の子会社である Astro Entertainments Networks が、Getit に1,500万米ドル近くの出資を行った2010年にオンライン化された。2013年3月、Getit は Network18グループから Infomedia Yellow Pages と AskMe を買収した。続いて同社は、中小企業のデータベースを活用し e コマースプラットフォーム AskMe Bazaar で利用しようと試みた。

Getit は、インド国内にいる何百万もの小規模ベンダーを取り込むという途方もない課題に取り組んだ。こういった業者は、商品を保証する正式なカタログも基準価格も、整理された在庫も持っていなかった。

別の幹部はこう語った。

こういった販売業者がオンラインマーケットプレイスを活用できるように教育するのは大変でした。リアルタイムで現金を受け取れないというのが大きな問題の1つでした。

ベンダーは配送手段を持っておらず、商品を消費者に届けるためには Getit が介入する必要があった。そしてこれはより高いキャッシュバーンを意味した、と同氏は付け加えた。

AskMe employees protesting outside their office for unpaid dues
給与の未払いに対してAskMe社屋前で抗議する従業員たち

e メール問題

AskMe の経営不振が外に漏れるきっかけとなったのは、「選ばれた」従業員宛てに、AskMe を運営する Getit Infoservices のグループ CFO、Anand Sonbhadra 氏により8月17日付けで送付された e メールだった。

同メールは、これらの従業員にウェブサイト上の取引や支払いオプションを停止するよう指示するものだった。メールは他の従業員にリークされ、倒産の可能性を懸念した人々はパニックに陥った。

askme-com-shut-down

8月23日、AskMe は配送スタッフの雇用を外部委託していた人材派遣会社 Innov との契約を打ち切った。少なくとも Innov は、AskMe と正式なやり取りがあったわけだ。AskMe の従業員4,000人への対応はこれとは違った。Tech In Asia が AskMe 社員から収集した情報によると、従業員が最後に受け取った経営陣からの正式な通達は、出社はせず自宅勤務するよう指示する e メールだったという。その目的ははっきりしている。従業員を解雇すれば、会社は雇用契約に基づき解雇手当を支払わなければならない。つまり AskMe は、8月から給与を受け取っていない4,000人の従業員をいまだに抱えているというわけだ。

Tech In Asia は、法的手段に訴えることを検討している従業員数人から話を聞いた。

不払いへの対応を求め、同社を公に非難するこちらの Facebook ページのように、損害を受けた従業員が集まりいくつものグループが結成された。Tech in Asia が話を聞いた2つの従業員グループは、Getit と Astro を相手取って訴訟を起こす準備を進めている。当サイトがインタビューした従業員の多くは、辞職しようとしたが辞職を受理する管理層が残っていなかったと語っている。経営陣は皆会社を見捨てたということだ。

会社の管理職2人によると、AskMe Bazaar の CEO、Kiran Murthi 氏とグループ CFO の Anand Sonbhadra 氏はすでに6月から出社していなかったという。Murthi 氏は Tech In Asia と話すのを拒否して電話を切り、「メディアの人間」は「ろくでなし」だと非難した。Sonbhadra 氏には後でかけ直すよう求められたが、彼はそれ以降一切電話に出ていない。

6月はまた、3人の取締役会役員 ― Khader Bin Merican 氏、Hishan Zainal Mokhtar 氏、Ashok Rajgopal 氏が突然辞職した月でもある。

ある従業員が当サイトに語ったところによると、AskMe の共同設立者兼 CMD の Sanjiv Gupta 氏は、9月までは数人の従業員と WhatsApp グループ経由で連絡を取り合っており、問題は近いうちに解決すると何度も断言していた。今ではチャットグループはなくなり、Sanjiv 氏の電話番号はつながらないという。

興味深いことに、Sanjiv 氏は8月中旬に声明を出しており、責任を回避し従業員やベンダーに対する支払いを行うことなく国外へ脱出したとし、単独株主であり主要株主でもある Astro を真っ向から非難している。Sanjiv 氏はまた、Astro に対して個人的なマネジメントバイアウトを提示しているが、元経営陣によると、さまざまな理由で Astro に拒絶されたという。

買収か否か?

Gupta 氏は6月に初めて買収提案を行っているが、その内容のコピーを当サイトは入手している。彼は1米ドルで Getit の株式98.3%を獲得し主要株主となることを Astro に提示している。この提示は Astro に2つの選択肢を与えるものであり、事業撤退費7,650万米ドルの代わりに、Getit への資本注入として3,000万米ドルまたは5,000万米ドルを支払うというものだ。Gupta 氏は Astro に対して、資本注入と引き換えに Getit の「適切な転換型債券」を提示している。

Gupta 氏宛ての e メールには返信はなかったが、Astro Entertainment Networks Ltd(AENL)は次のように回答している。

これが実際に真剣に提示されたマネジメントバイアウトであったとしたら、AENL にさらに追加融資を要求する必要はなかったでしょう。買収がうまくいかなかった一番の理由はそれです。

Astro によると、「そもそも AENL と Sanjiv Gupta 氏の交渉は、同氏の意図が Getit を『継続企業』として維持することにあるという理解に基づいていたため」、条件交渉の際に提案された事業撤退費7,650万米ドルというのは適切とは言えなかったという。

Sanjiv 氏はまた、Astro に圧力をかけるため、Astro に直接接触し支払いを求めるよう AskMe の従業員やベンダーに呼びかけた。中には Astro に働きかけた者もいるが、大半は Astro を非難するのは避けた。

しかしながら、AskMe の崩壊は一般的にとらえられているほど急なものではなかった。同社の経営陣の1人によると、2015年に Astro は Getit の経営陣に対し、今後同ビジネスへの資金提供を継続するつもりはなく、ビジネスを支える見込み投資家を見つけるなど、経営陣は全力を尽くして資金を得る別の手段を探すべきだと伝えているという。Astro はこれを e メールによる回答で認めており、次のように述べている。

2015年9月に、AENL は Getit ビジネスに対して資金提供をしないことを示しており、またそれ以降に AENL が注入した資金は、Sanjiv Gupta 氏が新たな投資者を見つけるまでの間ビジネスを継続させるためのものです。

All that’s left of AskMe’s website.
AskMeのWebサイトはこれだけになってしまった

この Astro の決定は、AskMe のビジネスプランが「過度に挑戦的で競争力に欠ける」とする、独立系アドバイザーによる報告書に基づいていた。Astro は、経営陣に対しビジネスを縮小し取引を一時中断するよう忠告したとされる。これは、AskMe の問題が明らかになった日の1年近く前のことである。

AENL の e メール回答は、こう述べている。

その独立系アドバイザーは、同社のビジネスプランが過度に挑戦的で競合相手と比較評価した場合は競争力にも欠けるだけでなく、増大する費用を削減する実用主義的な手段にも欠けていると勧告しています。同氏はまた、現状を考えると同ビジネスは前進する見込みがなく、破綻寸前であるとの結論に至っています。

同氏はまた、現状を考えると同ビジネスは前進する見込みがないとの結論に至りました。この独立系アドバイザーによる見解を考慮し、取締役会はビジネスを縮小し取引を一時的に中断するよう経営陣に指示しましたが、経営陣はこれに応じませんでした。

Astro は8月に Gupta 氏の主張に反論する声明を出している。同声明によると、Astro は Getit に対し3億米ドルを超える投資を行ったが、経営陣はビジネスを黒字に転じることができず、合意された業績戦略も達成できなかった。クアラルンプールに拠点を置く同投資会社は、Getit の経営陣による AskMe の運営方法に不満を抱いていたことを明らかにしている。

クリック数の減少

同社ウェブサイトの訪問回数は、1月の時点ですでに1日当たりわずか1,000回にまで急降下していた。モバイル部門のある管理職が Tech In Asia に伝えたところによると、同部門に対する2月の発注は90%の大幅下落を記録したという。ある幹部によると、会社がすでに取引を一時的に中断し始めていたことが原因だという。

Tech in Asia が話を聞いた AskMe Bazaar のベンダーによると、2015年の11月から12月にかけ、すでに同社の支払いが滞り始めていたという。しかし Gupta 氏はベンダーに、ビジネスは通常通りで支払いの遅れは一時的なものであり、心配は無用だと個人的に保証していた。

実際、数字的に見ると心配する必要はまったくなかった。AskMe Bazaar は2015年9月までに、1日当たり100万米ドル相当の商品を売り上げている。2月には評価額5億米ドルを超え、ユニコーン企業としての地位を築きつつあった。大局的に見るためにここに挙げると、Flipkart は2012年に、Snapdeal は2014年に、Paytm は2015に、そして Shopclues は2016年に評価額が10億米ドルに達している。

e コマース企業の成功は通常、売られた商品の価値または総商品価値から判断されるが、利益性をはかる基準としては適切ではないと専門家はいう。実際に見るべき基準は、収益と純利益である。Getit の2014年3月の営業収益は、2013年の370万米ドルから630万米ドルへと跳ね上がった。一方、同時期の損失もまた1,470万米ドルから2,700万米ドルへと増加した。2015年3月には、損失額は4,500万米ドルと3倍に跳ね上がり、一方収益は640万ドルであった。

国内の商戦期には、Getit は月に1,000万米ドルもの現金を燃焼していた。経営陣のあるマーケティング担当者によると、経営陣は会社が現金を燃焼していることを知っていたが、「Gupta 氏が Astro との唯一の接点であった」ため、彼らの提案が考慮されることは一切なかったという。

Astro に関する詳細情報が耳に入ることは一切ありませんでした。すべてのやり取りは Gupta 氏が1人で行っていました。すべての人間を遠ざけるための彼の企てだったのかもしれませんし、Astro が透明性に欠けていたのかもしれません。いずれにしろ、組織にとっては問題でしかありませんでした。(同担当者)

Astro は、「Sanjiv Gupta 氏には会社の日常業務を管理する契約上の責任がありましたし、彼には責任を果たす義務があります…Gupta 氏はビジネスの経営に失敗した責任を一切取っていません」と語り、自社を擁護している。Astro はまた、Sanjiv Gupta 氏が提出した社内業績目標が達成されたことは1度もないと主張している。

経営陣は、Astro が AskMe の役割や Guptaq 氏の動き方を受け入れがたく感じていることは承知していた。にもかかわらず Astro は、財政的支援を取りやめたわずか5ヶ月前に、Gupta 氏への報酬を大幅に上げている。Astro はこの進展そのものについては否定していないが、それについてのコメントは控えている。

2015年に Astro が経営陣に警告を与えた後、Gupta 氏は投資家を探し始めた。

会社の別の幹部によると、Gupta 氏はコルカタに拠点を置く Emami から1億米ドルの資金をなんとか調達しており、2月には条件規定書への署名も取り付けている。しかし Flipkart の評価が落ちたのを受け、同社は投資を引き揚げている。

Tech In Asia が話を聞いた担当者によると、他に中国とアメリカからの投資家が2社あり、その投資額は1億米ドル相当であったという。

Astro は、中国の投資家の要求には応じていません。どうも株式を売却したくなかったようです。アメリカの投資家は、インド国内の通信関連取引に関連して中央捜査局が Astro に告訴状を発行したため手を引きました。(同担当者)

来たる聴聞会

マレーシア人億万長者 T Ananda Krishnan 氏率いる Astro グループは、インド国内で Astro Overseas Ltd、Astro Entertainment Network Ltd、系列会社の Maxis Communication を通じて、多数のデジタルメディア、インターネットベンチャー、および通信事業に投資を行っている。法律的な問題に直面し、AstroはMaxis Communication が管理する通信会社 Aircel と Anil Ambani 氏率いる Reliance Communication を統合し、他の小規模なデジタルベンチャーから手を引いている。

6月末までには、Astro はビジネスの撤退を推し進め投資を回復させる準備に取りかかっていた。7月には、AskMe 取締役会の取締役に、Sandeep Vats 氏と Prakash Mishra 氏の2名を指名している。ある幹部が、両氏に与えられた指令は基本的に、合意をとりまとめビジネスを閉鎖することであったと認めている。

他に投資家がまったくいない状況下で、Gupta 氏は自ら Getit を買収することを提案し状況の打開をはかった。同氏は以後同様の提示を、9月を最後に3回行っている。Gupta 氏はこのマネジメントバイアウトに1億米ドルに満たない額を提示している。

Gupta 氏による最後の提示は、各関係者は現状を維持しAstro は AskMe から撤退しないよう求めるという内容の会社法審判所(NCLT)による指示が8月31日に出された後に行われた。Gupta 氏は以前、Astroが事業撤退費を支払わずに国外に脱出しようとしたため会社がつぶれたとし、同社を非難している。

一方 Astro は、Getit に対して3億米ドル近くの投資を過去6年間にわたり行ったとし、なぜ会社がまったく成長しなかったのかを解明するとして会計簿の法廷用監査の実施を迫っている。同社は以前、終息プロセスの一環として、倒産した e コマースベンチャー AskMe を法定管理下で売却すると述べている。審判所は本件に関する聴聞会を11月9日に開催する予定である。

【via Tech in Asia】 @TechinAsia

【原文】

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