Jack Dorsey氏、ブロックチェーン、金融サービスの未来〜ラスベガスで開催されたフィンテックイベント「Money 20/20」から

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Bitcoin: Crypto Imperator via Flickr by Microsiervos
Bitcoin: Crypto Imperator via Flickr by Microsiervos

金融サービス産業において、巨大だが遠い存在でどこか神秘的な存在としてブロックチェーンは不気味に出現した。一部の先進的な銀行マンはそれを真摯に受け止め、自分たちの利益にするにはどうすればいいか解き明かそうとしている。誰もがブロックチェーンについて聞いたことはあるがほとんど何も知らず、静観を決め込んでいる。

ブロックチェーンでは10年前に PayPal で犯したミスと同じ轍を踏みたくない、ということにはおそらく誰もが同意するだろう。PayPal のことは当初完全に無視され、消えるのをただ待っていたのが、成長して脅威になって驚かされたからだ。

ブロックチェーンは一企業というわけではなくテクノロジーの分野全体を指し、何千もの人々、そして何百の企業から受け入れられる活動である。その脅威は、新手の銀行となったに過ぎない PayPal がもたらしたものよりはるかに大きい。金融サービス産業に従事している者でもどう対処すればいいか理解している人はほとんどいない。

これが、今週(10月第5週)ラスベガスで開かれた金融テクノロジーに焦点を当てたカンファレンス Money 20/20で私が持ち帰ったメッセージである。私がそのカンファレンスに参加したのはこれが初めてであったが、Money 20/20は設立されて4年で巨大に成長した。1万1,000人の参加者と400以上の出展者が Venetian および併設される Sands コンベンションセンターを埋め尽くした。チケットは一枚およそ3,000米ドルで、スポンサーがつかなくても膨大な利益が得られる。設立者が1年前にこのイベントを i2i に売ることができ、その価格が1億米ドルと報じられているのも驚きではない。

イベントの大半はブロックチェーンには焦点を当てていない。ほとんどの銀行員にとっては、EMT(チップカード)やモバイルアプリへの移行の方がずっと想像しやすいだろう。しかし、ブロックチェーン企業を呼んだセッションやブロックチェーンの技術、将来についての議論もたくさんあった。

Bitcoin の背景にある技術的コンセプトであるブロックチェーンは夢物語ではない。いろんな意味で、たくさんのパソコンに分散している取引データベースにデータを保存するという手法は、クラウド技術の手法によく似ている。Money 20/20の基調講演でそう語るのは Square の CEO、Jack Dorsey 氏だ。どちらも「分散型であり、冗長性があり、安全であり、遍在している」という。

誰もが「ブロックチェーン」について話しているが、Bitcoin のブロックチェーンについて言っているのでない限り、単一のブロックチェーンのことではない。暗号通貨やスマートコントラクトのプラットフォームもそれぞれ独自のブロックチェーンを利用している。端的に言うと、「ブロックチェーン」とは公に分散している取引台帳である。公になっているため取引を拒否することはできず、同じ値は二度と使用することができない。公開台帳が記録し、誰でもそれをチェックできる。分散しているため(コピーはインターネットのあらゆる場所で保持されている)、どこか一点だけ操作することはできず、障害も起こらない。

そして、理論上では非常に堅牢である。Money 20/20でも複数の登壇者が指摘していたように、Bitcoin のブロックチェーンは設立後のおよそ8年間で一度も不正アクセスを受けたことがないということを述べておく。Bitcoin を利用したアプリケーションや取引がセキュリティ侵害を受けたことはあるが(その際数百万米ドルの損害があった)、基盤となるブロックチェーンは途絶えることなく無傷でオンラインだった。素人には専門的すぎると思えるかもしれないが、重要なことだ。

Above: Bitcoin prices in U.S. dollars over the past year.
過去1年間のBitcoinの価格推移(米ドル)

実際のところ、Bitcoin 自体はある程度成熟してきた。Bitcoin はかなり変動の激しい通貨であり、リスクは承知の上で保有しなければならない。しかし、両替の手段としてはかなりうまくいっているようだ。世界中の Bitcoin による支払いのかなりの部分を担っている BitPay の Sonny Singh 氏は、別の通貨が出てきているにも関わらず、Bitcoin はブロックチェーン取引市場のおよそ99%を占めている、と私に教えてくれた。そして、BitPay の顧客の多くは Bitcoin に全く触れてすらおらず、Visa のように BitPay を支払手段として利用しているだけだという。Bitcoin で支払いを行うと、BitPay は取引を精算し、お金を顧客のアカウントに振り込むのである。Singh 氏は、BitPay の商業取引量は去年の3倍にまでなり、15秒毎に1回の取引がある、と述べた。

では将来何が待ち受けているのだろうか?

私たちが目にするだろうことは、Bitcoin およびブロックチェーンに基づいた証券取引である。規制により正確には「取引所」とは呼べないかもしれないが、T0のように株式の売買ができる場所を指すのに他にどんな単語を使えばいいのかわからない。初期から Bitcoin を採用し T0の生みの親でもある Overstock.com は今週(10月第5週)、T0のプラットフォームで一部の株式の売買を開始することを発表した(Overstock の計画については昨日=10月24日の記事を参照のこと)。長所として、これまでの株式市場では決済まで通常3日かかっていたが、それが10分で完了することが挙げられる。

これは従来の株式市場にとって脅威となるだろうか?その通りだ。

私たちは従来の株式市場を焼き払ってそこに再建しているんです。(Overstock.com の Judd Bagley 氏)

大手銀行はブロックチェーンを国際送金用として考えている。Visa は Money 20/20で Visa B2B Connect と呼ばれる新サービスを発表した。このサービスではブロックチェーン技術を持つ Chain のシステムを利用している。その詳細な機能はよくわかっていないが、法人顧客が国境を超えて B2B 取引をするためのカスタムブロックチェーンネットワークで、Visa が運営するものだ。

Visa だけではない。主だった金融機関の少なくとも3分の2は、今後3年以内にブロックチェーンを利用したサービスを展開できるよう取り組んでいる。

当然コスト削減できる可能性が考えられる。多くの国際銀行では総取引額の数%が振替手数料として課される。Western Union を利用したら8%支払わなければならない。PayPal の場合は3.5%だ。ブロックチェーンを利用した取引システムだとはるかに安くなるはずだ(例えば BitPay は世界中のどこで利用してもたった1%しか課さない)。

企業は異なるブロックチェーンをつなぎ合わせようとしている。すでに書いた通り、Bitcoin は唯一のブロックチェーンというわけではない。Ethereum は有力な代替企業として急成長しているが、通貨取引としてだけでなくスマートコントラクトを可能にするツールとしても有力視されている。また、暗号通貨も他にたくさん出てきている。別々のブロックチェーン間での取引を促進するにはどうすればいいだろうか?現時点では、何らかの媒介通貨や貯蓄を使った手形交換所である取引所を利用する必要がある。ブロックチェーン同士で直接やり取りできるようにする何らかのプロトコルを作った方が良いだろう。こういったプロトコルを Ripple が開発した。今やオープンソースとなった Interledger Protocol である。しかし他にも開発中のものが確実にある。この相互接続問題をきちんど解決すれば、TCP/IP の発明、すなわちインターネットの誕生に匹敵する成果になるだろう。

Above: Ethereum founder Vitalik Buterin on stage with author Don Tapscott at Money 20/20.
Money 20/20に登壇したEthereum設立者のVitalik Buterin氏(左)と作家のDon Tapscott氏

Ethereum はまだ進行中のプロジェクトだが、設立者である Vitalik Buterin 氏は明らかに天才である。また非常に若く、野暮ったい男でもある。彼は野心があるにも関わらず、Ethereum の成功に驕るようなところはない。作家の Don Tapscott 氏とステージ上で行った会話で Buterin 氏は、DAO と呼ばれる分散化した1億6,000万米ドルの投資資金から5,000万米ドルを奪い取ることが可能になるような弱点を覆すよう彼が Ethereum に当てたパッチについて、物議を醸してはいるものの楽観的であった。批評家はこれについて、ブロックチェーンの不変性への挑戦であり、Ethereum のシステムの信頼性を落とすとみている。しかし Buterin 氏は「不変性は絶対的なものではなく」、社会的な目的を果たす必要がある、と考えている。現在のところ、Ethereum を展開するという需要はブロックチェーンの不変性を遵守するという需要より大義である、と彼は述べた。Ethereum はゆくゆくは成熟するだろうが、「それまでは、不変の芸術品ではなく進化していくエコシステムと考えるべきだ」と彼は述べた。

ガバナンスはグレーゾーンだ。Buterin 氏は、いかなるシステムにおいても協働する人のグループによる何らかのガバナンスが必要である、という考えに同調するようだ。完璧なプロトコルをつくり、それ以降は全てを処理できるようにする、と言うのは無茶だろう。政治が必要でありまた避けられないことは彼も承知している。ブロックチェーン空間にいる他の人と同じく彼も現実世界に直面しており、そこではいずれ監視者が何が起こっているのかを理解し、制限を課すようになるだろう。

加えて、匿名性はブロックチェーン取引に必須の特性というわけではないことにも言及しておこう。実際、Silk Road を運営していた Ross Ulbricht 被告が数年前に後悔の念を示したように、ブロックチェーンでの取引の不変性は匿名性とは反対に働く。ブロックチェーンは個人の過去がわかる記録である。BitFury Group の Jamie Smith 氏がパネルで指摘したように、多方面から切り出すことができる。「不変の記録を持っているなら、独裁政権もそれに非常に興味を持つでしょう。」

いまだに世界中の監視者は一般的にブロックチェーンに対して、初期の仮想通貨(E-Gold のような)よりもはるかに熱狂的であるが、世界の金融規制がブロックチェーンの世界を制限するときがくるだろう。例えば、国境を超えた取引プラットフォームの運営者は、薬物取引やマネーロンダリングなどに利用されていないかなど、銀行と同等の保証をすることが必要になるだろう。少なくとも法の範囲内で運営したければそうしなければならない。

チャンスは大きい。「20年毎に本当にすごいものが現れるんです。これがそうです」BitFury の Smith 氏はそう述べた。今後数年で、地球上の誰もが何らかの携帯デバイスを持つようになる。そして何らかのユビキタスな、地球のどこからでもアクセスできるインターネットが可能になるだろう。これら2つを結びつけると、速い・便利・取引手数料が安い、という方向に世界が傾かない訳がない、と彼女は述べた。

Above: Bobby Lee of BTCC wears a hat that says “Make Bitcoin Great Again.” Image Credit: Dylan Tweney
BTCCのCEO、Bobby Lee氏の帽子には「偉大なBitcoinを再び」と書かれている.Image Credit: Dylan Tweney

Bitcoin 自体についてはどうなるかというと……どうなることやら。パネリストの一人、Blockstream の Eric Martindale 氏は、Bitcoin の価値は今後12ヶ月で10倍、6,000米ドル以上になると予測した(現在の Bitcoin の価格はおよそ653米ドル)。彼が冗談を言っているのか、自分の保有している Bitcoin の資産価値を上げようと大げさに言っているのか、あるいは本当にそう信じているのか、私にはわからない。そこまで相場は上がらないと思われる。実際のところ、Bitcoin 自体はもっと柔軟で拡張可能なブロックチェーンに追い越されて終わってしまうかもしれない。基幹となるテクノロジーは、詳しい人に言わせると理にかなったものであり、Bitcoin を事業計画に組み込むか否かは別として、将来的にはブロックチェーンを基にした企業がさらにたくさん出てくることに疑いの余地はないだろう。

最大の障害はユーザビリティである。Bitcoin やブロックチェーンは、消費者はもちろん大多数の銀行員が充分理解できるようになるまで前途遼遠である。しかし、現在の金融システムと結びつけられるよう多くの人が取り組んでおり、そちらの方向に進んでいくように思われる。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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