バンガロールのメタアクセラレータKyron Global——アクセラレータの可能性に懐疑的な投資家が率いる、インド流オープンイノベーションの現場

by Tech in Asia Tech in Asia on 2017.1.6

kyron-venkat
起業家と話をする、Kyron Global の CEO Venkat Raju 氏
  • Lowe は、家の修繕用具を扱うアメリカ発の多国籍小売チェーンだ。同社がバンガロールで展開するイノベーションラボでは、あるステルスのスタートアップが、排気ガスに含まれる炭素から3Dプリント用の単繊維を開発している。このラボでは、Lowe が10年から15年後には家庭内の体験にしたいと考えるような、VRやロボティクスなど新時代技術が開発されている。
  • 下着ブランドの Victoria’s Secret は、バンガロールで女性向け下着ビジネスに特化したユースケースをスタートアップと開発するセンターを運営している。これらのユースケースは主に、データ分析、サプライチェーン、デザインイノベーションを伴う。
  • Arya は、人工知能プロダクトを開発するプラットフォームを運営しているだ。Arya は、チューリッヒに本拠を置く再保険会社 Swiss Re がバンガロールに開設したアクセラレータから輩出されたスタートアップで、ここでは人工知能を使った、穀物保険向けの予測分析プロダクトを開発した。

これらの3つはそれぞれ異なるプログラムだ。一つは、スタートアップが学術機関と共に長期的なイノベーションを起こすラボ。もう一つは、ユースケース・ドリブンなイノベーションのためのアウトソーシングセンター。さらには、スタートアップのための、より広範におよぶコーポレートアクセラレータ。この3つに共通するのは、アメリカやインドに拠点を置く、ある種のメタアクセラレータ Kyron Global が運営していることだ。

Kyron の CEO Venkat Raju 氏は次のように説明した。

我々は、イノベーションを適用するさまざまなステージで、さまざまな企業のために、それぞれに合ったイノベーションプログラムをデザインし運営している。画一的なアプローチは通用しない。(Raju 氏)

このモデルがどう進化しているかについては、まずは最初から見てみる必要がある。

バンガロール化

lowe-innovation-labs-india
Lowe Innovation Labs, Bangalore
Image credit: Lowe

千年の変わり目となる現在、アメリカでは職を失うことを「Bagalored(バンガロール化)」という言葉で表現されるようになった。仕事がバンガロールにアウトソースされたことに起因するからだ。Infosys や Wipro のような大規模な IT サービス企業が、バンガロールを世界のバックオフィスへと変えた。

そして新しいトレンドが生まれた。多国籍企業はアウトソーシングするのではなく、アメリカの何分の一かの費用で IT サービスが享受できるよう、インドに自らバックオフィスを作り始めたのだ。これらは「国際化された社内センター(GICs; Global In-house Centers)」と呼ばれ、業界団体の Nasscom によれば、インドには現在、そのようなセンターの存在が1,000を超えている。

アメリカ拠点の小売チェーン Target のインド責任者 Lalit Ahuja 氏は2003年、多国籍企業のインドにおける GICs 開設の支援した機会を振り返る。彼は、GICs を開設する上で必要になる不動産手配から人材探し、金融から規制問題までを手がける Ansr という会社を設立した。コンサルティング会社と違い、Ansr は開設する GICs に自ら20〜25%の株式を確保して投資するのだ。

これらの GICs は5年から7年に及ぶジョイントベンチャーとして運用され、その規模が期待値に達した時点で Ansr は出資者から抜けた。Target、JC Penny、Wells Fargo、Eli Lilly など、Fortune 500 の22社が Ansr と手を組み、インドに GICs を開設した。

そしてここ数年でスタートアップが業界をディスラプトするイノベーションが始まったのにつれ、これらの国際企業に新たに Ansr を必要とする状況が生じたのだ。

アクセラレータにおける、ビジネスモデルの欠陥

2013年、Ansr はインドに Kyron というコーポレートアクセラレータを設立した。このアイデアは、イノベーションを求める企業のポートフォリオとスタートアップをマッチさせるというものだった。

Ahuja 氏 は一年後、ウォール・ストリートのインベストメントバンカーで、ベイエリア出身の Venkat Raju 氏を Kyron の責任者に任命した。

アメリカで2つのスタートアップを設立した Venkat 氏は任命された当時、疑念を持っていたと語る。何より彼はアクセラレータのビジネスモデルを信用していなかった。

グローバルなアクセラレータやインキュベータに対する私の評価は、アメリカであれどこであれ失敗してきたというものだ。ROI(投資対効果)という点で、成功している者は誰も居ない。

Techstars や Y Combinator が成功者として見られるのは、彼らがビジネスモデルの欠陥を隠して、ユニコーンに投資してきたからだ。(Raju 氏)

ユニコーンからリターンを得て何が悪いのかと、筆者は尋ねてみた。

ユニコーンから金を稼いでるなら、それは資金調達のゲームをしているに過ぎない。アクセラレーションと言ってはいけない。フォーカスは起業家に置かれるべきだ。アクセラレータはプログラムを通じて、多くの起業家に物質的な違いを打ち出すべきだろうか。(Raju 氏)

彼はそうは考えないようだ。

そして第二に、GICs を運営する Ansr とそれらの GICs にスタートアップを送り出すアクセラレータには利益相反が生じると感じた。しかし、Ahuja 氏は Raju 氏に自由な活動を許し、Raju 氏がまず最初に掲げた議案はアクセラレータの Kyron を閉鎖するというものだった。

それに代えて、Lowe、Victoria’s Secret、Target、Swiss Re などの企業によるパートナーアクセラレータのような、カスタマイズされたイノベーションセンターを構築すべく、Kyron Global は多国籍企業と直接協業を始めた。Kyron Global は適切なスタートアップを企業に供給し、スタートアップにメンタリングを提供し、スタートアップと企業の両社が協業するのを支援している。

バリュープロポジション

バリュープロポジションは、インドの技術人材と比較的安いコストからもたらされる。

イノベーションとは文字どおりハイリスクだ。実験を10回やれば、そのうち6〜7回は失敗に終わるが、残りの2〜3回が失敗を補うものになる。バンガロールおける実験のコストは、ニューヨークやロンドンで行う場合のコストの4分の1か、10分の1にさえなるケースがある。つまり、通常10回実験する場合と比べ、ここでは実験を50回できて、成功の可能性を高められるわけだ。(Raju 氏)

インド企業も高みの見物をやめ、スタートアップの協業を始める必要性についに気づき始めた。Raju 氏は Kyron が大企業2社向けのイノベーションプログラムにおける契約で、最終段階にあると語った。しかし、それは簡単なものではない。

インドの CIO は外国企業に多額を支払うことを気にしないが、それをインドのスタートアップに対して払うことには、精神的な壁が生じるようだ。そのメンタリティは「その仕事は、10人いればできるだろう」というようなもの。彼らは、それがプロダクトであって、利益を生み出すための長期的な成長サイクルが必要となるという事実には感謝しない。(Raju 氏)

多国籍企業相手でさえ、Kyron はスタートアップとの文化的および組織構造的な乖離を埋めなければならない。

ものづくりスタートアップのエンジェル投資家でもある Raju 氏は、次のように語った。

(大企業の)イノベーションチームから支援があるかもしれないが、それでも大きな決断をするビジネス部門との間には乖離がある。スタートアップはファンタジックなデモデイでプレゼンテーションできても、内部では何も生じない。目に見える成果の無いまま、4〜5ヶ月を費やすのだ。

Kyrn はすべての問題を解決するために、GICs の開設を支援した企業とともに、ハイレベルな人脈を最大限に活用することができる。Ansr を通じて Kyron と協業していない企業には、スタートアップのアクセラレーションにより困難を伴うだろう。

支援するスタートアップは、多くの問題がもたらす。彼らの多くは、データのインテグレーションから法的なコンプライアンスまで、企業として準備が整った状態という概念を、あまり持ち合わせていないからだ。

Raju 氏は現在、グローバルな小売業や金融に長けた5人のマネージャーと共にイノベーションプログラムを運営しており、1人あたり3〜5社のスタートアップを担当している。メンターや分野の専門家は、アクセラレータの内外から必要に応じて動員され、彼らのネットワークを活用する。

現在の目標は、インドでのイノベーションセンターやスタートアップ・アクセラレータを開設したいと考える大企業を増やせるよう、プログラムのモデルをよりパッケージ化することだ。

Raju 氏は、依然として純粋なアクセラレータの可能性には懐疑的だ。彼が「パートナーアクセラレータ」と呼ぶ、大企業とスタートアップの引き合わせを端緒にデザインされたイノベーションプログラムから、目に見える結果が生まれることを彼は心待ちにしている。

【via Tech in Asia】 @TechinAsia

【原文】

ニュースレターの購読について

毎日掲載される記事の更新情報やイベントに関する情報をお届けします!

----------[AD]----------