〈中国のモバイル医療・ヘルスケアトレンド〉急速な高齢化、慢性疾患や糖尿病患者の増加にどう対応するか?

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編者注:本連載は中国の市場調査会社 Daxue Consulting(博聖軒) のデジタルマーケティングマネージャー Federico Sferrazza 氏の執筆である。画像は情報デザインエージェンシー Diatom の共同設立者 Kevin Maher 氏による。第1部では中国におけるヘルスケアの現状の問題を紹介し、第2部では、最新技術、特にモバイルメディカルヘルスケアがこれら問題の大部分をいかに改善していけるかを分析していきたい。

中国でデジタル技術といえば、モバイル技術、ソーシャルメディア、e コマースといったところがほとんどであろう。ヘルスケア業界は他業界と比較すると、伝統的にデジタル改革の歩みが遅く、最もイノベーティブでないグループに属する。ヘルスケア業界において新たなテクノロジーは大きな挑戦となるが、同時に、イノベーションや患者のニーズに応じたパーソナライズされた治療などの大きなビジネスチャンスがある。デジタル技術の進歩はすでに中国の消費者の行動やライフスタイルを大きく変えてきたが、ヘルスケア業界もそれにならいデジタル改革を取り入れていくべきである。ヘルスケア業界における民間企業のデジタルへの投資は2016年上半期で14億米ドルに達しており、2015年全体の投資額を上回っている。革命の話はいったん置いておき、ここでは中国のヘルスケアにおける最大の問題となるトレンドについて紹介しよう。

一人っ子政策と中国の高齢化社会

中国社会の急速な高齢化と、それに続く政府のサポート政策が示すのは、中国ヘルスケア業界が以前より高い関心を得ているということだ。中国社会は高齢化しており、その勢いには減速の兆しはない。2016年には、1億4,200万人が65歳以上で人口の10.35%を占めている。この数字は2050年までに3億3,000万人に倍増すると予想されており、これは中国人4人に1人の計算だ。しかしこの人口危機はもっと早く訪れるとさえ考えられる。中国は2030年までに世界で最も高齢化した社会になると予想されている。

中国で35年以上続いた「一人っ子政策」は2016年1月に終わりを迎えたが、人口増加を抑えることに成功し、経済を確実に安定させた。合計特殊出生率(TFR)は1979年の女性1人あたり3.78人から、2016年には1.6人にまで減少している。しかしこの一人っ子政策の影響は、すべてが望ましいものだったわけではない。中国人全体の中で高齢者の占める割合は、過去15年間で激増した。さらには、批判も多かったこの政策を廃止することが、中国政府が狙った結果をもたらしたわけではなかった。

長きに渡り女性の合計特殊出生率を抑えたことと、子供を生み育てることにかかる高いコストは、中国人が子供を持ちたいという願望を著しくそいでしまった。一方、人口増加のペースが遅かったために、教育及び医療の社会リソースが希薄であるといった問題は緩和されてきた。生活と医療の質の向上により、中国人の平均余命は71.4年から77年に向上し、2050年には80年に届くと予想されている。

このように急速に増加しつつ高齢化する人口は、世界第2位の経済大国の成長に懸念をもたらすと思われる。労働者100人に対する高齢者の比率を表す高齢者扶養率は、13.7から2050年までに46.7に増加するとみられており、すでに問題を抱えるヘルスケアの構造にさらなる歪みが加わることに中国がどう対処していくのか、世界中が注目している。

慢性疾患の増加

高齢者人口の増加は、平均余命の上昇とともに慢性疾患の増加を伴っている。慢性疾患、高額な医療費の増加、治療の長期化に苦しむ中国人が増えるにつれて、中国のヘルスケアシステムは不安を帯びてきている。いまや慢性疾患は中国で重要な国民的健康問題となっているのだ。

中華人民共和国の国務院新聞辦公室によれば、毎年2億6,000万人にものぼる人が医師により慢性疾患と診断されているという。年間死亡数のうち85%が慢性疾患によるもので、最大の死因はガン(27.79%)、脳血管疾患(20.22%)、心臓病(21.3%)である。慢性疾患の広がりと発生率の高まりにより、政府は真摯な対応を迫られている。

慢性疾患に立ち向かうために、政府は「中国慢性疾患防止ワークプラン(2012-2015)」を立ち上げた。予防プランのカギとなるのは、モニターデバイスを用いて慢性疾患を治療することだ。いずれにせよ、慢性疾患は治療に費用がかかるもので、慢性疾患治療はヘルスケア消費の70%を占めている。世界保健機関(WHO)は、中国において2006年から2015年の間に、心臓病、脳卒中、糖尿病で合わせて3.91兆人民元(5,580億米ドル)の医療費が発生していると推計している。慢性疾患の継続的な増加は、将来的に医療費がさらに高額になることすら示唆している。中国の国家衛生・計画生育委員会は、メディカルケアにかかる総額は2012年に2兆8,910億人民元だったと推計しており、これは2011年に対して4,568億5,000万人民元の増加である。

高額な医療費にもかかわらず、多くの中国人は慢性疾患に対して適切なケアが受けられていない。将来は、慢性疾患治療がより多くの医療リソースを費やす可能性が高い。中国政府は現在、国民全員が基本的な医療保険を受けられるべく制度を整えている段階だ。しかし、慢性疾患の増加により、この活動にかかる費用は予想より高額になっている。したがって、政府が慢性疾患の治療をより手厚くすることと、予防することが重要である。

糖尿病の爆発的流行

中国は現在世界最多の糖尿病患者を抱えており、しかも恐ろしいペースで増加している。糖尿病患者の爆発的増加は過去の研究でも考察されているが、最新の調査によれば、患者数において中国がアメリカを抜き去っており、最新データでは中国の成人の11.6%が糖尿病にかかっているという。中国人の糖尿病人口はおよそ1億1,400万人になっており、全世界の糖尿病人口の約3分の1を占めている。国際糖尿病連合(IDF)による2015年の推定では、中国の糖尿病患者数は1億1,000万人で、人口のおよそ11%を占めていた。さらに悪いことに、この研究の中で9万9,000人を対象に行った調査では、半数が糖尿病予備軍といえる血糖値を示した。これは、正常値より高いが糖尿病と診断されるほど高くはないレベルである。一部では、4億9,340万人の中国人が糖尿病予備軍とも推計されている。

これらの調査結果からわかるのは、糖尿病の爆発的広まりが中国全体の健康問題になっていることだ。1980年代には中国で医師が糖尿病患者を診ることはまれだったが、中国はそれから、世界最多の糖尿病患者を抱える国に成長してしまった。

中国 Novo Nordisk マーケティング部門 VP の Jeppe Thieseen 氏は、7,000万人という天文学的数値、ドイツの人口とほぼ等しい数の糖尿病患者が治療を受けられずに生活していると推定している。

IDF は中国の医療費のうち13%が糖尿病治療にあてられていて、2030年までに年間470億米ドルにのぼると推定しており、糖尿病は中国のヘルスケアシステム最大の問題としてのしかかっている。糖尿病にかかっている人口は近年急増しており、2040年までに1億5,000万人に届くと予想されている。中国政府にとっての現在の最大の課題は、糖尿病の症状および早期治療の利点について国民の認知度を高めることである。

【via Technode】 @technodechina

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