東京都が起業家の卵を育てる支援拠点「TOKYO創業ステーション」を丸の内に開設——仕事帰りや買い物ついでの〝スタートアップ体験〟を可能に

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東京都は、東京・丸の内に起業を促進する拠点として「TOKYO 創業ステーション」を開設し、26日オープニングセレモニーが開催された。明治安田生命本社ビル(丸の内 MY PLAZA)の1階と2階に位置し、1階はイベントスペース、ラウンジスペースなどから構成される「Startup Hub Tokyo」、2階は「創業ワンストップサポートフロア」として創業のための手続や資金に関する相談を受けることができる。

一極集中を肯定するわけではないが、「スタートアップと言えば、渋谷」という感が否めない中、「なぜ、日本の大企業の本社がひしめく丸の内なのか」と頭をかしげた読者もいるかもしれない。あるいは、東京都のスタートアップ支援と言えば、すでに運営されている「TOKYO STARTUP GATEWAY(通称 TSG、東京都が主催し ETIC. が受託運営)」や「青山スタートアップ・アクセラレーション・センター(通称 ASAC、東京都が主催しトーマツが受託運営)」があり、昨日にも起業支援の取り組みを発表したばかりなのに、またもや縦割り行政の産物かと舌打ちした東京都民もいるかもしれない。

中小企業白書2014から、起業希望者と起業家の人口推移

事の発端は、中小企業庁が発行している中小企業白書に始まる。上図はそのグラフを転載したものだが、この10年程度の統計を見てみると、起業環境は良くなっているのにもかかわらず、起業家人口はほぼ横ばい。そして何より驚くべきは(起業する前の)起業希望者の人口は減少する傾向にあるということだ。この統計の根拠は総務省「就業構造基本調査」によるもので、得られた値が世相を正しく反映できているかどうかには幾分の疑問は残るが、ともあれ、スタートアップが国の将来を作ると言われる時代においては由々しき問題である。

東京都としては、すでに起業家になった人、MVP(最小限度製品)を作ったような人には TSG や ASAC を活用してもらい、起業にあまり縁の無かった人々に起業の可能性を知ってもらうために、本施設を開設したと説明した。1階の「Startup Hub Tokyo」はホッケースティック的な成長を目指すスタートアップを考える人向け、2階の「創業ワンストップサポートフロア」はサステイナブルな事業成長を目指す中小企業を考える人向けと位置付けられている。日本の一等商業地の1階というロケーションには、大企業に務めるビジネスパーソンの仕事帰りや、買い物客にも気軽に立ち寄ってほしいという狙いがあるそうだ。

Startup Hub Tokyo Opening Ceremony

Startup Hub Tokyo を統括する東京都産業労働局商工部創業支援課の沼賀博之氏によれば、Startup Hub Tokyo を作る上で「スタートアップカフェ福岡」や「スタートアップカフェ大阪」(それぞれ、福岡市および大阪市からカルチュア・コンビニエンス・クラブ=CCC が受託運営)を参考にしたとのことだが、東京都の行政単位としての制約上、同じ運営形態をとることはできず、場所は東京都が借り上げ、運営は提案内容が採択されたテクノロジーシードインキュベーションに委託されている。

Startup Hub Tokyo には起業経験者が創業支援コンシェルジュとして常駐、土日祝祭日を含め年中無休で運営され、自主企画またはパートナー企業が企画したイベントを年間300回以上開催する予定とのこと。起業支援に資する内容であれば、一般からの持ち込み企画も歓迎とのことだ。

基本的には東京都民でなくても誰でも無料利用できるが(TOKYO 起業塾の受講のみ有料)、ハンズオン支援を受けたり、会員サロンを利用したりするにはメンバー登録が必要で、参加者は活動度合いに応じて「メンバー」「アントレメンバー」「プロジェクトメンバー」「フェロー」の4つに分けられ、利用可能なサービスのバリエーションが増えてゆく。東京都では都税から運営費用を捻出している関係上、原則として東京都内で起業する意思のある希望者の利用を前提としているが、実運用上、会社を登記する国や都道府県・起業拠点のロケーションが問われることはなく、結果的に世の中のスタートアップ機運の醸成につながればいいという寛容な姿勢だ。

女性の起業を支援する観点から Startup Hub Tokyo にはキッズルームが設けられ、火・木・土の各曜日には保育士が子供の面倒を見てくれる(人的リソースの制約から、当初は毎日とはならない模様)。2階の創業ワンストップサポートフロアにも、女性起業家にのみ応対するプランコンサルタントが常駐し、小池百合子知事ならではの女性視点の気配りが所々に見受けられる。

オープニングセレモニーのこの日、二十一世紀倶楽部理事事務局長でヘッドライン代表取締役社長の一木広治氏をモデレータに迎え、ヤフー CEO の宮坂学氏、スペースマーケットの重松大輔氏、リンクバルの吉弘和正氏を交えたパネルディスカッションが持たれた。特に、普段からスペースを扱う事業を行なっている重松氏は、行政主導の創業支援拠点が抜群のロケーションにできたことに驚きを隠せなかったようだ。

東京都では年間利用者2万人、当面でメンバー登録者2,000人の達成を目指している。丸の内にできた新たなスポットが、起業家輩出のハブになることができるかどうか。ここから新たなスタートアップが生まれる日を楽しみに待ちたい。

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