Monozukuri Hardware Cupでファイナリスト8チームがピッチ登壇——QDレーザ、PLENGoer、VAQSOは米本家イベントへの出場・出展権を獲得【ゲスト寄稿】

mari_futagami本稿は、「Monozukuri Hub Meetup」を主宰する Makers Boot Camp のコミュニティマネージャーの二神麻里氏とよる寄稿を再構成したものである。

Makers Boot Camp は京都を拠点とするハードウェアに特化したスタートアップアクセラレータである。本稿における写真は、tumiki photo の松浦未希氏による撮影。


Monozukuri Hardware Cup 2017 が、2017年2月9日に Hack Osaka 2017 の共催で初開催されました。Monozukuri Hardware Cupは、「世界を舞台に活躍する日本のモノづくりスタートアップ企業」の登竜門となるべく、モノづくり起業推進協議会が主催するピッチコンテストです。

モノづくり起業推進協議会は Darma Tech Labs(京都)、FabFoundry(ニューヨーク)、TechShop Japan(東京・港区)の3社により立ち上げられています。このコンテストは2015年から米国で開催されている「National Hardware Cup」の日本地区予選という位置づけになっています。さまざまなな全国大会と言うのは東京で行われる場合が多いですが、今年を含めた今後3年間は関西で Monozukuri Hardware Cup を開催することが決定しています。

Hardware Cup Final は米国ピッツバーグで2015年より開かれていますが、地方都市であるピッツバーグで開かれるのには理由があるのです。もともと鉄鋼の街として栄えたピッツバーグですが、1970年代に安価な輸入鉄鋼により、地方経済は致命的なダメージを受けました。カーネギーメロン大学を始め優れた大学を有する学術都市としての一面もあるピッツバーグは、産業基盤をハイテク産業をはじめ、保健、教育、金融へと転換し、1980年から徐々に新しい都市に変貌を遂げました。

Google、Apple、Facebook などのイノベーション部門が集まり、さらに創造的な環境へと発展を続けています。そんなピッツバーグを本拠地とし、Seed Accelerator Rankings Project で全米Top 20にも選出されたハードウェア専門のアクセラレータ AlphaLab Gear が Hardware Cup Final を主催しています。AlphaLab Gearはキープレイヤーとして学術界、産業界、VC などとピッツバーグに有機的なエコシステムを作り上げています。

AlphaLab Gearの Ilana Diamond 所長は、Hardware Cup を開催する理由を次のように語っています。

米国では、ハードウェア・スタートアップは、ウェブやアプリ・スタートアップと比べて、出資を受けるのに苦労している。投資家やメディアの理解が得られていない。

ピッチとブース出展

今回参加したスタートアップ8社の開発製品を直接体験してもらえるブースを用意して、来場者にも体験してもらいました。実際に手に触れて、体験してもらうことでハードウェア開発への理解がより深まり、同時にスタートアップ同士の交流も進んでいたようです。

1社4分間の持ち時間でプレゼンし、5分間の審査員からの質疑にすべて英語で対応しつつ、米ピッツバーグで開催される決勝大会の切符を争うことになります。これは米国ファイナルと同じ形式で、本選を見据えた戦いとなりました。

アトモフ

アトモフ共同創業者兼CEO 姜京日氏

最初の登壇者は京都のアトモフです。アトモフは世界初のスマートなデジタル窓「Atmoph Window」を開発し、家庭に新たな旅行体験を広げることを目指しています。創業者兼CEOの姜氏が米国で窓のない環境を変えたいと思った経験からアトモフを開発したそうです。

液晶ディスプレイに世界中の風景動画と音が流れ、ハワイやニュー ジーランド、スイスやパタゴニアなど、まるでそこにいるような気分が味わえるそうです。窓専用の映像はすべて独自に提携カメラマンらによって4Kで撮影され、アプリ上から購入することが可能です。世界30カ国から500以上の画像が現在アップされているそうです。また天気予報や時間など日常生活で必要な情報も表示が可能となっています。

今後はヘルスケアやホームハブとしても応用利用も視野に入れているそうです。

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Dendama

Dendama CEO 大谷宜央氏(右)

Dendama は、対戦できるけん玉「電玉」として世界展開を目指しています。けん玉の競技人口は、日本だけで300万人とも言われており、世界中でブームとなっています。Dendama は、アプリと連結した複雑な技の判別も可能なセンサーを搭載したけん玉で、世界中のプレイヤーと対戦することが可能となります。

今後は Kickstarter や SXSW への出展を計画しており、ARとの連携も視野において活動を行っていく予定だそうです。

Lightflyer

Lightflyer CEO 柿沼薫氏

東京大学発のスタートアップで、13年間に及ぶ「マイクロ波ロケット」のノウハウを活かしたテクノロジーを利用した超小型衛星打ち上げサービスを行っていく計画です。Lightflyer のロケット打ち上げ装置は、既存装置による場合のコストの1/100、具体的には超小型衛星1機に対して、数百万円程度にまで抑えることが可能です。

超小型衛星を低軌道投入出来る装置の完成に向けて、東京大学や Carnegie Mellon University と連携し研究開発の体制を整えるそうです。

mille-feuille

mille-feuille の河吉成氏

誰でも回路図が自動で作れる自動回路図生成ツール「mille-feuille(ミルフィーユ)」を使い、プログラマやアーティストが自由に自動でカスタム回路を作れるようにサポートします。mille-feuille はベース基板、モジュール基板、デバイス基板で構成されており、デバイス基板部分はオープンハードウェアとし、回路設計者も自由に参加し販売できます。

基本的には基板の販売が同社の最初の利益となりますが、回路図(及びそのファームウェア)生成ツールは Web ツールなので、個別にカスタマイズし企業にライセンス販売することも計画しています。また、デバイス基板のマーケットプレイスを用意して、Google Play のようなサービスへも応用できるそうです。

PLENGoer Robotics

PLENGoer Roboticsの富田敦彦氏

オリジナルなパーソナルアシスタントロボットを開発している PlenGoer Robotics。CES でも出展した、カメラ機能や家電をコントロールしてスマートホームに変換できるパーソナルアシスタントロボットを今回ピッチで紹介してくれました。

これまでのカメラは、自分でシャッターを押すものでしたが、PlenGoer Robotics のカメラはシャッターチャンスを認識するため、自動で自然な写真を撮影することができます。

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QD レーザ

QDレーザ 視覚情報デバイス事業部 事業開発マネジャー 宮内洋宜氏

QD レーザはフレームの内側に内蔵したレーザープロジェクタから、装着者の網膜に直接映像を投影する網膜走査型レーザアイウェアを開発しています。全盲ではないものの、ぼやけた世界の中で暮らしている視覚障害者(ロービジョン)は日本国内に約150万人、途上国も含めれば世界で2億5千万人いるといわれており、QD レーザの開発は彼らの生活の質を上げる可能性を秘めています。

特別に設計された光学系により、視力やピント位置など目の調節機能に関係なく、鮮明な映像を投影でき、この特性を用いて主に前眼部(角膜や水晶体)に起因する視覚障害者が、視覚を取り戻すための医療機器、福祉用具としての開発を進めているそうです。さらに、AR(拡張現実)やスマートグラスといった今後の拡大が期待される用途への応用も可能であるとのことです。

Secual

Secual COO 西田直樹氏

Secual(セキュアル)」は、IoT を活用した新しいホームセキュリティの実現を目指し、2015年6月に設立されたスタートアップです。Secualのデバイスは簡単に設置可能で、窓やドア等の振動をセンサーが検知し、ゲートウェイ経由で弊社システムに情報を送信・解析し、スマートフォン・アプリに通知してくれます。

デバイスは1万円台から購入可能、配線工事不要で簡単に設置可能なため、価格の高さや賃貸住宅暮らしで設置工事が出来ない等の理由でホームセキュリティの導入をあきらめていた潜在ユーザ層へアプローチし、月額使用料(税抜980円~)での収益化を狙っています。

Secual と連携した新しいデバイスも開発中で、外部組織との連携を深めて養護施設での活用等のビジネス展開を目指していくそうです。

VAQSO

VAQSO CEO 川口健太郎氏(右)

VAQSO が開発しているのは VR(バーチャルリアリティ)から匂いを出すデバイスで、HMD(ヘッドマウント・ディスプレイ)に装着して使用します。VR のコンテンツと連動して複数のリアルな香りを表現することが可能となり、よりリアリティのあるVR体験が可能になります。市販品のすべてのヘッドセットに、取付可能だそうです。

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アワードセレモニー

優勝を勝ち取った QDレーザ

ピッチコンテストはカジュアルな雰囲気のコミュニケーションエリアで開催されましたが、表彰式はメインアリーナへ移動して行われました。

3位はVRにアタッチできる香りのデバイス VAQSO が、2位はパーソナルアシスタントロボット P LENGoer Robotics が勝ち取りました。そして栄えある優勝は網膜走査型レーザアイウェアの QD レーザに決まりました。

(左から)審査員の Jeffrey McDaniel 氏、高橋ひかり氏、 藤田修嗣氏

審査員長を務めた Jeffrey McDaniel 氏(米 AlphaLab Gear のアクセラレータ「Innovation Works」の Executive -in-Residence)からは「英語での発表は海外の投資家などに訴える大きな一歩だ。日本のモノづくりの土壌を活用して成長を」と日本のハードウェアスタートアップにとって励みとなるコメントをいただきました。

審査員の藤田修嗣氏(EO Osaka 会長)と高橋ひかり氏(BRAIN PORTAL 共同ファウンダー)からは、参加8社がビジネス発展していくための助言をコンペティション終了後にいただくなど、日本の起業文化を支えるべく素晴らしい支援を提供いただきました。

副賞

トラベルスポンサーを務めた、全日空 デジタルデザインラボ チーフディレクター 津田佳明氏

日本予選の優勝者 QD レーザには、4月19日〜20日にピッツバーグで開催される Hardware Cup Final へのピッチ出場権、トラベルスポンサーの全日空から日本→ニューヨークの往復チケット、旅費補助として30万円が贈られました。

2位入賞の PLENGoer Robotics と3位入賞の VAQSO には、Hardware Cup Final のデモエリアでの展示と旅費補助(2位20万円、3位10万円)が送られました。さらに上位入賞者にはニューヨークやピッツバーグでの、Hardware Cup Demo Day への参加権利なども授与されます。

今回初めての開催となった Monozukuri Hardware Cup 2017 ですが、24社の応募から書類選考を経て8社がファイナリストとして登壇を許され、独自技術を持つ製品とビジネスプランで、 Hardware Cup Final への挑戦権を得るべく激しい戦いを繰り広げました。

Monozukuri Hardware Cup の関西での継続的な開催が、日本のハードウェアスタートアップの更なる発展に寄与するとともに、モノづくりエコシステムを作り上げていくための足がかりとなることを祈るばかりです。

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