ファッションデータ登録から接客効率化、医薬品情報の検索までーーIBM Watson技術で変わるサービス、IBM BlueHubが第3期DemoDay開催

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日本アイ・ビー・エム(以下、日本IBM)は3月15日、スタートアップ向けインキュベーションプログラム「IBM BlueHub Incubation Program」第3期採択スタートアップのDemoDayを開催した。テーマは同社の提供するコグニティブ(Watson)技術を活用したサービスで、採択された5社がそれぞれ支援を受けた成果を披露した。それぞれのサービス概要は以下の通り。(リンク先は過去に取材した際の記事)

IBM Watsonは何を変えてくれるのか

ナーブは接客にWatsonを活用することで効率化がはかれる未来がやってくると提案していた

今回の育成プログラムで興味をそそるのはやはりIBM Watsonの存在だろう。診断が難しいとされていた患者の白血病を10分で分析するという驚異的な結果の話題はご存知の方も多いかもしれない。今回はこれを活用したサービス展開を各社が披露し、やはり医学系の情報サービス「アンター」が最も評価される結果となった。

そもそもWatsonのベースとなっているコグニティブ(認知)システムとは何か、という疑問についてはこちらのコラムを読むと少し理解が進むかもしれない。下記に一部引用する。

コグニティブ(認知)システムは、画像や人間の言語のような複雑なデータを理解することができる。また、このデータはクラウドやオープンプラットフォームで簡単に利用できるため、コグニティブシステムは金融サービスから医療まで全産業を変革している。たとえば、医師は、Watsonを使用して、がん患者の症例に基づくの治療オプションを提供し、すぐにMRIや他の医療画像の解釈に必要なコグニティブ技術にアクセスすることができる。/(著者のDavid Kenny氏はIBMでWatson and Cloud Platformのシニアバイスプレジデントを務める人物)。

ビッグデータの時代にこれらをどう活用し、そしてその結果をいかに迅速に叩き出すか。実際のサービス転換の事例として特に興味深かった2社をご紹介する。

入力の手間をWatsonがサポートする、スマホ時代の操作体験

STANDING OVATION 代表取締役の荻田芳宏氏

スマートフォン時代になり、サービスはよりシンプルかつ直感的になった。キーで入力していた情報はタッチとなり、音声も有力視されている。そもそもこの小さな画面で多くの情報を入力するのは無理な話だ。

個人のクローゼットにしまってあるファッションアイテムを共有し、ユーザー同士のコミュニケーションを通じて販売やビジネス向けの情報提供を考えているのが「XZ(クローゼット)」を展開するSTANDING OVATIONだ。同社代表取締役の荻田芳宏氏によれば毎年33億着、実に100万トンの洋服がゴミになっており、シェアリング経済による解決が求められる中、私たちも度々取り上げてきたサービスになる。

ファッションと人工知能の取り組みは、例えばファッションコーディネートアプリの「iQON」が新たにリリースした画像解析技術による、類似アイテムのレコメンドがわかりやすいアイデアだろう。私も以前、荻田氏にこのアイデアを尋ねたことがあったので、てっきりこの手のサービスが披露されると思っていたが、ちょっとだけアプローチが違っていたようだ。

荻田氏は入力支援にWatsonを使っていた。

XZのハードルは最初に自分のクローゼットの情報を登録しなければコミュニティに参加できないというファーストステップにある。これを画像解析の力を使って、カテゴリや色といった情報を推測入力。アイテム登録のハードルをできる限り低くした。

現在、160万点のファッションアイテムが彼らのサービス上にアップされており、これがさらに拡大すれば彼らに次のチャンスが生まれることになる。例えばクローゼットの中にしまってあるアイテムの個人間売買が分かりやすい。

荻田氏の話では、実際のユーザーにもう着ていないアイテムについて買取提案をしたところ、3割以上のユーザーが応じてくれたというテスト結果もあるそうで、クローゼット内の在庫データが大量に貯まれば彼らの言うところの「3兆円のタンスマーケット」が現実のものとなるかもしれない。

「自分の二軍(タンスに眠ってるファッション)アイテムも誰かにとっては一軍になる場合もあります。そういうマッチングやレコメンドも今後推進していきたい」(荻田氏)。

医者は何でも知ってるわけじゃないーー膨大な「医薬品情報」を素早く解析

今回、最優秀賞を獲得したのがアンターの医療情報・ナレッジシェアのサービスだ。同社代表取締役の中山俊氏は現役の整形外科医。今回のプログラムで唯一、ゼロイチでサービスを作りあげた。

「みなさん、医師って何でも知ってると思ってませんか?でも実際はGoogleで調べたりしてるんです。ただ、それだと肌感覚で半分ぐらいしか解決できない。そこで作ったのが医師同士が質問できるQ&Aサービスでした」(中山氏)。

彼らの提供する「Antaa Q&A」には全ての診療科に属する医者が100名登録しており、医師同士が疑問に思ったことを質問して解決を図っている。中山氏によれば24時間以内の回答率は98%と活発に利用されている。

そしてこの「24時間」という時間をさらに圧縮できる可能性を求めた先がWatsonだった。

彼らが過去の質問を調べたところ、3割が医薬品の質問であることに気付き、この情報をデータベース化してWatsonの解析にかけたそうだ。医薬品の情報というのは添付文章、つまり取扱説明書に記載されている。そのデータ量は1万種類以上で文字数にして2500万文字。広辞苑が1600万文字ということなのでその1.5倍のデータを毎回、定性的な質問から導く必要がある。

用意された新サービス「医薬品 Watson for Dr.」はチャットスタイルのQ&Aで、質問に対して適切な医薬品情報を提供してくれる。同社開発責任者の金本祥平氏の説明では、説明書にある見出しのような項目で質問に対する回答箇所を類推し、その後、細かい医薬品情報を導き出す手法を取っているということだった。

現時点ではまだ精度が荒く、質問に対して的確な回答を返せない場合も多くあるということだったが、これは今後のチューニングで改善したいと話していた。

今のペースで登録が進めば、8月には1000人の医師が参加するQ&Aコミュニティに成長するというアンター。医療の現場で人工知能やコグニティブ・システムが実際に役立つ日が本当にすぐ近くまでやってきてることを印象付けてくれる内容だった。

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