琉球銀行が起業家のメンタリング・企業間マッチングを意図したスタートアップ・プログラムのデモデイを開催、沖縄を代表する13チームがピッチ

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琉球銀行は2月25日、沖縄科学技術大学院大学(略称:OIST)で同行初となるスタートアップ・プログラム「Ryugin Startup Program 2016-2017」のデモデイを開催し、沖縄を中心とするスタートアップ13チームがピッチに参加した。このプログラムでは昨年から数ヶ月にわたり展開され、東京のベンチャーキャピタル数社の協力によるメンタリングのもと、参加した起業家は自ら考えたアイデアやビジネスモデルを磨き上げ、この日のデモデイに臨んだ。運営にあたっては沖縄市が共催、スタートアップカフェコザが協力、OIST・沖縄県産業振興公社琉球大学地域連携推進機構Ryukyufrogs が後援した。

琉球銀行取締役頭取の金城棟啓氏

折しもこの日、琉球銀行は4月からの頭取交代を発表したばかりだったが、イベントの冒頭で挨拶した琉球銀行取締役頭取の金城棟啓氏は、自ら率先して人材の若返りを図り、若年層の多い沖縄からイノベーションが起きていくことを期待したいと抱負を述べた。続いて挨拶に立った沖縄市副市長の上田絋嗣氏は、琉球銀行のほか金融庁・経済産業省・日本銀行を巻き込んで、沖縄市でフィンテックやブロックチェーンを使ったスタートアップ・コミュニティを活性化するイベントの開催事例を紹介した。

沖縄市副市長の上田絋嗣氏

では、この日、デモデイで登壇した13チームを紹介したい。

大学生のコミュニティSNS「swimmy」 by Team Swimmy

Team Swimmy は琉球大学の学生を中心とするチームだ。過剰な承認要求、フォロワーや RT 数狙いが横行する SNS では、近年、若者の SNS 離れが進んでいる。仕事や学業など実際の人間関係がある人同士がつながっている SNS では、自由な発言がしづらいなどの理由から複数のアカウントを使い分けるような事例も生まれている。その結果、オープンな SNS からクローズドな SNS へとトレンドも変化してきているようだ。

Swimmy はログインしなくても使える、リアルタイム性を追求した SNS だ。Facebook の「いいね」に相当するリアクションは、ユーザは自ら自由に作成できる。ユーザの地理分布は、沖縄・福岡・東京・大阪などからそれぞれ15%ずつ程度。3月以降、琉球大学のサークルに足を運んだり、合格発表時にチラシを配ったりするなどして、大学の新入生などからアクティブユーザを増やしたいとのこと。

LEDを使用したファッションモジュール「PastelBlink」by 3D Print Parts

ウェブ制作ディレクターの西村大氏は、遠隔で制御できる LED 電飾モジュールなどを制作、これをコスプレなどに使った事例を YouTube で公開したところ、ユーザから大きな反響が寄せられた。しかし、ユーザの多くは、LED を使った演出がしたいわけであって、電子工作がしたいわけではない。誰でも簡単に LED 電飾が作れるデバイスがあれば、受け入れられると考えたという。

PastelBlink は LED の光量や光彩をスマートフォンでコントロールできるデバイスだ。電子工作技術を必要とせず、コスプレイヤーなどがファッションや伝統芸能にクリエイティブな表現をもたらすことを可能にする。今後、アプリ UI の改善、アナログ入力信号の応答などにも対応させ、特に(ニコニコ動画のコメントに応じた動作など)Webサービスとの連携を実現したいと西村氏は話した。

飲食店の海外展開を支援する「沖縄キッチン」 by あじとや

あじとやは、黒糖スープカレーを沖縄県内で3店舗で提供する人気チェーンだ。登壇したディレクターの永井義人氏は、「世間ではインバウンドがブームだが、インバウンドは待ち受ける姿勢なので、むしろ、自分から海外へ出向いていきたい」とし、飲食業の海外展開を支援するプラットフォームを提案した。

海外進出を考える飲食業の経営者がまず知りたいのは、現地食材で作れるか、現地人に受け入れられるか、いくらくらいで売れるかということだ。これらを現地で実践するために2週間くらい短期レンタルできる環境が欲しいと考えた永井氏は、台中市の繁華街に面した高級スーパーのイートインコーナーに場所を借りることに成功。2週間にわたって、黒糖カレーの弁当を販売した。

この経験をもとに、あじとやは台湾・新竹市に第一号店をオープンすることとなった。飲食業が海外展開をする場合、調査や準備に平均2年間の時間を費やし、それでも成功率は5%未満と著しく歩留まりが悪いという。永井氏はこれまでどのコンサルティングファームも提供していなかった、このような現地パイロットテストの機能を他の飲食業にも提供したいという。

沖縄県特化型成果報酬求人サイト「ジョブカロリ」 by びねつ

沖縄は全国平均に比較して失業率が高いながら、恒常的に人手が不足しているのが経営者の悩みだ。沖縄県内には求人誌が5誌あるが、すべて紙ベースのみの情報提供で、料金体系も広告料金ベースのもののみだ。

ジョブカロリは完全成功報酬型による求職者と求人企業のマッチングサービスだ。企業は成功報酬ベースで料金1万円から利用でき、求職者は採用が決まると5,000円以上の採用お祝い金を受け取ることができる。

人工知能による水耕栽培最適化プラットフォーム by スタートアップカフェ・コザ 糸村洋介氏ら

糸村洋介氏らは、水耕栽培のキットを販売するのではなく、実際に育てたデータをもとに栽培レシピを共有できるプラットフォームの構築を目指している。例えば、しいたけに特定の間隔の点滅で光を当てると通常の10倍のスピードで成長したり、特定の色の光を照射すればイチゴが甘くなったりすることはわかっている。

パーソナルな野菜栽培を通じて、健康で豊かなライフスタイルを再定義していきたいとしている。具体的に狙っている市場があるとのことだが、今回のピッチでは非公表とのことだった。

モノシェア by 67andパートナーズ

モノシェアは、アプリで関係することなく、リアルな受け渡し場所を提供する、C2C のモノの貸し借りプラットフォームだ。現在、那覇市のガソリンスタンドやクリーニングショップなど3箇所でサービスを提供している。現在、大手マンション管理会社とのコラボレーションの検討が進んでおり、入居者同士のモノの貸し借りなどにサービス対象を拡大していきたいという。

これまでは、借り手の要望に応じて貸し手がモノを受け渡し場所に持ってくる必要があったが、今年1月から、貸し手が予め受け渡し場所にモノを預けておけるプランが追加された。

Ecobook by 張氏

台湾出身の張氏は、旅行中に発生するゴミの削減、野菜中心の食事、定番ではない旅行先を提案する旅行サイトの構築を企画。

観光客に箸などの持参を促し、提携レストランと提携では割り箸を提供しない代わりに割引を提供する。サイト上で提携レストランを紹介することで、O2O のビジネスモデルが構築できるとする。また、一般的な旅行サイトでは、野菜中心の食事情報が少ないため、粗食旅行者には不便。有機野菜中心のレストランの情報を発信し、地産地消にも一役買う。東南アジアからの宗教上粗食習慣がある旅行者にもメリットがある。

定番以外の旅行先を紹介する策として、農家の民泊や体験談をオーナーの人間性を前面に出して紹介する。自然保護の観点から、スリッパ、歯ブラシなど宿泊に必要な一連のアメニティグッズは宿泊客自ら持参してもらう。

サブスクリプション導入支援Webサービス「PayPlus」

サービス業の多くは経営を安定させるためにサブスクリプションサービスを提供したいと考えるが、既存サービスがサブスクリプションのためにしくいを開発するのは大変で、一方で、口座振替も手続が面倒で時間がかかる。例えば、タウンページに掲載されているものだけでも、日本国内にはエステサロンやネイルサロンが14,333店舗存在するが、そのうちの7割弱にあたる約10,000店舗が個人経営だ。

PayPlus はこのようなリアルの小規模店舗に簡単にサブスクリプションサービスのしくみを提供する。店舗からは10%の取引手数料とカード支払手数料を徴収する。

研究経験のある人材を活用した沖縄のネイチャーツアーサービス by キュリオス沖縄

琉球大学大学院出身の仲栄真礁氏と宮崎悠氏(ともに理学博士)によるプロジェクト。

沖縄県では沖縄本島と西表島の世界遺産登録を目指しており、2021年に入域観光客数1,000万人実現のロードマップを策定している。ここで課題になるのが観光利用と自然保全の両立だ。観光における差別化においても、沖縄らしい+αが必要になる。

キュリオス沖縄では、研究経験のある人材を活用し、観光と教育で自然への好奇心を育むネイチャーツアーを企画・実施している。立ち上げから1年間は一般観光客からの受け入れは行わず、ツアーコースの選定や内容のブラッシュアップに特化してきた。

人と植物をつなぐインターフェイス「KODAMA」

沖縄は、観葉植物の保有率が日本国内で2位なのだそうだ。しかし、一方で購入した植物を枯らしてしまう人は多い。定期的に水をやったり、日光に当てたりすればよいわけだが、それを忘れてしまうのは植物に対する関心が薄いからではないかと、「KODAMA」の作者は考えた。

KODAMA は植物が植わっている土壌に刺す温度/湿度センサーとアプリからなり、ユカイ工学の「konashi.js」を使ってスマートフォンとの通信を実現させている。将来的には、アプリは自作予定とのこと。ドン・キホーテや花屋での販売を構想しており、SNS との連携機能、デバイスのバリエーション追加や小型化などを検討している。

世界中の飲食業者に業態とデザインを販売する「Zen Exporting」

世界中にある日本食レストラン9万店舗のうち、日本人が経営している店舗は3%程度。一方、日本食のチェーンレストランの中にも海外展開しているものが少なくないが、Zen Exporting の末吉弘晃氏は、今までのフランチャイズ展開型のレストランに海外の人々は飽きつつあると言う。

フランチャイズビジネスにおいては、日本で生まれたブランドを海外に持っていく形をとるが、実際には国ごとに価値観が異なり、宗教や文化も異なり、また食材調達などの関係から品質維持にかかるコストも高い。それならば、各国のパートナーの強みを生かした、レストラン展開のパッケージを現地で個別に作り上げればいいのではないか、というのが Zen Exporting のコンセプトだ。

Zen Exporting では、自由な発想のもとにレストランの構想やデザインを Pinterest にアップロードしており、それを気に入った海外企業と提携し現地にレストランを作る。実際に、香港では現地 JC Group と Ritz Carlton の最上階に海賀というレストランを出店しているほか、インドネシアでは Columbia Cash & Credit と共同で、「奥円」という日本茶と炭火 BBQ と氷のブランドを構築中だ。

「コーラルオフセット」by Save the Coral Okinawa

今年1月、環境庁が発表した調査報告によれば、西表石垣国立公園の石西礁湖海域(石垣島と西表島の間)のサンゴについて、サンゴ群体の平均白化率は91.4%に上り、全体が死亡している群体は70.1%にも上っているという。主な原因は地球温暖化やエルニーニョ現象よる海水温の上昇と考えられるが、このまま行くと、2050年には地球上のすべてのサンゴが絶滅しかねない状況だ。

「コーラルオフセット」は、二酸化炭素排出におけるカーボンオフセットのコンセプトをサンゴの復活に応用するものだ。世界で初めてサンゴの産卵養殖に成功した、海の種代表の金城浩二氏の技術を活用し、国連の CDM(クリーン開発メカニズム)に基づいて権利を販売、そこから得られた売上金で養殖サンゴを海へとリストアしていく。補助金や寄付金を基にした事業では持続性に難があるとし、COP21 以降に拡大しつつあるカーボンオフセット市場からの需要獲得に主眼を置いている。

訪日中国人観光客向け O2O および決済アプリ「楽行(らくいく)」 by TOMORO

「楽行」は、個人商店などが訪日中国人観光客にプロモーションができるモバイルアプリだ。観光客からは、母国で利用している決済手段が使いたい、地元の人が行っている場所にいきたいという意見が多く、楽行はこれらの要望の実現を支援する。

アプリでは、店の予約やチャットができるほか、Alipay(支付宝)での決済に対応。LinePay の導入も計画している。当初2017年1月下旬のテストリリースを予定していたが、その後判明した不具合の改善に時間を要しており、2017年4月のリリースを目指している。

会場となった沖縄科学技術大学院大学(OIST)から東シナ海を見る

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