本稿はエンジニアとしての顔を持つタレント池澤 あやかさんによる寄稿。福岡の地に誕生したスタートアップ育成拠点「FUKUOKA growth next」を訪問し、彼女が触れた地域の企業育成の取り組みを綴ってもらった。
ユニコーン企業」という言葉をご存知だろうか。
ユニコーン企業とは、数ある未上場のスタートアップの中でも評価額が10億ドル以上の企業のことで、配車サービスを提供する「Uber」や宿泊施設・民宿サービスを提供する「Airbnb」がその代表格。かつては、現在上場しているFacebookやTwitterも名を連ねていた。
こうしたユニコーン企業の多くはアメリカ生まれだが、日本からもこういった企業を輩出するために取り組みを続けている自治体がある。その最たる例が福岡市だ。
福岡市がこのような方向に舵を切るきっかけとなったのは、福岡市長・高島宗一郎氏によるシアトル訪問だ。シアトルは首都から離れているのにも関わらず、MicrosoftやStarbucks、Amazonといったグローバル企業を生み出してきた。
高島氏はこの訪問を通して、豊かな自然や文化、交通の利便性などシアトルと福岡と共通点を多く見出し、福岡市ならシアトルに負けない世界に羽ばたく企業を多く生む街となりうるのではないかと考えるに至ったそうだ。
2012年、福岡市はこの訪問を契機に「スタートアップ都市宣言」を行った。以降、誰でも無料で起業に関する相談ができるスペース「福岡市スタートアップカフェ」の設置や、日本での創業を志す外国人向けの「スタートアップビザ」の発行などを行い、スタートアップ人材のすそ野の拡大に力を注いできた。
そして福岡市は、「スタートアップ人材のすそ野を拡大する」ファーストステージから、「スタートアップをスケールさせ、成長を支援する」セカンドステージへと歩みを進めている。そのファーストステップとなるのが、官民協働型スタートアップ支援施設「FUKUOKA growth next」の設立だ。
人との交流でスタートアップに必要な”化学反応”を起こす
2017年4月12日にオープンを迎えた「FUKUOKA growth next」。
旧大名小学校をリノベーションしてつくられたこの施設は、コワーキングスペースやスタートアップカフェに加え、工具や機材を揃えるファブリケーション施設や、カフェ、スタンディングバーまで備えている。施設設置にあたり、高島氏はこう語る。
「スタートアップを志す方だけではなく、一般市民の方や地場の企業の方など、たくさんの人が集まり、“化学反応”が起こりやすい環境にしていきたい」
まさにその言葉どおり、コワーキングスペースを利用するスタートアップ同士の交流だけでなく、ファブリケーション施設やカフェ、さらにはスタンディングバーを設置することで、さまざまなイノベーションが自然発生することを狙っている。
現在施設内のコワーキングスペース入居を決めた企業は、スタートアップや大手IT企業の支社、スタートアップのサポート団体までさまざまだ。こうした企業の多くは、オフィスとしての利用だけではなく、コミュニティとしての「FUKUOKA growth next」に期待して入居している。
スタートアップに必要なのは、起業家だけではない
「FUKUOKA growth next」ならではの特長がいくつかある。ひとつは、起業家だけではなくそのパートナーとなりうるエンジニアとデザイナー向けの育成プログラムだ。具体的には、「Engineer Lab. Fukuoka」と「FUKUOKA DESIGN HUB」と呼ばれる、安価で通えるスクールプログラムを予定しているそうだ。
「起業家だけではスタートアップはスケールしない。サポートする人材がスタートアップには必要だ」ーーFUKUOKA growth next インキュベーションマネージャーの油井佑樹氏はそう述べる。
また、総額400億円を超えるVC、投資家、金融機関、メンターなどのと提携していることも大きな特長だろう。連携するVC、メンターとしては主に以下の面々が名を連ねる。
- ABBALab
- B Dash Ventures
- CAMPFIRE
- GLOBIS CAPITAL PARTNERS
- Incubate Fund
- Infinity Venture Partners
- Mistletoe 株式会社
- 猪木法律事務所
- 株式会社みずほ銀行 イノベーション企業支援室
- 500 Startups Japan
コワーキングスペースを利用するスタートアップを中心に、投資やメンタリングを無料で行う予定だ。起業家にとってはかなり理想的な環境ではないだろうか。
福岡でスタートアップのエコシステムは生まれるのか
シアトルがスタートアップのメッカとなったのには理由がある。
主に、MicrosoftやAmazonなどの有名企業からスピンアウトして起業する人が多いこと、ワシントン大学という優秀なエンジニアを生む土壌があること、ベンチャーキャピタルや投資家とのネットワークや、自治体のサポート体制が整っていることの3点だ。
福岡市も、前述の自治体のサポート強化に加え、レベルファイブやヌーラボなどの地場のIT企業や、LINE fukuokaなど大手IT企業の支社が設立され、更にはデジタルハリウッドSTUDIOの誘致にも成功し、IT系人材を数多く抱える地方都市へと成長してきている。
このような福岡市の継続した取り組みにより、環境は徐々に整いはじめた。
あとはシアトルでいうMicrosoftのような、福岡発ユニコーン企業のロールモデルが生まれれば、スタートアップのエコシステムがまわり出すかもしれない。
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