カンパニービルダーEntrepreneur Firstのシンガポールプログラムが修了——VR、IoT、小型衛星のスタートアップら12社がピッチ

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Entrepreneur First 初のシンガポール・デモデイで聴衆に語りかける同社共同設立者の Matt Clifford 氏と Alice Bentinck 氏
Photo credit: Entrepreneur First

カンパニービルダーの Entrepreneur First がインベスターデイで自身初のシンガポールプログラムを完了させ、12チームが投資家や業界関係者向けにピッチした。

英国に本社を置く同社は1年程前に、Infocomm Investments(現 SGInnovate)と共同で初の海外支社をシンガポールで立ち上げた。

Entrepreneur First は、企業を作る上でチームではなく個人に重点を置いている。プログラム参加者はそれぞれ個人で参加し、プログラムの過程でチームに溶け込んでいく。そうすることで、必ずしも起業のノウハウを持たないスキルを持った人材(例えば科学技術者や研究者など)を集めたい考えだ。そして、チームは企業を作って世界へと飛び立ち、自らの商品を販売していくわけだ。

EF の共同設立者 Alice Bentinck 氏は Tech in Asia に対しこう語った。

デモデイに登場するチームのうち半分は、プログラムの最初の2週間で結成されたものです。

シンガポールプログラムには研究者が多数参加している。EF Singapore でディレクターを務める Anne Marie Droste 氏は 「ここにいる人の半分以上が博士号を持っています」と述べる。チームは VR(仮想現実)や AR(拡張現実)、超小型衛星(ナノサテライト)、IoT などに焦点を当てている。ハードウェアや AR/VR セットに重点を置くことで、AI やソフトウェアなどの分野に強い従来のロンドンのプログラムとの差別化を図っている。

シンガポールと東南アジアにおいて我々が求める人材は、飛び抜けた才能を持った野心家です。(Alice 氏)

円滑化

プログラムを卒業した12チームには、SGInnovate と、シリコンバレーに本社を置く Sparklabs Global からシード資金が提供され、SGInnovate は3万5,600米ドル、Sparklabs は3万300米ドルを各スタートアップに投資する予定だ。EF 自身はそれぞれに1万7,800米ドルを投資する。

SGInnovate の CEO である Steve Leonard 氏は Tech in Asia に対し、SGInnovate は卒業したスタートアップに対し顧客獲得、雇用、ワークスペースなどの面で支援していくつもりだと語った。

EF Singapore は現在1,140万米ドルの資金調達を進めている。Anne Marie 氏は Tech in Asia に対し、EF Singapore の資金調達は4月末までには完了する見込みで、これによりシンガポールにおいて今後3年で120社程度のスタートアップを生み出すことが可能になると語る。

同社は現在、今年の夏に次のコホートを迎えるための準備を進めている。次のコホートは最初のものよりも大きい規模になる見込みで、香港や中国本土など遠方からの候補者も募集している。

昨年、プログラムの卒業生でロンドンに本社を置く AI スタートアップの Magic Pony が、1億5,000万米ドルで Twitter に買収された。これは、Entrepreneur First にとって大成功と言える。Entrepreneur First によると、卒業企業全体で2013年から現在までに1億米ドル以上の資金を調達し、イグジット総額は2億7,000万米ドルに達するという。

スタートアップ紹介

ここからは、EF Singapore の最初のコホートを構成するスタートアップ12社をピッチした順に紹介しよう。

Lemnis

Lemnis Technologies は次世代の VR ヘッドセットを強化するコアテクノロジーの開発を行っている。チームが提供する技術によって、VR を体験したユーザの半数以上が感じる VR 酔いが軽減される見込みだ。彼らはこの VR 酔いこそが VR テクノロジーの本格的な普及を妨げている大きな要素だと考えている。

Lemnis はコンピュータビジョンと光学分野において博士レベルの専門家で構成されている。すでにその技術の概念実証試験を終え、それに基づいて製造業者と共同で最初の VR ヘッドセットの開発に取り組んでいる。現在、開発スピードを上げるために70万米ドルの資金調達を検討している。

SensorFlow

SensorFlow はビルのエネルギー効率向上に取り組む企業だ。同社が提供するセンサと専用ネットワークは複雑な配線や設定が不要なため、設置が簡単で価格も安い。また、ビルのエネルギー消費を最適化することができる。

チームは月単位のサブスクリプションで技術を提供しており、設置とハードウェアにかかる初期コストが抑えられている。現在、2つのクライアントで商品の試験運用を行っており、肯定的な結果が得られている。同社によると、この他にもパイプラインやリゾート・不動産開発の分野で4社のクライアントがおり、現在53万米ドルの資金調達を行っているという。

UI-licious

UI-licious は企業の UI テストの自動化を支援するソフトウェアの開発を行っている。従来のツールだとエンジニアしか使うことができないため、プロセスが遅くなって追加コストが発生してしまう、とチームは指摘する。同社が提供するソリューションでは、専門的なコーディングスキルを持たないユーザでも理解できるスクリプト言語を使用しているため、使いやすくなっている。

UI-licious によると、ベータ版の有償顧客は7社で、さらに30社が順番を待っている状態だという。現在57万米ドルの資金調達を行っている。

HydroLeap

HydroLeap は工業用排水の浄化を専門にした企業だ。同社は工業界で現在使用されている化学プロセスよりも速くかつ安価に排水を処理することが可能な Electrocoagulation というプロセスを開発した。

博士号取得者が在籍する HydroLeap は、建設現場において4つの大規模な実装を控えている。同社によると、このプロセスの導入によって、工業界において毎年最大で107億米ドルのコスト削減が見込まれるそうだ。

Immerzen

Immerzen は VR と AR に加えてオーディオの分野にも取り組んでいる。共同設立者らは仮想環境への没入感を高める3D オーディオ技術の開発を行っている。

Immerzen では、自然な音声を再現するために、高度な信号処理や機械学習などの技術を利用している。現在はシンガポールの AR/VR コンテンツクリエイターと協力してこの技術のテストを行っている。50万米ドルの資金調達を計画中だ。

KroniKare

KroniKare は医療技術スタートアップで、通常の創傷のようには治癒せず、定期的な検査と観察が必要な慢性創傷を専門に扱っている。侵襲的方法を用いずに、スマートフォンのカメラだけで創傷の検査、データの収集・分析が可能なソフトウェアを開発した。

同社は70万米ドルの資金調達を計画しており、現在 Singapore General Hospital とその他2つのクライアントでテスト運用を行っている。

VRcollab

VRcollab は、その名前からもわかるように VR を扱う企業だ。チームは、建築家が書く設計図をリアルタイムで表示してクライアントに提示することで、建築家が迅速かつ簡単に承認を受けることできるように VR を活用している。

同社は90年代に3D 設計ツールの Autodesk がそうであったように、VR が建築分野で役立つようになると述べている。現在4社の顧客を抱え、さらに4社との契約が取れそうだという。35万米ドルの資金調達を行っている。

MicroSec

MicroSec は IoT のネットワークセキュリティの問題に取り組んでいる。コネクテッドデバイスはすでに数多くのサイバー攻撃のターゲットになっており、ネットワーク事業者にとっては、お金、時間、信頼性の損失につながる。MicroSec のソフトウェアは、コネクテッドデバイスごとに独自のセッションキーを与えることで外部からの不正な侵入を防止してくれる。

チームは現在、シンガポールの政府機関と共同で概念実証を行っており、3社の IoT 企業から契約が得られそうだという。

Ackcio

Ackcio は建設現場で起こる事故の問題の解決を目指しており、モニタリングの強化とコスト削減のために、ワイヤレスセンサを活用したシステムの構築を行っている。現在、シンガポールの3社とスリランカの超高層ビル設計企業でパイロットテストを実施中だ。53万米ドルの資金調達を行っている。

Movel AI

Movel AI はロボットビジョンの改善に取り組む企業で、ディープラーニングや確率的プランニングのような難しそうな名前の技術を利用して、ロボットがカメラを使って人間のように環境を認識することを可能にしている。これにより、正確なナビゲーションとコスト削減が実現される。

現在2つのロボットメーカーと共同で技術の導入を進めており、57万米ドルの資金調達を行っている。

Souschef

Souschef を覚えているだろうか?私たちが最後に彼らを取り上げたのは、彼らが家庭向け調理用材料ディスペンサーを作ろうとしていた時のことだ。彼らはその商品からのフィードバックを参考に、今度は飲み物を混合するデバイスに取り組んでいる。これを食品・飲料事業に展開したい考えだ。

このソリューションによって企業の時間と人件費を抑えることができると Souschef は語る。過去3か月間で140万米ドル以上の注文を受けたという。

Transcelestial

Beastie Boys のトラックタイトルのようにも聞こえるが、Transcelestial は、超小型衛星を利用して無線通信インフラに革新をもたらそうとしている野心的なスタートアップだ。

チームは距離に関わらず従来のワイヤレス技術の1,000倍の速度でデータを転送できるレーザーネットワークの開発を行っている。シンガポールの通信会社2社とヨーロッパのデータセンターと連携して事業を進めており、100万米ドルの資金調達を行っている。

【via Tech in Asia】 @techinasia

【原文】

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