日米のテックシーンをつなぐ「If Conference」、昨年に続き第2回がNYで開催(後編)〜Material Worldの矢野莉恵氏らが登壇【ゲスト寄稿】

本稿は、ニューヨークを拠点に活動するジャーナリストで翻訳家の安部かすみ氏による寄稿である。昨年の「If Conference」の模様はこちらから。


Image credit: Kasumi Abe

「もし日米のテックコミュニティが一堂に集まれば、そこからどんな繋がりが生まれるだろう?」———そんな素朴な疑問から、昨年ニューヨークで誕生した「If Conference」(イフ・カンファレンス、略してイフコン)。

第2回目となる今年は5月18日(木)、昨年同様にタイムズスクエアにある Microsoft で行われた。「The destination for Japan Inspired Innovators」(日本に影響を受けたイノベーターたちの場所)というサブタイトル通り、今年も日米のアントレプレナー、投資家、会社員、学生ら約300名が来場した(人数は主催者発表)。

スピーカーとして、日米の起業家や会社役員ら14名が登壇し、講演やパネルディスカッションを行った。本誌では、その中から主要なスピーチをピックアップしてレポートする。

前編からの続き)

イブニングキーノート:経済を循環させるビジネス

矢野氏はハーバード大学ビジネススクールで知り合った Jie Zheng 氏と共に、2012年 Material World(創業時は「Material Wrld」)を立ち上げた。
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約6時間にわたるイベントの締めくくりとして、イブニングキーノートで登壇したのは、高級ブランド品の下取りサービスをする Material World の共同創業者&CEO 矢野莉恵(Rie Yano)氏。矢野氏は「The Rise of The Circular Economy(循環経済の上昇)」と題して英語でスピーチを行った。

同社のウェブサイトでは、顧客が不要になったブランド品を売った下取り料を専用のデビットカードに換金し、顧客はそのカードでほかの商品とトレードしたり、提携先のデパートやブランド店で買い物をすることができる仕組み。古着を循環させることで、サステナビリティ(持続可能性)にも取り組むスタートアップとして注目が集まっている。

矢野氏のリサーチでは、過去20年間でアメリカ人のクローゼット内の洋服(購買量)は、年間700万トンから1,400万トンと2倍に膨れ上がっており、その要因は(1)ファストファッションの台頭(2)インスタント・グラティフィケーション(即可能な購買)が可能になったからだと分析。それらのバックグランドを踏まえた上で、女性特有の悩みを解決したいと考えた。

私もそうですが、女性はクローゼットにたくさん洋服があるのに、毎朝『着るものがない』と思うもの。シーズンごとに新しいアイテムをワードローブに加える方法はないか?

また、洋服の廃棄処分について「捨てられるのは転売や寄付などに労力と時間がかかって面倒だから。それらも同時に簡単に解決できないか」と考えた。

そして辿り着いた答えは、「自分が不要でもほかの人が使い続けたいと思う価値のあるアイテムを、リーズナブルな料金で手間がかからないように提供できるシステム作り」だった。

創業時に問い続けたことは、「(購入時に発展途上国に寄付される靴メーカーの TOMS のように)我々も、顧客に見た目の良さと気持ち良さの両方を同時に感じてもらえるサービスであるか?」ということ。

Airbnb がホテル業界の脅威になっているように、何千ドルもするドレスを何百ドルで利用できるレンタル業は、服飾業界から脅威として見られている。でも私たちが提供しているのは、専用のデビットカードを発行することで、利用者がブランド店やデパートに戻って新しい商品を購入し、不要になったらまた販売してという循環を作り、双方が win-win になれるサービスなのです。

とは言え、創業からたった5年の若い会社なので誤解されることも多い。これからもっと多くの老舗ブランドに我々の取り組む循環経済のメリットを認識してもらうことが、今後のチャレンジです。

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ほかにも、さまざまなスピーカーが登壇

伊藤園USA のヴァイスプレジデント・コーポレートリレーションズ Rona Tison 氏と、島精機USA のビジネスディベロップメント Hayato Nishi 氏による「Made in Japan: Innovation for Social and Environmental Impact(メイドインジャパン:社会と環境のインパクトのイノベーション)」(モデレーターは Jiro Otsuka 氏)
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Microsoft のテクニカルエバンジェリスト、Adina Shanholtz 氏による「Adapting Experiences for Virtual and Mixed Reality(仮想現実と複合現実を体験すること)
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Microsoft HoloLens のデモンストレーション
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New York City Economic Development Corporation のバイスプレジデント Karen Bhatia 氏による「H1B Visa x NY Tech: Surviving in an Uncertain Time (H1BビザとNYテック:不確定な時期をサバイブする)」(インタビュアーは、Daiki Nakajima 氏)
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(左から) Morpholio の共同クリエーター Toru Hasegawa 氏、Microsoft のリードプロダクトデザイナー Han-Shen Chen 氏、PARTY のエグゼクティブ・クリエーティブディレクター&創業者 Masashi Kawamura 氏による、「Kakushin! A funny design happened on the way to innovation(革新! イノベーションの途中で起こる面白いデザイン)」
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Community Solutions のプレジデント&CEO Rosanne Haggerty 氏による、「Designing Solutions for Complex Social Challenges(複雑な社会的課題のためのデザインソリューション)」(インタビュアーは、Alan Webber 氏)
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主催者が振り返る If Conference 2017

If Conference のファウンダー&エグゼクティブディレクターで、Rising Startups の代表も務める奥西正人氏(中央)
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イベント終了後、If Conference の主催者である奥西正人氏に感想を聞いた。

第2回目の開催となる本年はスタートアップ枠を超え、デザインとソーシャルイノベーションをテーマにたくさんの方に参加頂き、大成功のイベントとなりました。本年度の共同主催の Japan Society、後援の JETRO に加え、たくさんの団体や企業にサポートいただき大変感謝しております。

また今後の抱負として、次のように語った。

これからも日米のかけ橋になるイベントやコミュニティーを続けていきたいと思います。

日本とアメリカのテック系やそれに関わる人々の繋がりが、強固でより深いものになることが期待できそうだ。

写真で振り返る If Conference 2017

Microsoft のテクニカルエバンジェリスト Adina Shanholtz  氏
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「Kakushin! A funny design happened on the way to innovation」のモデレーター、Ajay Revels 氏
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スポンサーであるオンワードのオーダーメイドスーツが当たるラッフル抽選会も行われた。
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イベントスポンサーの各社ブース:(左上)ユニクロ、(右上)伊藤園、(左下)日経アメリカ、(右下)キワミグリーンズ
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イベントスポンサーの各社ブース:(左上)オンワード、(右上)サントリー、(左下)獺祭、(右下)隣の会議室で行われた、8社によるプロダクトショーケース
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手巻き寿司やサッポロビール、ビアードパパのシュークリームなども振る舞われ、講演後は来場者同士で交流会も行われた。
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プロジェクトメンバー(左から):マーケティングディレクター Jennifer Pei Lin 氏、クリエーティブディレクターの Jensin Wallace 氏、主催者の奥西正人氏、イベント& PR ディレクターの Mayuka Inaba 氏
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