他のスタートアップ経済よりも「遅れている」ことの利点として、アメリカや中国の犯した失敗を東南アジアが見て、同じ轍を踏まないようにできることが挙げられる。
逆もまた然りで、欧米や中国の企業が何らかの成功を収めれば、東南アジアでも同様のアイデアを試してみようとなる。
今週(5月第2週)、Amazon が素晴らしいことをやってのけた。
Amazon がシアトルに建設中の新社屋にホームレス用シェルターを設置するというニュースは、次世代 Echo の発表による話題の影に隠れてしまったが。
この真相に関する基礎知識
およそ一年前、Amazon は新しいオフィスを建設するためシアトルの広大な土地を購入した。その敷地には廃業したモーテルがあった。ここに移ってくるにあたり、Amazon は使われていない建物をホームレス用シェルターにするべく Mary’s Place というホームレス用シェルターと契約した。ベッド数は200台だ。これはシリコンバレーではほとんど見られない市民参加の瞬間だった。
Amazon はオフィスを建設するためにその建物を解体する必要があり、2020年にはそこに新しい施設を完成させる計画であることを今週(5月第2週)発表した。Nick Wingfield 氏は New York Times に次のように書いている。
昨年、Amazon が家族向けホームレスシェルターを元々モーテルだった建物に移した時、良いことだがどうせその場しのぎのパフォーマンスだろうと見られていた。
ただ、それがその場しのぎのものではないことが判明した。
数年後、Amazon が真新しいピカピカのオフィスを完成させると、そこにはホームレス用シェルターが備わっているのだ。Mary’s Place との協力関係は今のところ永続的で、オフィスの一部はホームレスの人たちの住居となる。4万7,000平方フィート(約4,400平方メートル)の広さがとられており、220名65家族を収容できる。
テック企業とコミュニティの対立
皮肉っぽくなってしまうが、Amazon のやったことはテック企業がよき隣人となる珍しい例だ。
シリコンバレーの不愉快な真実として、成功したテック企業には、このエリアに引っ越して、有り体に言えば非常にマナーの悪い行動をとる傾向がある。
サンフランシスコの住民に(まだヴァレーホに引っ越していなければ)Google バスについてどう思うか聞いてみるといい。怒りに満ちた暴言を15分間聞かされることだろう。
ベイエリアに住む非テック系の人たちにとっては、テック産業は必要悪とみられている(私もベイエリアに住む非テック系の人間だったからよく分かる)。私のような普通の人はシリコンバレーが作り出すビジネスチャンスを充分評価しているが、犠牲がつきものだ。
例えば、私がオークランドに住んでいた当時のベイエリアのビッグニュースの一つにこんなことがあった。テック大企業がテンダーロインとして知られるサンフランシスコの地区に目をつけたのだ。
テンダーロインは、ドラッグが簡単に手に入り、ホームレスが多く、精神疾患を抱えていたり異常にハイになっていたりするような不安定な人たちと出くわす危険性が高いエリアだった。
そして、Twitter はこの場所がオフィスを開くのに一番いい場所だと決めた。賃料は安く、テンダーロインは街のど真ん中にあり、おそらくテックコミュニティがここの治安の悪さを「一掃」できると考えたのだろう。
また、うまくいくという根拠もあった。野球場(AT&T Park)が建設される前は、サウスビーチは環境の悪い地区であった。今日、球場の周りにはビジネスが発達し、サンフランシスコでも有数のおしゃれで綺麗なエリアとなっている。
しかし、そこは市内でも有数の高額な地域でもあり、かつてそこをホームと呼んでいた人たちは去って久しい(この地域で働いている人の大半は他所の地域に住んでいる)。
高級化という言葉がこの現象を言い表している。
そう、もし私が今日テンダーロインを訪れたら、そこが比較的安全で、街角にはミーハーなヨガスタジオがあり、経済的に安定していることに嬉しい驚きを覚えるはずだ。しかし、私に空の CD を売りつけようとしていた少しおっかない変な人はどうだろう? そいつはどこかに行ってしまった。そして誰もそれを気にしていない。
Twitter がテンダーロインにオフィスを構えたのは、その地域に住む人々への配慮なく引っ越すというシリコンバレーの不快な習性の一例である。
だからこそ、Amazon のホームレス用シェルターが一大事なのだ。結局、Amazonは「たまり場の掃除」はしなかった。むしろコミュニティの現実を受け容れ、最も弱者である人々に選択肢を提示したのだった。
東南アジアで重要な理由
これが重要なのは、かなり単純な理由からだ。東南アジアの政策立案者の大半は、スタートアップを経済計画の重要部と位置づけているからだ。
これはうまくいっているようだが、もし東南アジアが本当にシリコンバレーと競争し始めるのであれば、東南アジアの都市はベイエリアを苦しめたのと同じ高級化問題に直面するだろう。
ちなみに、シンガポールのブロック71はスタートアップのハブであり、イノベーションの中心として世界から注目を集めている。ここは Oracle の敷地と大体同じくらいの広さでもある。
この地区は既に混雑しており、このまま成長すると将来的に維持できなくなることが見込まれる。
だから、One North で設立した企業は移動する必要がある(スペースが足りないために一年未満で引っ越すという Carousell の下した決断によって浮き彫りになっている)。さて、シンガポールが次の Oracle を生み出したら何が起こるだろうか? こんなサイズのキャンパスがどこに移動できる? おそらくその都市の開発の進んでいない地区だろう。
そうすると、良き隣人になるチャンスが与えられるのだ。
私はなにも東南アジアのスタートアップがオフィスにホームレス用シェルターを用意するべきだと主張するつもりはない(これは世界でも有数の大成功を収めた企業にしかできない贅沢だろう)。しかし、良い影響を与えられるような合理的な選択肢はある。
複数の企業がすでに様々な好意的な意図をもってコミュニティとの協議を行っているが、これは手始めにすぎない。
フードバンクを開いたり、高齢者向けにアクティビティを主催したり、地域の子供たち向けのプログラムを運営したり(特にそのエリアが貧しい場合)といったことが考えられている。
最後に、こういったことはマーケティングキャンペーンの一環としてやるのではなく、誰にも言うことなく不言実行の精神で行うべきだ。
東南アジアでは「ディスラプション」についての会話がすでになされ始めているが、もっと直接的な衝突が企業と地域住民の間で起こることは避けられない。
Amazon のホームレス用シェルターはこういった対立が起きた時のためのインスピレーションであり、東南アジアでも見習われるべきである。
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