Web VRはまだ未熟だが、近い未来にVR業界を変えるだろう

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A-Frame
Above: From A-Frame’s image gallery at https://aframe.io

編集部注:Amir-Esmaeil Bozorgzadeh氏は開発者がVRの概念を紹介するためのサンドボックスであるVirtuleapの共同設立者。ドバイに本社を置くゲーム出版社およびデジタル代理店であるEdoramediaの欧州パートナーでもある。

実体験型VRをウェブブラウザ上で直接再生できるようにするWebVRや、JavaScript APIを使うことでVR体験をできるようになることについては昨年9月に記事を書いたが、それ以降も状況は劇的な変化を遂げている。

当時注目を集めていた唯一のプラットフォームは、WebVRオープンソースライブラリA-Frameを搭載してVR再生を実現したMozillaだった。 しかしこの数カ月でGoogle、Samsung、Microsoft、OculusなどがWebVRを体験できるブラウザの改良・強化を発表したというニュースが広がり始めている。

Samsung Internetの開発者支持者、Diego Gonzalez氏は「URLを共有するだけで、一番メジャーなメディアで利用できるVRコンテンツを作成することができる」と話してくれた。

先月(2017年2月)にGoogleは、ChromeがDaydream対応のAndroid搭載端末でWebVRをサポートしていること、およびそれをデスクトップパソコン上でも使えるように拡大するプロセスを進めていることを発表した。このニュースはWeb上でVRを活用することに関心のある企業から注目されている。

Google WebVRのUXリードデザイナーJosh Carpenter氏は開発の動機をこう説明している。

「コンテンツは量がなければなりません。つまり、みんなが自分のビジョンを作成し公開することができなければならないのです。私たちはWebを本来のVRを補足するものとみなし、誰でも手軽に使える新しいタイプのコンテンツを作成するお手伝いをしています」

その他のWebVR対応ブラウザには、Samsungのインターネットブラウザ(Gear VRヘッドセットを使えば利用可能)、MicrosoftのEdgeブラウザ向けプレビュー版、Firefox Nightlyブラウザが含まれる。Oculusは独自のWebVRブラウザを開発しており、現在開発者向けベータ版で作動するカーネルを作成した。来月に予定されているFacebook Developer Conferenceが近づくにつれて、もっと詳しい情報が入るだろう。

Minecraft-WebVR-Demo

OculusのWebVR製品マネージャー、Andrew Mo氏は次のように語っている。

「WebVRの普及により素晴らしいコンテンツを開発する技術者の数が急増するのは確実で、これはVRをより利用するための重要な要素の1つと考えています。また、垣根のないWebVRの普遍性により、ユーザーはリアルな友人とVRを簡単に共有して友達が見落としているものを見せることができるようになります」。

壁や塀のない場としてのWebの本質をふまえ、開発者はA-Frame以外のさまざまなWebVRフレームワークを利用できる。Vizor、PlayCanvas、およびBabylonJSorは、PrimroseVRやZeovrのようなVR開発エンジンと共に人気がある。Oculusの自社開発オープンソースライブラリReactVRは、プレリリース版が入手可能である。

Mozilla の新技術開発シニア・バイス・プレジデント、 Sean White氏は私にメールで次のように語った。

「WebVRの素晴らしい点は今や多くのプラットフォーム上で動作し、またA-Frameのようなツールは、クリエイティブな自己表現の場が世界中の多くの人々に開放されているということです。Webページを共有するのと同じくらい簡単で誰でも見れるのです。他社の参入に伴い、弊社ではツールやアプリケーションを開発し、彼らが比較的簡単に標準化できるようにし、複数のブラウザやVRヘッドセットでサポートできるようにしたいと考えています」。

WebVRはその設計上、垣根がないため燃え広がって成長する潜在的な可能性を秘めている。ダウンロードやインストール、またロック機能やキーも必要ない。不意に現れるセキュリティーチェックで待たされることもない。

VRコンテンツを構築して共有する最速の方法は、壁に囲まれた庭園を横切ってくる前の観客を適宜に分別するように、古いアプリストアのビジネスモデルをコピーして新しいエコシステムにそのまま持ってくることだ。

WebVRはそのオープンソースという性質のおかげでVRを学ぶ最も簡単な方法でもあり、開発者の幅広い才能を引き出すことができる。

A-Frameコミュニティでは有名人であるWebVR開発者、Fabien Benetou氏は私にこう語った。

「今、あなたがこのWebページで何かを見て、それがどのように作られ実行されているのか疑問に思ったとします。さあ、何ができるでしょうか?ソースを表示できます。そして素晴らしいビジュアルエフェクトがどのように行われたかを学習し、コピー貼り付け、修正、中断、修正、つまり自分の必要に合わせて調整できるのです。WebVRはVRを学ぶ最も効率的な方法です」。

HTCだけが遅れをとっており、外部とは連携を取らなかったりで、コミュニティに参加することができていない。しかし私は現実的な仮説を立てている。 WebVRは少なくともまだ、テクノロジーとしては成熟してはいない。実際に開発のこの段階では、80年代や90年代に作成したVRのように見えることがよくある。その理由は特に、開発者コミュニティが消費者向けアプリケーション開発の優先順位をあまり高くしていないためである。

WebVRは、業界が熱心に求めている消費者の購買意欲を刺激するような高品質なVR体験をすぐに提供するつもりはない。また、VRの主な魅力であるとされている高スピードのゲームやエンターテイメント体験にはまだ対応できない。

しかしWebVRは、既にWebと根付いている様々な業界に幅広く、多彩かつ大きな影響を与えるはずだ。Webをビジネスベースにしている業界を考えてみると、WebVRの利用が広まることで付加価値と収益が高まることは容易に想像がつく。

メディアについて考察してみよう。世界の反対側の都市で開催されているイベントについてのニュース記事を読んですぐ、VRでその場所をロード、自宅のパソコンのブラウザの前から離れることなくそのイベントのVR体験ができる。あるいはeコマースにおいては飛行機のチケット費用を払うのではなく現地の都市のガイド付き概略ツアーにVRを使って参加することができる。

さて一般的な商品ではどうだろう?

昨年12月にニューヨークで行われたAquinas Training運営のWebVR Hackathonの結果を見れば、WebVRの堅実なアプローチがわかるはずである。

選ばれたチャンピオンの中の1人、Roland Dubois氏はハードウェアと実際のユーザーの環境に基づいてカスタマイズされた、VR体験からVR体験までを順次ユーザーにフォローするVRプロファイルAPI「gravr — A Globally Recognized Avatar for VR on the web(Web上のVRのための世界的に認められたアバター)」で最高のアプリカテゴリを獲得した。

Gravr-by-Roland-Dubois
Above: Roland Dubois’ gravr concept, “A Globally Recognized Avatar for VR on the Web”

Dubois氏の作品はWebVRの特に素晴らしい点の1つを強調している。これは開発者がメタバースと呼んでいるものの基礎だ。メタバースでは無限に成長する仮想宇宙を通して、相互に関連した仮想世界の中を次から次へと旅することができる。

Web VRを使ったスタートアップ企業LucidWebの共同創設者であるThomas Balouet氏は、次のように説明している。

「インターネットで料理レシピをチェックしようと思い、その2時間後にウィキペディアでパタゴニアについての記事を読むというのは既に体験済みですよね。そこでヘッドセットをつけて、涼しい場所でリラックスしているVRを見ていることを想像してください。そして15分後には山の上で友人と話したり、あなたの故郷の上空を飛び回ったりもしています。それがメタバースです。このような状況は深いつながりでのみ可能です。場所から場所へ、また移動したことに気づかないまま、関連する別の場所に導かれる、WebVRだけがそれを可能にします」。

VR業界では多くの業者がキラーVRアプリケーションへを探していると聞く。これは、大半のユーザーが最終的に自社のVRに集まるようにするアプリである。私たちはその客寄せに場所を提供してしまっているのかも知れないが、多分それは私たちが探しているはずのアプリではなく、Webを利用したパラダイムシフトを提供するプラットフォームなのである。仮想現実体験の数々やツール、製品などが相互につながることで私たちは皆、面白い体験ができることになるだろう。

【原文】

【via VentureBeat】 @VentureBeat

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