日本がイノベーションを起こせない理由、そして何をすべきか?——センサーを着るシャツ「e-skin」開発のXenoma(ゼノマ)網盛氏に聞く【ゲスト寄稿】

by ゲストライター ゲストライター on 2017.6.8

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。

Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。

彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を主宰し、日本のスタートアップ・コミュニティに投資家・起業家・メンターとして深く関与しています。


Xenoma のチーム(中央が代表の網盛一郎氏)
Image credit: Disrupting Japan

トランジスタラジオから、ウォークマン、ゲームボーイ、プレイステーションに至るまで、日本は常にコンシューマハードウェアの世界的リーダーだった。そしてこの数十年間、日本の支配はずば抜けたものだった。しかしながら、その後、日本の大企業が遅れをとり始めたのに対し、日本のスタートアップは前方を走り続けている。

今日は、Xenoma(ゼノマ)の網盛一郎氏に、富士フイルムを退職し「e-skin」を開発するハードウェアスタートアップを設立した理由を聞いてみたい。

面白い対談なので、楽しんでもらえると思える。

Tim:

e-skin というのは何ですか?

網盛氏:

e-skin は、スマートアパレルです。身体の動きを捕捉できる、伸び縮みする素材で作られたシャツです。このシャツは身体にピッタリとフィットし、見た目はワークアウトウェアのようです。身体を動かすと、シャツがどう動いたかを検出します。例えば、肘を曲げると、シャツの素材が一定方向に引っ張られ、正確にそれを検出するのです。

Tim:

つまり、伸び縮みを検出することで、センサーが反応するわけですか?

網盛氏:

伸び縮みも検出していますが、胸の部分にもコントローラがついています。このコンポーネントはコンピュータにワイヤレスでデータを送信し、着用者がどのように動いたかを完璧に捕捉するために、加速度メーターやジャイロスコープなどのセンサーも備えています。

Tim:

呼吸や心拍などもモニターできるのですか?

網盛氏:

シャツが伸縮するので呼吸はモニターできますが、今のところ心拍はモニターできません。

Tim:

あなたは、いわゆる典型的な創業者ではありませんね。材料科学の博士号を持ち、Xenoma を始めるまで20年にわたり富士フイルムで働いてきました。どうして仕事を変えようと思ったのですか?

網盛氏:

富士フイルムは大変イノベーティブな会社です。社内のイノベーションをサポートすべく多くのことをやっています。しかし、他の大企業と同じくデシジョンメイキングが遅く、e-skin のような変わったプロダクトの判断には特に時間がかかるのです。私はこのプロダクトの可能性を信じていましたし、市場に出すべきと考えていましたし、自分自身の課題としてやりとげなければならないと考えました。そこで、富士フイルムを離れ、Xenoma を立ち上げたのです。

e-skin
Image credit: Xenoma

Tim:

お客について教えてください。誰が e-skin を使っているのですか?

網盛氏:

既に、デベロッパが e-skin を使ってアプリを開発できるよう SDK をリリースしています。病院、ゲーム会社、フィットネス業界の企業からも多くの問い合わせをいただいています。

Tim:

e-skin のシャツはいくらでしょうか?

網盛氏:

約1,000ドルです。

Tim:

ゲームのコントローラとしては高価ですね。アーリーアダプターの多くは、商業用や産業用のアプリにフォーカスしようとしているのでしょうか?

網盛氏:

これくらいの価格なら出してもいいというハイエンドのゲーマーもいると思いますが、確かに、ヘルスケアやスポーツトレーニング業界の人たちなら、この価格にも納得して早い段階で適応してくれるかもしれません。ハードコアゲーマーは、しばしば技術を早めに取り入れ、プロダクトの実現できることの限界を押し上げる傾向があります。ですので、まずは彼らをターゲットにしています。

実際のところ、我々の早期の段階での利益は、ゲームや e スポーツ企業からもたらされています。しかしながら、我々の長期的な目標は、これらのシャツのコストを下げ、人々が日常生活に取り入れられるようにすることです。心臓モニターのような機能も追加したいと考えています。日頃の生活において、活動量、姿勢、心臓の健康状態が記録できるようになるでしょう。つまり、この技術は、見えない形で一般に浸透していくものなのです。

Tim:

e-skin に関心を示しているゲーム会社の多くは、日本企業ですか、それとも海外企業ですか?

網盛氏:

関心の大半は、海外からですね。特に、アメリカや中国から多いです。残念なことですが、日本企業は、それがゲーム会社であっても、あまりアーリーアダプターではありません。彼らは、アメリカで起きていることを観察し、それを追随する傾向にあります。

Tim:

日本では、ゲームにおいては世界のリーダーでしたよね? 何が起きたのでしょうか?

網盛氏:

任天堂やソニーは依然として強くビジネスにおいて堅調ですが、ゲームがハードウェアビジネスからソフトウェアビジネスにシフトにするにつれ、将来も日本が強くあり続けられるかどうかには不安が残ります。すでに、日本から他のアジア諸国へのシフトが見受けられます。日本の人口の平均年齢は増加しつつありますが、これはゲームにとってはいいことではありません。我々のところへの問い合わせが、日本ではゲーム会社より、老人ホームからの方が多いのには、そういう事情が背景にあるのかもしれません。老人ホームでは、プライバシー侵害の恐れがあるカメラなどを使わず、e-skin を患者をモニターする手段として捉えています。

Tim:

日本企業は基礎研究においては堅調ですよね。イノベーティブな製品を市場に出すまで、彼らはなぜそれほどまで忍耐強くあり続けられるのだと思いますか?

網盛氏:

富士フイルムで多くのことを目の当たりにしたのですが、同じことは大学でも起きていると思います。それは、研究が深く理解されたプロセスだからです。研究はいつ成果が得られるかわからないものですが、スマートな人々なら基礎研究の間も成果を出し続けるでしょう。この状況は過去50年間変わっておらず、日本はこの点に今も長けています。

しかし、新製品を作ることにはより大きなリスクを伴います。新しい市場に向けた製品を作ろうとする場合は特にそうです。いずれにせよ、日本企業はこのような新製品の開発に対してリスクを取る力を失ってしまい、他の会社が先にやるのを待つようになってしまったのです。彼らは技術は持っているのですが、それを製品にしようと決断するガッツが無いのです。


新しいハードウェアの限界を追求するという点において、ゲーマーがそれを牽引しているという網盛氏の見方は正しい。しかし現在の価格では、Xenoma のアーリーアダプターの多くは商業用アプリになりそうだ。今後の動向を注視していく必要がありそうだ。

少し落胆させられ、そして、驚くことでもなかったのは、Xenoma のアーリーアダプターはすべてアメリカか中国の会社だということだった。日本の大企業は、イノベーションを起こすだけの力は備えているのに、その野心を失ってしまったようだ。

ある意味で、これは良い知らせでもある。日本の産業にはイノベーションに必要な技術、インフラ、資金がある。大企業がイノベーティブな外国企業や日本のスタートアップから追い上げられていると感じ始めれば、彼らは必要なモチベーションに気付き始めるだろう。

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