食品を美味しくすることが、なぜ食品問題を解決することになるのか?——上海のフードテック・アクセラレータBits x Bitesが描く将来展望

by TechNode TechNode on 2017.7.6

Image credit: Bits x Bites

フードテックについて消費者によく知ってもらおうという試みは、たいてい時間の無駄に終わる、と Joseph Zhou(周桓達)氏は言う。彼は、中国初のフードテック専門のベンチャーキャピタル兼アクセラレータ、Bits x Bites(ビッツアンドバイツ)の投資パートナーだ。また、Zhou 氏は、中国における食品の安全性や廃棄物、持続可能性といった問題は、食品の味を向上させることで解決できると主張する。

上海に拠点を置く Bits x Bites は、食品技術だけに焦点を絞ったアクセラレータでありベンチャーキャピタルでもある。だが、中国においては最終製品を食べる消費者には食品技術のことを教えないのがベストなのだ、ということを同社は気付かされた。

Zhou 氏はこう説明する。

食品は感情を動かし、人々を納得させる力を持っています。ですので、食品を圧倒してしまうようなテクノロジーを誰も望まないのです。

上海にある Bits x Bites のスペース
Image credit: Bits x Bites

Bits x Bites は次のような高い目標を掲げている。

  • フードテックを活かして、中国における慢性的な食品安全性の問題に取り組む。
  • サプライチェーンで発生する廃棄物を削減する。
  • 将来における中国の食糧の持続可能性を確保する(できれば、急成長を遂げている中国のO2Oセクターから投資資金を少しでも引っ張ってくる)。

フードテックそのものは目立たない方が良い。Zhou 氏はこのように語っている。

消費者教育というのはキリがない、ということを私たちは学びました。市場を教育し終わる前に、資金が底をついてしまいます。食品に関して最も重要なことは、美味しく仕上げることです。美味しくすることでしか何かを伝えることはできませんし、そうしなければ誰も話を聞いてくれません。

食品問題の解決に重点的に取り組む Bits x Bites の姿勢は、投資先としてスタートアップを選ぶ基準にも表れている。

まず大事なのが、食品であることです。新しいアイデアを持ってアプローチして来る人には、最初に「それはおいしいですか? 味見させてもらえますか?」と質問します。それから、生産、調達、安全性の話をします。

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食の安全性

中国では、自分が食べる物の安全性を確保することがほとんど不可能な状態だ。農地の5分の1が危険なレベルで汚染され、地下水(農家も使用する)の80%が汚染されていることを政府も認めている。しかし、サプライチェーンのもっと下流側では、食品加工における過失や明らかな犯罪行為が相次いでスキャンダルとなったり(大惨事となった粉ミルク事件はまだ記憶に新しいところだ)、流通過程や店舗内で生鮮食品が適切に保存管理されていないなど、より大きな問題が存在する。

Bits x Bites の設立者である Zhou 氏は過去にオンライン農産物市場「Yimishiji(一米市集)」も設立しており、その市場は現在も運営されていて、マーケティング戦略のためのデータ収集や商品をローンチするために利用されている。

最初に取り組んだのは安全性の透明化である。取り扱う農産物のほとんどは上海の近くにある崇明島で生産されたもので、各農家の名前を記したラベルが貼られている。これによって、顧客は二酸化炭素排出量を含む19種類の食品情報を知ることができる。これは信頼の構築に一役買ったが、規模が小さすぎてサプライチェーンのごく一部しかカバーできなかった。

どこでも農作物を育てられるコンテナ「Alesca Life」
Image credit: Bits x Bites

Bits x Bites が打ち出した最も極端なソリューションは、コンテナ農業スタートアップの Alesca Life だ。土すらも必要とせず、コンテナ内の温度、湿度、照明を徹底管理する。コンテナはどこにでも置くことができ、クラウドに接続して制御することができる。

農家の長年の経験は必要ありません。このテクノロジーがあれば十分です。(Zhou 氏)

中国では、北京に新しくできた Hotel Jen(今旅酒店)など少しずつ顧客がついてきている。Alesca はまだマスマーケットに向けた供給には至っていないが、これまでに獲得した主要な顧客の一つにはドバイ政府がある。ドバイ政府が Alesca を導入したのは、安全性のためというよりも、持続可能性を確保し、新鮮な農産物によって国民の健康を改善するためである。

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食品廃棄物

食品廃棄物は、農場や冷蔵庫の中などサプライチェーンの様々な段階で発生します。(Zhou 氏)

Bits x Bites が現在検討しているソリューションの一つがコールドチェーンだ。これは食品安全性の問題にも大きく関わっている。農産物を冷蔵状態で輸送するトラックなど低温流通用の車両は存在するが、農場や倉庫から農産物を積み込んでから30分ほど経つと、運送会社はコスト削減のために冷蔵庫のスイッチをオフにしてしまうのだ。その後、配送先の倉庫や店舗への到着時に食品が冷たくなるようなタイミングで、スイッチをオンにする。

Bits x Bites は現在、輸送中の農産物の温度を追跡するリモートコールドセンサーに投資したいと考えている。

もう一つのソリューションは、食品流通の最終目的地、つまり家庭や店舗の冷蔵庫に関するもの。Phresh というイスラエル企業は、冷蔵庫内でゆっくりと蒸発してバクテリアを死滅させる粉末を開発した。これにより、農産物は3倍長持ちする。

食糧の持続可能性

食品業界に携わる多くの人が、2050年までに世界人口が90億人に達するということに危機感を覚えています。特に懸念されるのがタンパク質不足です。

Zhou 氏はこれが大きなビジネスチャンスになることを踏まえながら説明する。シリコンバレーでは、クリーンミート(clean meat)と呼ばれる、研究室で生産された食肉を推進しており、その他にも植物や昆虫由来のタンパク質について取り組む者もいる。

昔から中国では、大豆製品やキノコ関連食品などから植物性タンパク質が摂取されてきた。これは、食糧不足による影響もあるが、仏教による部分もあるようだ。中国の北東部、南部、南西部ではすでに昆虫食は一般的なことだ。

しかし、これまでイノベーションが起きていません。つまり、チャンスなのです。(Zhou 氏)

Zhou氏は言う。Bits x Bites は中国で起きている「消費のアップグレード(消費昇級 )」にも合うような植物原料の商品を模索している。Bits x Bites のスタートアップの一つに Bugsolutely という企業がある。Bugsolutely は、カイコからスナックを、コオロギからパスタを作っている。

念のために言っておくが、食べ物の話をしている。

私たちは、見た目を『昆虫』とわからなくすることで不快感を軽減し、味も美味しく仕上げています。そして、これによって持続可能なタンパク質を提供することができます。私たちはこれこそが中国の消費者にとっての未来の食糧になると考えています。

需要のアップグレードと政府

消費者がもっと多くのことを求めるようになってほしいです。消費者からの要求が高まった時に初めて、工場や大手食品企業は、高品質で安全性の高い食品を最終市場に提供しようということを強く意識します。これを「消費のアップグレード」と呼んでいます。

これは世界の市場で起こっていることだ。例えば、Chobani のヨーグルトは15年間飽和状態にあった市場に参入し、ギリシャスタイルのテクニックを活かして15%の市場シェアを獲得した。クラフトビールも同様に成功を収め、アメリカで12.5%の市場シェアを獲得するまでに急成長した。そして、市場シェアを失った大手ビール企業らはクラフトビール企業の買収を行った。

Bugsolutely によるカイコのお菓子「Bella Pupa」
Image credit: Bits x Bites

中国の消費者は消費のアップグレードの波に乗っかる、と私たちは確信しています。今の消費者は高くてもお金を出してくれます。これには起業家たちも勇気づけられます。(Zhou 氏)

政府も自信を持っているようだ。

中国農業科学院(通称、農科院)は、Bits x Bites にアプローチし、早期段階での議論の場を設けようとしている。彼らは食糧生産に関連する膨大な数の特許を抱えていて、こうした特許の一部の商業化を考えており、そのためのチーム編成に協力を得たいのだ。確かではないが、これは政府機関にやる気がある可能性を示している。

プロセス

Bits x Bites にとって最初のスタートアップの「収穫」でもある4ヶ月間のプログラムが終了したばかりだ。そのクライマックスとなる上海でのデモデイには、食品の未来を見ようと、メディア、潜在投資家、顧客が来場した。

Bits x Bites のアクセラレーションは、アーリーステージのシードスタートアップやプレAラウンド、Aラウンドのスタートアップのみを対象としている。スタートアップらはBits x Bitesに対してピッチを行い、Bits x Bites はリミテッドパートナーである調味料メーカーの Shinho(欣和)と共に最終選考を行う。Bits x Bites は現在第2コホートへの申込みの審査を行っていて、6月30日まで申込みを受け付けている

中国市場向けに高圧処理で作られたサラダの液体版「Salad Bottle」
Image credit: Bits x Bites

また、インキュベーションへの参加者を自ら積極的に探していて、食品サプライチェーンを調査し、すき間を見つけては、問題を解決できると思われる人々にアプローチしている。

Bits x Bitesは、現在のサプライチェーンにイノベーションをもたらすベストな商品や技術を誰でも提供することができるオープンプラットフォームです。栄養士、デザイナー、農家、グルメ通は大歓迎です。

スタートアップらは120日間のトレーニングを受けられるだけでなく、コワーキングスペースを利用できたり、ラボやキッチン、大勢のメンターや資金にアクセスすることができる。Bits x Bites は一つのスタートアップに対し、最高で300万人民元(ただし株式の15%以下)の出資を行う。

その資金は Bits x Bites のリミテッドパートナーである Shinho から出ている。Bits x Bites の設立者である台湾人の Matilda Ho(何瑞怡)氏は、Joseph Zhou 氏の MBA 時代の同級生でもある。彼女は以前、デザイン企業 IDEO の上海拠点で働いて、Shinho は当時の顧客の一つだった。Shinho は、中国における食品の未来を良くするためには良い原料を使用するだけでは駄目で、それ以上の何かが必要だということに気づいていた。

彼らは、人材を集めるためには資本を開放しなければならないことを知っていました。(Zhou 氏)

そして、 Ho 氏が Bits x Bites を設立する際に Shinho はリミテッドパートナーになった。Bits x Bites は IDEO とスペースを共有している。というのも上海において IDEO の上層部は、スタートアップにとってはメンターとなり、Bits x Bites にとっては相談役となるのだ。

商品は準備が整うと、Yimishiji、Benlai Shenghuo(本来生活)、Tencent(騰訊)が支援する MissFresh(毎日優鮮) などのさまざまなプラットフォーム上で商品がローンチされる。Bits x Bites は手数料を支払ってスーパーマーケットの流通に参加することもできるが、スーパーマーケットやコンビニに目を向ける前に、eコマースでの販売からユーザのフィードバックを得たり、新たなメディアを使ってストーリーを演出するようにスタートアップに勧めている。

フードテックはより安全で持続可能な食品をもたらすかもしれないが、美味しいものでなければ売れないはずだ。中国やその他世界中の国々でこうした食品の需要が高まれば、より安全な食品の未来を得ることができるだろう。とはいえ、現在も中国では非常に深刻な食品安全性の問題が相次いでいる。Bits x Bites も当然知っているように、文字通り、論より証拠なのだ。

【via Technode】 @technodechina

【原文】

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