マルチバリューDB開発のシマント、シードラウンドでDraper NexusとIDATEN Vから7,000万円を調達——RPAとIoT領域への展開を本格化

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マルチバリューデータベース製品「SImount Box」の開発・提供を行うシマントは11日、シードラウンドで Draper Nexus Ventures と IDATEN Ventures から総額7,000万円を調達したことを発表した。Draper Nexus は、今年2月の段階でシマントへ投資を実行したことを明らかにしており、今回はそれを含んだシードラウンド調達実施の発表となる。Draper Nexus については改めて説明するまでもないが、IDATEN Ventures については特にウェブサイトなども無いので補足しておくと、Mistletoe や Visionaire Ventures などで投資業務に従事する足立健太氏が運営するファンドである。

シマントは2014年8月、元メガバンク行員の和田怜(さとし)氏(現 CEO)と、データベースのスペシャリスト渡邉繁樹氏(現 CTO)により設立された。

一般的にデータベースというと、多くの人の頭の中には、RDB(Relational Database)のことが思い浮かぶだろう。行と列で構成された2次元のデータベースレコードの集合を複数の表という単位で構成し、SQL 言語や GUI やウェブアプリケーションやクラサバアプリなどから操作する。一方、マルチバリューデータベースでは、RDB でいう一つのキーに対する複数のレコードを集合を、ひとかたまりにして扱うことができる。データベースのことを知っている人なら、複数の表を横断・結合してレコードを検索する「JOIN」が要らない(和田氏)という説明が最もわかりやすいだろう。

企業の経営層に近い経営企画などの部門では、経営の意思決定を支援するために、上層部に対して事業を数値・分析した結果を報告することがしばしば求められる。基幹系、情報系、SFA 系(Sales Force Automation)、MA 系(Marketing Automation)など複数のシステムを横断してデータを集め、例えば、顧客を表すユニークキー(例えば、顧客 ID だったり、銀行であれば口座番号であったり)で紐づけてデータを解析することになる。これらのデータが一つのデータベースにまとまっていれば話は早いのだが、情報系統によってデータベースどころか、OS やデータのフォーマット、ユニークキーなどもすべてバラバラだ。

さらに物事を難しくするのは、〝データの汚れ〟である。年賀状の送り先のリストを作るだけでも、同じ人物のデータが複数入っていて難儀することがあるが、この種のデータを名寄せしたり、クレンジングしたりという操作を、企業では莫大なデータ量に対して行わなければならない。

そもそもこの一連のデータの集積・解析作業をシステム化できればいいのだが、データを抜き出すバッチ処理を一つ作るにもシステム部門のエンジニアを稼働させなければならない。つまり、経営企画の部門からシステム部門に対して、工数分の作業発注をしなければいけなくなる。多くの企業において、システム部門はより顧客に近い部分の仕事に追われているので、経営企画の部門の作業を引き受けてもらえる可能性は低い(もしくは、作業優先度は低い)。

かくして、経営企画の部門では、担当者がなんとかして各システムから引っこ抜き、他部署の協力を仰いで集め、それをローカルのデスクトップやラップトップ環境などで解析することになる。データはファイルになるだろうから静的なもので、必要に応じて、担当者はこの同じ作業を毎度繰り返すことになる。

シマントが開発する SImount BOX はこの一連の作業を自動化しようというものだ。自分のデータベース領域外に格納されたデータについても、自分のデータベースの中にあるかのように仮想的に扱うことができる。ローデータ(データ本体)とメタデータ(データのインデックス、または、データベースのクエリに相当)を別々に持っており、担当者は手元にローデータを置く必要がないことから、企業の情報コンプライアンスも遵守しやすい。ローデータ一つに対し、メタデータを複数パターン用意することも可能だ。

さらに素晴らしいのは、SImount Box のユーザインターフェースが Excel である点だ。経営企画の部門の担当者は、普段から使い慣れた Excel のスプレッドシート上で自由に複数システムを横断したデータを集積・解析でき、試行錯誤しながら条件を変更することも可能だ。Excel ファイルを保存しても、元のローデータはローカル環境に残らない。

SImount Box の開発に至ったキッカケを和田氏に尋ねたところ、彼は自身のメガバンクでの経験を思い出しながら、次のように語ってくれた。

以前なら、新入社員1人に対して先輩が3人位ついて現場で業務を教えた。今では、1人の先輩を10人位の新入社員を受け持っているような状況だ。なぜ、このようになってしまったかというと、本部の経営に中堅層の社員がとられてしまっているからで、その結果、現場で人が育たなくなっている。

どのような企業でも、売上を作っているのは現場なので、現場に人を張れる(配置できる)ようにするための技術であれば、意味があるだろうと考えた。

労働人口の減少が進む日本で、次第に耳にすることが多くなった RPA(robotics process automation)という言葉だが、ルーティンワークを効率化するよりも、ディシジョンメイキングを求められる経営に近い層の業務を支援し、空いたコア人材のリソースを現場に戻すことで、企業の事業経営の基礎をより堅固なものにしてもらおうというのが和田氏の考えだ。

RPA 分野では、業務自動化ソリューション「Biz Robo」を展開する RPA テクノロジーズなどが先行するが、SImount Box の場合、現場仕事を自動化するというよりは、ディシジョンメイキングが求められるホワイトカラー層の業務を効率化することで、彼らを現場へ戻そう(そして、現場の人材を育ててもらおう)というアプローチをとっており、直接的な競合にはならないのではないか、または、共存し相互に機能補完できるのではないか、とのことだった。

先日、兜町の The Garage を訪問したときにも、玄関にシマントのロゴマークが掲げられていたが、シマントは第2期を迎える MUFG DIGITAL アクセラレータに採択されており、7月28日に開催されるデモデイでは MUFG グループとの協業内容が発表される模様だ。この内容については、追って THE BRIDGE で詳報をお伝えする予定だ。

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