VRで日本の外科手術を変えるHoloEyes【ゲスト寄稿】

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。

Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。

彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を主宰し、日本のスタートアップ・コミュニティに投資家・起業家・メンターとして深く関与しています。


HoloEyes 共同創業者兼 CEO 兼 CTO 谷口直嗣氏

医療業界は、最も規制が多くディスラプトが難しい領域の一つだ。大部分において、それはよいことだ。しかし、医療業界をイノベートし始めているスタートアップも存在する。それは破壊的な変化ではないが、すべての人の人生をよくする、シンプルで慎重かつ順序を経た変化だ。HoloEyes もそんなスタートアップの一つだ。今日は谷口直嗣氏とともに、彼らの VR ソリューションがいかにして医師らを巻き込み、手術の方法を変えつつあるかについて話してみたい。

Tim:

HoloEyes って何ですか?

谷口氏:

HoloEyes は、医師が外科手術の計画に使える AR(拡張現実)ツールです。このシステムは、患者の CT スキャンから得られた詳細な VR モデルを作成します。それらの画像を使うことで、医師同士が円滑にコミュニケーションできるようになるわけです。

Tim:

どのようなコミュニケーションですか?

谷口氏:

最も重要なコミュニケーションの一つは手術計画です。手術の前に、手術の長を務める外科医が医師や看護婦を集め、手術をどのように進めるかを細かく説明します。医師らは今のところ、手書きの図や2次元グラフィックを使って説明しています。HoloEyes を使えば、その医師やチームは例えば患者の肝臓の 3D モデルを見たり、操作したりできます。医師が画像をズームイン/ズームアウトしたり、3次元で回転させたりして、「ここの腫瘍を取り除きますが、後ろに静脈があるので注意する必要があります」などと説明できるわけです。

Tim:

なるほど。医師たちが HoloEyes に興奮する理由がわかりました。

谷口氏:

ドキュメントに基づいた手術よりも断然いいです。HoloEyes は病院のカルテシステムとも連携し、医師らは 3D モデルを使って、手術中に起きたことを正確に見せることもできます。

Tim:

医療機器は、世界で最も規制が厳しい分野の一つですが、HoloEyes を使うのに免許や承認をとる必要はありますか?

谷口氏:

いいえ。私たちが提供するのは、診断ツールでも治療薬でもありません。HoloEyes は、記録するために用いられます。そういう点では、医師が MS Word や Excel を使っているときと同じです。

HoloEyes

Tim:

谷口さんの経歴は物理学で、共同創業者の杉本さんの経歴は外科医ですよね。二人が出会って、会社を始めようと決めるまでの経緯は?

谷口氏:

私の友人が医療系出版社の編集者をしていて、出版社が持っている全データから、何かしら新しいデジタルサービスが作れるか考えてくれないかと彼から頼まれたんです。私は自分の研究で、医療画像に関する杉本氏の記事を見つけました。私は彼に「あなたの仕事に興味があります。会ってもらえませんか?」とツイートを送ったんです。私と杉本氏は数回会い、一緒に会社を作ることを決めました。

Tim:

杉本氏は日々の HoloEyes の経営に携わっておられるのですか? あるいは、アドバイザーといった感じですか?

谷口氏:

杉本氏は外科医です。それが彼の仕事です。しかし、彼は私たちのシステムを自分の病院で使い、他の多くの医師にも HoloEyes を使い始めるよう説得してくれました。

Tim:

HoloEyes は、特定の種類の外科手術に特に有効なのでしょうか?

谷口氏:

手術手順の種類には依存しませんが、内臓によっては、うまく表現できるものとできないものがあります。HoloEyes は、肝臓、腎臓、顎のモデリングはうまくできますが、今のところ、肺や心臓のモデリングはうまくできません。

Tim:

肺や心臓のモデリングは、どうして難しいんですか?

谷口氏:

動きが速すぎるからです。よい VR モデルを作るためには、そういうCT スキャンを使うことができるでしょう。

Tim:

なるほど、わかりました。VR 画像の解像度は十分なのでしょうか? 医療画像は、非常に高画質であることが求められますよね?

谷口氏:

HoloEyes は、CT スキャンやレントゲンを置き換えるものではありません。HoloEyes は言ってみれば地図のようなものです。詳細な部分は多く省かれているから、計画や学習に集中できるのです。医師が診断するには、今でも CT スキャンやレントゲンが必要です。HoloEyes は、手術計画や解剖テキストで使われるイラストの描画を置きかえようとしているのです。

左から:杉本真樹氏(取締役 兼 COO)、谷口直嗣氏(CEO 兼 CTO)、新城健一氏(取締役兼 CSO)

Tim:

以前、携帯電話を意識しながら HoloEyes を設計しているとおっしゃっていましたね。それはどういうことですか?

谷口氏:

医師らが HoloEyes をケータイで使うことを期待しているわけではありません。しかし、多くの理由から、廉価なケータイで動かせるようなシステムにしたいと考えています。最もわかりやすい理由は、コストを下げるためです。しかし、ケータイの処理能力やグラフィック能力は驚くべきスピードで向上しているおで、今後、多くの機会が我々の前に開かれることでしょう。

Tim:

どのように進んでいくでしょうか? どんな利用形態になるでしょうか?

谷口氏:

最もよく使われるのは、教育と医師同士の円滑なコミュニケーションです。長期的には、VR 医療画像の GitHub のような存在になりたいと思います。さまざまな症状や病状にある内臓の、無償 VR モデルライブラリを構築する計画をしています。廉価な SaaS サービスも提供します。こうすれば、インドやベトナムなど世界中の医療学生が、自分のスマートフォンを使って、包括的な VR モデルを安価に使えるようになるでしょう。我々は HoloEyes を、新しい医師を養成するための素晴らしいツールにしようと考えています。


日本の病院や医師らが、新しいスタートアップのテクノロジーを試していることに、私は心から驚いた。医療は世界のどこでも保守的な産業だが、日本では特にそうだ。HoloEyes 創業チームのもう半分が杉本氏という医師であることも、そのテクノロジーを受け入れられやすくする。谷口氏や他のデベロッパが専門領域を持っていることで、医療施設の視点からプロダクトを検証することを可能にしている。

HoloEyes は、たいていの VR スタートアップが持っていない2つの要素を既に持っている。一つは、HoloEyes の設計にあたり利用を想定した職場で、毎日 HoloEyes を使ってくれるユーザベースが既にいること。二つ目に、ユーザが同意するやり方で非常に具体的な問題を解決していることだ。5年後には、手術をより正確に計画したり記録したりするのに、HoloEyes のようなシステムを使わない医師は存在しなくなるだろう。

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