皮肉なものだ、詐欺できない仕組みの暗号通貨が詐欺だらけになるなんてーーICO、その仕組みと犠牲者たち

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Photo via Visual hunt

寄稿者のJustin Bailey氏はFigの創業者兼CEO。

暗号通貨の創造と発展は、2008年の金融危機に直接結びついている。 2009年にリリースされたビットコインとその基盤となるブロックチェーン技術はウォルストリートに蔓延する、特にデリバティブやバンドル商品といった投機的な「ならわし」を安定させる手法として見られていた。だがどうだろう?近年の暗号通貨市場の地位を握っているのは、これらの初期ユートピアの約束とはまったく対照的で、悪質な投資家の群れが己の利益のために技術を乗っ取っているではないか。

ブロックチェーンが示した、2008年の金融危機に対抗する効果的であるとされた理由は「本当は誰も信用できない」という仮定に基づいており、詐欺を防止する唯一の方法はすべての取引を「公的元帳」に普遍的に記録し続けるということにあった。このコンセプトは政府規制当局や主要金融機関が必要とする、自己警戒型のリバタリアン・モデルを採用したものなのだ。

ビットコインの登場以来、暗号通貨は熱狂的なペースで拡大してきた。今日までに3000種類以上のブロックチェーン技術のバリエーションが存在する(そしてここには数十億ドルが投資されている)。

そしてこの暗号通貨の最新トレンドが一般に「トークンセールス」と呼ばれる新規仮想通貨公開(ICO)である。

ICOは潜在的な資金需要のあるベンチャーと、直接的または間接的に結びついた「暗号コイン」を従来的な有価証券の代わりに、投資家がクラウドファンディングプロセスを通じて購入することで資金を調達するものになる。トークンの小さなサブグループである 「ユーティリティトークン」は有価証券の特徴を持たず、本来は規制当局によって扱われるべきものではないが、残念ながらICOで販売される数多くのトークンは従来の株式に似たものになっている。これら「擬似株式型」のトークンは、規制当局に対して説明責任を負う必要がある。

私はICOについて長期的には肯定的に考えている。

ICOによって企業は金融取引や金銭のやりとりを処理するために必要だった外部代理業者たちと連携する必要がなくなる。また企業はすべてのリターンを暗号ウォレットを通じて支払うことができるため、為替レートや取引手数料の懸念から解放され、暗号トークンは消費者と企業の間で迅速に取引される。また、余分な間接費を削減または除去することで、企業は初期のシェアコストを低く抑えることが可能となり、より多くの個人に対して投資の選択肢を提示し、彼らの初期購入コストを低く抑えることができる。つまり、ICOは消費者と投資家における会社の株式や所有権、評価額といった基本概念について完全な革命を起こすことができる方法なのだ。

しかし2008年に大胆な住宅市場が金融危機を誘発したように、華やかなドルの兆候の下にはむしろ騒がしい現実があるのだ。取引を分析し、マネーロンダリング防止ソフトウェアを提供するニューヨーク拠点のChainalysisの調査によれば、少なくとも10件のICOにつき1件は詐欺スキームであり、3万人の投資家が総額2億2500万ドルのサイバー犯罪の餌食となっているというのである。

これらの多くのICOはポンジ・スキーム(詐欺手法のひとつ)と似ている。誇大な宣伝と市場狂乱を利用し、可能な限り多くの投資家を引き込んだ上で潜在的な暗号通貨の価値を高める。その後、価値が上がるにつれて最初の投資家はフロアが崩壊する前に、キャッシュアウトしたり、そのゴミトークンを他の暗号通貨に交換したりするのだ。少しばかりの利益を得て幸せだったのはつかの間、最後はなんの価値のないデジタルコードを塩漬けしたまま持ち続けることになる。

さらに悪いことに暗号業界には基本的な「情報の非対称性」というものがある。主要なプレーヤーたちーーこれはさまざまなコインネットワークとブロックチェーンに接続されている人々のことを指すのだがーー彼らはICOの浮き沈みをナノ秒単位で正確に推測することができ、急激な価格変動の局面では事実上のゲートキーパーとして機能することができる。ハイパー・デイトレーディングとは異なり、この種の「仕手行為」はインサイダー取引や違法行為になる可能性があるが、規制がなければ彼らはこの慣行を絶え間なく継続することができる。

しかし残酷で皮肉なものだ。伝統的な仲介業者のコントロールが効かない、少なくとも政府規制当局の手の届かない場所で、近視眼的で儲けしか考えないGordon Gekko氏 ような輩たちがまさにそのウォール・ストリートに不信感を抱き、ICOに転換した人々を背に懐を潤すことができたのだから。そしてこういった問題に対処する代わり、ゲートキーパーたちはICOの破壊的な潜在的可能性を変化させるのではなく、リップサービスしながら利益を得ることに向かってしまった。

2008年の教訓は規制当局が悪いということではなく「一様に実施する必要がある」ということなのだ。規制当局がいないと悪い輩たちは市場に拡大し、自分の利益のためにこれらを台無しにしてしまう。

希望の兆候はある。SECが最近発表した説明 だ。ただこれでは悪い輩を減らすには大きくは及ばない。SECのような規制当局が行うべきことは、ICOに安定と完全をもたらすことなのだ。詐欺を事前に排除し、すべての取引の透明性を確保することから始まる。情報の開示とガイドラインを遵守すれば投資は民主化されることになるだろう。結果的により幅広い新たな層が富裕層や機関投資家のために伝統的に確保されていた収益分配の流れに参加することができるようになる。

これらの目標を達成するための規制はすでに実施されている。技術的および設計上の難しさで、現時点で積極的な実現性が欠如している可能性はある。しかしICOの未来は明確だ。暗号通貨市場を安定させ成熟させるには、SECのような規制当局が必要なのだ。これにより、投資家が自己繁栄しているゲートキーパーたちによってもはや騙されなくなり、暗号通貨の利点が最終的​​に幅広い人たちに開放されることになるのだ。

【原文】

【via VentureBeat】 @VentureBeat

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