子供たちのノートからビジネスを生み出すアルクテラス【ゲスト寄稿】

by ゲストライター ゲストライター on 2017.11.24

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。

Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。

彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を主宰し、日本のスタートアップ・コミュニティに投資家・起業家・メンターとして深く関与しています。


教育は最もディスラプトが難しい業界であり、たいていのエドテック・スタートアップがもがき苦しんでいる。今日お話を聞くのは新井豪一郎氏、彼の会社アルクテラスについて語っていただく。同社は教育を改善するためにボトムアップのアプローチをとっている。アルクテラスは、生徒が互いに勉強を助け合えるよう支援することで利益を上げる「Clear」というサービスを開発した。

素晴らしいディスカッションなので、お楽しみいただけると思う。

アルクテラス CEO 新井豪一郎氏
Image credit: Arcterus

Tim:

アルクテラスは、エドテックに対して面白いアプローチをとっていますね? サービスについて教えてもらえますか?

新井氏:

メインプロジェクトは Clear です。生徒が自分の勉強用ノートを他の生徒とシェアできるプラットフォームで、もし自分のノートが人気を得れば、他の生徒からアクセスに応じて料金を徴収することができます。

Tim:

お客さんはどういった人たちですか?

新井氏:

世界中に150万人超のユーザがいます。多くは中学校や高校の生徒たちです。彼らは Clear を主に、校内試験や入試の準備に使っています。例えば、生徒たちは数学で問題を抱えたら、その問題を理解できる方法で説明してくれる他の生徒のノートを見つけることができるわけです。

Tim:

カリキュラムがとても標準化された日本では、Clear が人気を集める理由がわかるような気がします。日本では、使われる教科書は数種類しかないし、同学年の生徒たちは同じ時間に同じ授業を受けますよね。日本以外の市場では、Clear はどのように受け止められているのですか?

勉強ノートまとめアプリ「Clear」
Image credit: Arcterus

新井氏:

国が標準化したカリキュラムを持っていることは、新市場を評価する上で最も重要なことの一つだと考えています。我々の最大のグローバル市場は、タイ、台湾、中国、インドネシアです。これらの国々はすべて、標準化されたカリキュラムと、生徒たちが助け合いたいと考える文化の両方を持っています。

Tim:

それは世界共通かもしれませんね。でも、すべての生徒たちが助け合いたいわけではないと?

新井氏:

驚かれるかもしれませんが、中学校や高校で生徒同士を競争相手と見る国々もあります。このような国では、他の生徒が良い点数を取れるよう手伝ってあげようという理屈は理解してもらえません。それは文化の問題であり、我々はどの市場に進出するかを決める際に注意深く見極めている点です。

Tim:

大学生のノートの分野にも進出しようと考えたことはありますか?

新井氏:

大学では、非常に広範囲に及ぶ教科書を使っていて、大変異なるカリキュラムが組まれています。ある生徒のノートが他の生徒にとって役に立つとは限らず、ノートをシェアすることは難しいのです。しかし、標準化された社会人のテストの領域には進出することを考えています。公認会計士や弁護士の試験ですね。

Tim:

理にかなっていますね。アルクテラスは、生徒の能力を評価するソフトウェア商品を開発していますし、塾も経営していますね。小さなスタートアップにとって、違った事業をたくさん経営することは難しくないですか?

新井氏:

そんなことはないですよ。それぞれの事業には別々のチームがいますし、そこには常に挑戦はあるものの、チーム同士でコミュニケーションを図ったりビジョンを共有することは、ご想像されるほどは難しくないと思います。しかし、あるチームから重要な社員を手放さなければならないことはありました。

Tim:

それはどうしてですか?

新井氏:

事業の一つが方向性を変えたり、大きなピボットをしたりするときには、いつも起きることです。時にはスタッフが賛成してくれないこともありました。

Tim:

それは、日本のスタートアップとアメリカのスタートアップの違いの一つかもしれませんね。アメリカ人は判断がとても早く、時には少々早すぎるくらいで、あるプロダクトを捨て新しい方向へとビジネスを運ぶ。しかし、日本のスタートアップはしばしば、「いやぁ、間違ってしまった。新しいことに挑戦しなければ…」と言いながら辛い時間を過ごしている。そこには、情緒に浸っているという感がありますね。

新井氏:

そうですね。日本の従業員は、自分のやっていることに、非常に強い思い入れを持つ傾向にあります。多くの場合、それはよいことなのですが、変化することを難しくすることがあります。

今年8月、バンコクで開催された Techsauce Global Summit 2017 でエドテックのパネルに登壇した新井豪一郎氏
Image credit: Masaru Ikeda

Tim:

アルクテラスのマーケティング戦略について教えてください。ターゲットにしているのは、学校、保護者、それとも生徒ですか?

新井氏:

我々のフォーカスは、生徒たちそのものです。お金をかけての広告は全くやっていません。我々はツイッターでアクティブに活動しており、ユーザの大半は他の生徒からの口承や推薦で、我々のサービスを見つけています。

Tim:

Facebook や他のチャンネルも使っていないのですか?

新井氏:

はい。中学生や高校生は Facebook や他の多くのソーシャルメディアを使うことはできないので、それで理にかなっていると思います。

Tim:

面白いですね。ほとんどのエドテック企業が保護者や学校に販売することにフォーカスしています。つまり、生徒たち自身はお金を持っていないでしょう。

新井氏:

(笑)はい。確かに、生徒たちはお金は多くは持っていません。我々はコミュニティを構築しているのです。提供しているコンテンツのほとんどは無料で、ノートを販売している生徒も販売価格は極めて安価です。それは多分、生徒たちは、あまり多くのお金が必要ないからでしょう。

Tim:

アルクテラスは、育伸社、朝日新聞グループ、Z 会と提携しています。これらの提携関係を通じて、新しい事業形態が生まれるのでしょうか?

新井氏:

彼らは皆、コンテンツを制作しています。朝日新聞は生徒たちが読みたいと思う素晴らしい記事を提供していますし、Z 会は教科書を発行しています。この提携は素晴らしい関係で、生徒たちに新たな問題を提供してくれます。

Tim:

しかし、それ以上のものがあるのではないでしょうか? つまり、アルクテラスは全ての教科書にアクセスできるわけですから、生徒たちにとってどんな問題が難題で、どんな問題が簡単かといったデータを集めることもできるでしょう。生徒たちの視点から、どの教科書が最もわかりやすい説明をしているかも把握できるでしょう。子供たちにモノを教える新しい方法を構築するのに必要なものを、アルクテラスがすべて持っているように思えます。

新井氏:

なるほど、確かに出版社は教科書を改善するために、そのようなフィードバックを得ることには興味はあると思います。今後、そのような情報を出版社に提供するでしょう。学習の新しい方法を生み出すという点においては、今すぐお話しすることはできませんが、1年か2年先にまたお話しましょう。

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アルクテラスは、私が常々エドテック・スタートアップに「そうしてはいけない」とアドバイスしているやり方で、成功しつつある。生徒たちへのダイレクトマーケティングだ。試験準備や学習ツールは、日本では非常に競争の激しい市場だ。新しいプロダクトを立ち上げたとき、まとめて買ってくれる塾や、購入の判断を生徒自身よりも教育熱に燃えることが多い保護者をターゲットにすることは、多くの場合は理にかなっている。

そんな常道に反して、高校生が互いに勉強を助け合うという思いのもと、アルクテラスは現実的で急速に成長する事業を作り上げたようだ。

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