スポーツビジネスで街をつくるーー横浜DeNAベイスターズとスタートアップの挑戦

by Takeshi Hirano Takeshi Hirano on 2017.12.29

ここ数年、取材の中で話題になることは多いものの、まだ手探り状態が続いている分野に「スポーツテクノロジー」がある。もっと細かく言うとインターネットを活用したスポーツビジネスでスタートアップする人たちのことだ。

主にスポーツ情報を配信するメディアや、スポーツジャンルでのコミュニティづくり、アマチュアスポーツを運営する上での管理ツールなどなど。企業からのスポンサードや用具販売、ユーザー課金などをビジネスモデルとして聞くことが多い。

彼らの成果が出るのはもう少し先の話になるかもしれないが、このタイミングで彼らの力を街づくり、新しい地域コミュニティの原動力にしようという動きが現れた。今年11月に発表された横浜DeNAベイスターズによるスタートアップ支援プログラムがそれだ。本誌で取材したニュースも一部識者の間で話題になり、期待の大きさを感じている。

一方で冒頭の説明の通り、スポーツ系スタートアップはまだまだ成長途上にある。大きな資本力と、まだまだマス・マーケティング的な側面の強いスポーツ事業でどのようなシナジーが見込まれるのか。やや疑問に思う箇所もあったので、実情を現地にて取材してきた。

クライマックスシリーズ進出にほぼ満員のスタジアム、事業も好調な横浜DeNAベイスターズ

プログラムを発表する同社代表取締役社長の岡村信悟氏

11月に発表された横浜DeNAベイスターズによるスタートアップ支援事業「BAYSTARS Sports Accelerator」は12月19日からこのプログラムに参加するスタートアップの募集を開始している。応募締切は1月16日で、2月までの期間に書類審査やプレゼンテーション審査を経て支援プログラムを開始する。

同プログラムをプロデュースするベンチャーキャピタル「iSGSインベストメントワークス」の代表取締役で、ファンドの代表パートナーを務める五嶋一人氏によれば、このプログラムは無理な採択はせず、本当に趣旨に沿った企業に参加してもらう予定なのだという。

ではそもそも、このプログラムは何を目的にしているのだろうか?

ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)の最新の決算発表を紐解くと野球事業の好調ぶりが伝わってくる。今年のクライマックスシリーズ進出に見られるチームの成長と同様に、主催試合の観客動員数は平均で2.8万人、稼働率は96.2%とほぼ満員の状態だ。官報で開示されている「株式会社横浜DeNAベイスターズ」としての64期決算も当期純利益として8億円近くを計上している。

素直に考えればこのスポーツ事業をさらに10倍、20倍に成長させるきっかけを生み出せるスタートアップテクノロジーを探すというものになるのだが、話はそこまで単純なものではなかった。それが彼らの進める「横浜スポーツタウン構想」、つまりスポーツを基軸とした街づくりの構想なのだという。

スポーツをキーワードした街づくりへの挑戦

少し戻って2017年1月、DeNAグループは横浜DeNAベイスターズをはじめとするスポーツリソースを中心に行政やパートナー企業と連携した「横浜スポーツタウン構想」を発表。具体的な施策として横浜の関内に複合施設「THE BAYS」を設置している。

実際に現地を訪れてみると、古い建物を改装した館内には小売店やカフェ、コワーキングスペースにシェアオフィスなどが整備されており、今回のプログラムについてもここが拠点として活用される。今回取材対応してくれた横浜DeNAベイスターズのIT戦略部のメンバーに話を聞くと、そもそものきっかけは周辺に多く点在する行政施設の移転にあるという。

「2020年に横浜の関内にある市庁舎が移転予定で、6000人ほどの職員が移動してしまうとこの周辺で飲食店などを経営する方々に影響が予想されるんです。現在は野球場があるので年に200万人ほどお迎えしていますが、では試合のない日はどうするのか」(プロジェクト推進メンバー談)。

なるほど、関内は横浜DeNAベイスターズの拠点「ハマスタ」がある場所だ。球団の盛り上がりと共に観客が増え、賑わいが生まれている。ただ、メンバーの話ではやはり球団が好調だからこその来客であり、これが低迷した場合の不安は常につきまとう。そこに市庁舎の移転が重なったというのが今回の企画の根底にあるらしい。9割を超える稼働率を誇る人気球団だからこそ、現状が有利な内に次の一手を打っておきたいという意図が明確に感じられた。

インターネットテクノロジーに期待するもの

では彼らはスタートアップに何を期待しているのだろうか。以前のニュースでお伝えした通り、今回プログラムで募集しているのは次のような事業だ。

  • 新しいスポーツ観戦体験の提供に関連する事業
  • ファン層の拡大と満足度の向上に関連する事業
  • 広告や球場へのPRだけでなく新しいスポンサー企業への価値提供を向上する事業
  • 物販・飲食サービスに関連する事業
  • スポーツ技術に関する事業
  • 新たなスポーツ分野に関連する事業

詳しい話を五嶋氏からも聞いたが、特に出資スキームなどでパーセンテージが決まっていたり、バッチを回していつまでにプロダクトを作らなければならない、というガチガチの決めごとがあるわけでなく、あくまで「現実的な」事業を生み出せるかどうか、そこを重要視している印象だった。つまり、起業支援ゴッコ的なものは求められていないという点でハードルはすこぶる高い。

逆にスタートアップ側にもメリットがなければ参加は難しいだろう。その点、球団運営が好調というのはいいニュースだ。年間200万人やってくる来場者やそこで得られるデータなど、なかなかスタートアップだけでは取り扱うことができないアセットを活用することができる。メンバーも言及していたが、チケット販売など興行における既存ビジネスが強いだけに、「そこに入りこむ」窓口を果たす役割は大きい。

一方で具体的にどういうテクノロジーに期待しているか聞いてみたが、このあたりはやや曖昧だった。例えばスタジアムにやってきた家族に飲食機会を提供する狭域でのオンデマンド・デリバリや、チームの情報配信などのアイデアを聞いたが、確かにビジネスチャンスは多そうに見えてそれ単体が大きな事業となるのかは疑問符が付く。

ただ、広告については長年変わっておらず、インターネット世界では当たり前の「アドテク」が入り込む余地が大きい領域だった。例えば球場に掲出されるスポンサー広告は特に効果測定があるわけでなく、結構ざっくりとしたものだという話にはチャンスを感じる。

球団という大きな集客拠点があるだけに、そこにスポーツビジネスが花開き、周囲に関連事業者が集まるエコシステムのようなものが生まれれば大きな事例になりうる。特に地方にとっての可能性は大だ。

DeNAと五嶋氏らのプロジェクト、また結果が出たらお伝えしたい。

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