スピーチやセールストークを解析・数値化、改善モデルを提示するコグニティが約1.5億円を調達——グローバル・ブレイン、三井不動産などから

by Masaru IKEDA Masaru IKEDA on 2017.12.19

左から:コグニティ代表取締役の河野理愛氏、取締役 COO の近藤和弘氏
Image credit: Cognitee

<19日正午更新>

  • 本ラウンドに参加の出資者を訂正(本稿初出時、本ラウンド出資者に前回ラウンドの出資者が一部混入していました)
  • 近藤氏の経歴における社名とポジションを訂正

東京に拠点を置くコグニティは19日、プレシリーズ B ラウンドで約1.5億円を調達したと明らかにした。このラウンドのリードインベスターはグローバル・ブレインで、三井不動産(東証:8801)が参加した。これはコグニティにとって、2016年に実施したシリーズ A ラウンド(グローバル・ブレイン、アルプス電気、beBit UCD Ventures、リバネス子会社のグローカリンク、人材コンサル大手のアクティブアンドカンパニー、SMBC-VC が出資に参加。調達額非開示)に続くものだ。

エンジェルラウンド、シリーズ A ラウンド、プレシリーズ B ラウンドを通じて、同社がこれまでに調達した合計総額は約2.8億円。今回の調達を受けて、コグニティはコアメンバーの採用により組織体制の強化を図り、来年以降の海外展開準備に備えるとしている。また、今回の調達とあわせ、ソニーやソニーエリクソンを経て、DeNA でソーシャルゲームのスマートフォン向けプラットフォーム開発に携わり、本社執行役員・欧米子会社 DeNA West の VP を歴任した近藤和弘氏を取締役 COO に迎えたことを明らかにした。

〝伝え方の見える化〟で、企業の売上向上に貢献

UpSighter
Image credit: Cognitee

コグニティは、代表取締役の河野理愛氏が学生起業、ソニーのビジネス戦略部門や DeNA を経て2013年に設立。認知バイアスを取り除き、従業員のトレーニングやモニタリングに役立てることができる企業向けサービス「UpSighter(アップサイター)」を開発・提供している。UpSighter は、スピーチ、セールストーク、プレゼンテーションなどを解析・数値化し、より人に伝わりやすいコミュニケーションを提案するサービスだ。

スティーブ・ジョブズのスピーチ5回と、日本の政治家5人のスピーチの話題構成の平均値を出してみました。ジョブズの場合、なぜこの製品を出したのか、このサイズにしたのか、といった理由づけが全体の約4割を占めている。一方で、政治家の場合は、一回のスピーチの中に別々の話題がいろいろ入って、たくさんのことを盛り込みすぎであることがわかります。(河野氏)

コグニティは起業当初、社内会議を改善し、人々のブレーンストーミングを支援し、プランニングの良し悪しを補正できるサービスとしての「考え方の見える化」というアプローチで展開を試みていたが、その後ピボット。ベースコンセプトはそのままに、応用分野を「伝え方の見える化」に軌道修正したことで、セールスパーソンのトレーニングなど、これまで外部コンサルに頼るしかなかった人材開発のシーンで、大企業から多くの支持を得ているという。

例えば、製薬メーカー。MR(medical representative)の人たちは、新薬を売り込むのに治験のデータを覚えて、医師と対峙します。一見、たくさんのデータを提示した方がよさそうに思えますが、データを喋りすぎると売上成績がよくない。効果や利点、特にリスクの提示の割合が多い MR の方が、成績上位群に来ることがわかります。

損保会社の示談交渉などもそうです。良好な示談交渉を導くやりとりをモデル化します。これを個別の交渉に応用し、担当者一人一人のケースと比較したアセスメントシートを配ることで、担当者はモデルケースと自分との比較ができるようになる。企業は指導コストをかけずに業務改善ができるわけです。(河野氏)

UpSighter の導入は、企業にとって人材開発における指導コストの抑制につながるだけでなく、社員の一人一人が、自分の話す内容に余計な要素、不足している要素を定性的に把握できる点も大きなメリットだ。コグニティのコアメンバーは、河野氏や近藤氏を含め数名程度で、決して積極的なアウトバウンドの営業活動を行なっているわけではないが、社内人材のボトムアップを図りたい大企業の上層部が、UpSighter を使ってみたいと頻繁にアクセスしてくるのだという。

AIは使わず、人海戦術でスケーラビリティを追求

UpSighter の出力サンプル(一部)
Image credit: Cognitee

人が話している内容を、解析し数値化——コグニティという名前からしても、なんとなく AI(人工知能)の匂いを感じてしまうのだが(cognitive は認知の意だが、AI を連想するのは Watson のコマーシャルに影響されているのかもしれない)、UpSighter のサービスには今のところ一般的な AI は使われていない。

話している内容の書き起こしから、その内容の細分化、内容の従属関係の解析、評価………などなど、UpSighter のサービス提供に必要な一連の作業を支えるのは、日本だけでなく世界中に広がる約150人のリモートワーカーたちだ。これはまさに、インターネットが可能にした知的労働の Factory Automation(FA)。徹底的な分業化が図られ、小さな工程単位で人が関わることにより、工場のような品質管理や生産管理が行えるのだ。

話している内容(インプット)から、解析・数値化されたアセスメントシート(アウトプット)までには、10人以上のリモートワーカーが中間生成物をリレーしていく。ある担当者は自分のタスクに関する To Do は理解しているが、それ以外のタスクについては知識を求められない。このしくみのおかげで、UpSighter には専門知識を持ったコンサルタントが必要なく、主婦の在宅ワーカーに1ヶ月間研修を受けてもらい、テスト合格を経て本作業に入ってもらえるのだという。

当初、1,500件ほどデータを貯めるまでは、どういう傾向があるかということもわからなかった。今ではそれがだいぶわかってきて、ルールやフレームワークを、日本・アメリカ・ヨーロッパで特許申請しています。(河野氏)

AI で典型的なラーニングをするにはビッグデータが必要だし、そもそも人間がよくわかっていないものを、いきなり AI にやらせるというのも無理。(近藤氏)

昨今の、なんでもかんでも AI な状態において、これはなかなか、目から鱗が落ちるようなアプローチだ。AI を導入するにも、その AI を実装したり、チューニングしたりするのに一定のコストや時間がかかる。何より教師データが必要だ。UpSighter では、業種や業態に依存せず3件(例えば、3人の正式優秀なセールスパーソンの話す内容)があればモデルケースの抽出が可能で、そこから他の社員のアセスメントを始めることができる。

また、一般的に人に依存するタスクはスケーラビティを確保しにくいが、作業工程に FA やリモートワーカーの考え方を持ち込むことで、UpSighter のビジネス拡大には青天井で対応が可能になる。さらにデータが蓄積されれば、必要に応じて、工程単位で作業を人から AI にリプレイスしていくことも可能だろう。

企業の中で人材開発にかける予算を多く持っているのは営業部門であるため、UpSighter は現在、営業部門での活用が多いとのことだが、コグニティでは今後、他部門への応用や導入の可能性も積極的に模索していきたいとしている。