訪問介護市場をディスラプトするHonorーーアルゴリズムを武器に変革を起こす「スマート介護」とは

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Image by  Quinn Dombrowski

日本は老人介護において先進国と言えるでしょう。

こちらのデータ では、2015年時点で65歳以上の日本人高齢者比率は25%に及び世界一のスピードで高齢化が進んでいると指摘されています。また、2025年までに75歳を超える後期高齢者の比率が30%を超える「2025年問題」が大きな社会問題として日本では顕在化しています。

日本での高齢者向け生活産業市場規模は、2007年時点の40兆円から2025年には51兆円にまで成長するといった試算もされています。

しかしながら、日本は先進国とはいえ未だに介護プロセスはマニュアルに頼っていると言わざるを得ません。一方、北米では老人介護市場にテクノロジーを持ち込み大きく成功を収めたスタートアップが登場しており、熾烈な競争を繰り広げています。

「アルゴリズム」を使って最適な人材を派遣する

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老人介護サービスにテクノロジーを用いて市場ディスラプト(破壊)を起こそうとしているのが Honor です。

全米には600以上の訪問介護サービスを提供する大手エージェントが存在しますが、これら企業の全くIT化されていないマニュアルプロセスのブレークスルーを狙っています。

具体的なサービス内容は、Honor側で採用した介護士と介護を必要とする高齢者をマッチングさせ、介護サービスを提供しています。 介護士の時給は$15で、Honorのネットワークに介護士が合格できる率は平均5% と非常に厳格な採用基準を確立しています。

ビジネスモデルの基盤となるのが同社が開発するアルゴリズムの仕組みです。北米では多種多様な人種の人が介護を必要としています。例えば高齢者が中国系であれば中国語を話せる人をマッチングする必要があったり、よりパーソナライズ化した人材派遣が必要となってくるわけです。

Honorはアルゴリズムを駆使することで、精度の高い人材マッチングの自動化及び高速化を図ることに成功しました。被介護者がHonorに申し込みをすると、アルゴリズムを使って言語や人種、サービス地域などたくさんの属性データを基に、最適な介護者を即座にマッチングします。この点を評価され、著名VCとして名高いアンドリーセン・ホロウィッツからの出資も受けています。顧客からの評価も上々で、3カ月以上の継続利用率が83%に及ぶとのこと。

Honorの介護サービスのテクノロジー化はアルゴリズムに留まりません。家の中でどんなサービスが行われているのかモニタリングする仕組みも開発しています。介護士は専用アプリを使ってルーティンワークを毎回チェックし、サービスプロセスの進捗をHonorの本社チームや、高齢者の家族がいつでもコミュニケーションできる環境を整えています。

これまでマニュアル作業で行っていた派遣プロセスではミスマッチングであったり、介護施設での虐待のようなサービス提供プロセスのブラックボックス化が発生する可能性があり、それらをテクノロジーで解決しようとしているのがHonorです。

介護市場は2つのビジネスモデルによって成り立つ

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Image by  Salvation Army USA West

北米の高齢者介護市場に参入しているスタートアップのビジネスモデルは大きく2つに分かれるでしょう。

1つはHonorのように、自社で採用・マッチング・ソフトウェア開発・介護サービス提供までを行う独自プラットフォームを確立するモデル。

Honorの競合には Homehero が挙げられます。 介護士への給料は$18で、サービス料金として15%の手数料を徴収する収益モデルです 。Honor同様にマッチングアルゴリズム開発に取り組み、顧客が登録したら最適な介護士候補者をマッチングさせるまで12分しかかからないスピードが売りです。

また、 Hometeam も挙げられるでしょう。同社の介護士数は4,000人で、合格率はたったの1%と非常に敷居の高い採用基準を持っています。 介護士への給料はHonorと同様の$15で、これは業界水準より20 – 30%高いとのこと(業界平均$9.5)

もう1つのモデルは巨大なマッチングプラットフォームです。同モデル上では介護サービスの提供などは行わず、より多くの介護士が登録する求人サイトと同じ仕組みです。簡単なバックグラウンドチェックにだけ徹すればいいので、チェック段階で最低限の質が保たれていればサービスを維持することができます。

マッチングプラットフォームのモデルを採用しているスタートアップでは、上場をしている Care.com が有名です。 介護士を囲い込む簡単なモデル なので先行者利益を独占している企業と言えるでしょう。

日本では後者の「プラットフォーム」に徹する企業がほとんどです。しかし高齢者介護のプロセスのIT化を図ることで戦うフィールドが大きく変わってくるのがこれからの介護市場と言えます。

また、アルゴリズムが重要なキーワードとなってくる介護市場の先にはIoTとの連携に大きな可能性を見出せそうです。例えば睡眠トラッキングIoTの「 hello 」や呼吸計測IoTの「 Spire 」から上がってくるデータを自社管理画面でリアルタイムで確認し、問題があればすぐに医療関係者と連携を図るといったIoTとの連携を含めた介護サービスの簡易化・自動化も考えられます。

2025年問題に直面している日本では介護士の育成が急務となっており、アジア圏から研修生を迎える事例も見受けられるようになりました。一方で、テクノロジーを駆使することで介護士の負担であったり、介護市場の課題軽減に繋がることも意識しておく必要はあるでしょう。

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