福島原発事故を契機に生まれた、〝市民科学〟の力で放射線量データを世界中から集めるプロジェクト「Safecast」【ゲスト寄稿】

by ゲストライター ゲストライター on 2017.12.15

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。

Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。

彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を主宰し、日本のスタートアップ・コミュニティに投資家・起業家・メンターとして深く関与しています。


2011年3月の東北大震災と福島第一原発での事故の後、東京電力と政府高官らは放射線の危険に関するコミュニケーションに2つの問題があったことを認識した。一つは必要な情報の多くが存在しなかったこと、もう一つは情報が存在していたとしても、それらの情報を信じない人が多かったということだ。

このような環境の中で、Pieter Franken 氏と彼のチームは Safecast を設立した。Safecast はもともと、手製のガイガーカウンターを使って放射線量を測定する小さな日本のグループから始まったが、現在では個人、大学、NPO、政府官庁らをも巻き込む国際的なムーブメントにまで成長した。

Pieter 氏は、環境化学が今後10年で大きく変化する理由を説明してくれた。

今回も素晴らしいディスカッションなので、お楽しみいただけると思う。

Pieter Franken 氏

Tim:

東北大震災以降、あなたと Safecast のチームは、放射線量の測定と掲示を始めましたね。それを決意させたのは何ですか?

Pieter:

当時は放射線量に関する情報が不足していて、それが原因で、必要以上に人々を恐怖に追いやったからです。

Tim:

日本政府は、その情報を捕捉するシステムを持っていなかったのでしょうか?

Pieter:

その質問に対しては、イエスでもありノーでもあります。政府は放射線量を計測し、その影響を受ける可能性のあるエリアを決定するシステムを持っていました。しかし、その情報は市民には入手できないものでした。実のところ、その情報を必要とする政府の人々にも入手できなかったようです。我々は、本当に必要なことは、すべてのエリアを詳細にカバーする、オープンで透明性の高いシステムだと確信しました。

Image credit: Safecast

Tim:

それは、野心に満ちた話ですね。どうやって始めたんですか?

Pieter:

最初は人々にガイガーカウンターを渡してデータをアップロードしてもらう方法を考えたのですが、原発事故後半年から1年間は、世界中のあらゆる場所でガイガーカウンターが売り切れてしまっていました。事故の6週間後、我々は持っていたガイガーカウンターをクルマに搭載して東京から郡山へと北上し、車を運転しながら取得した放射線量を手動でクラウドにアップロードしていました。その後、ガイガーカウンターをクルマに搭載し、データを集めている慶應大学の学生グループと協業するようになりました。

Tim:

スケーラビリティのあるしくみではありませんね。

Pieter:

(笑)確かに、それはまだ始めたばかりでしたから。後に、データを自動的にアップロードできるよう、Tokyo Hackerspace というプログラマーのグループと協業しました。低価格で耐水性のある弁当箱サイズのガイガーカウンターの設計にも着手しました。操作が簡単で、計測した放射線量を自動的にクラウドにアップロードし続けるものです。最初の3ヶ月間でおよそ50万件の放射線量を計測でき、そこから、放射線レベルというのは、原発からの距離に応じて予測できるものではないことがわかったんです。放射線の強さは、場所によって(規則性はなく)斑のようでした。線量の強い計測地点と弱い計測地点が近接していたのです。すべての地点を計測する必要があることが明らかになった瞬間でした。

Tim:

「近接」というのは、同じ市内、通り、あるいは、どの程度の近さのことですか?

Pieter:

同じ通りの別の角のこともあれば、同じ駐車場区画の別の地点で放射線量が違っていることもありました。身近なところでは、屋根から連なった雨樋的なものが、放射線量の高いホットスポットを作り出す可能性があります。駐車場の一区画の中でも、地面を覆っているものが砂利か、土か、アスファルトかによって放射線レベルが異なってきます。

Tim:

へぇ。つまり、使い物になる全体図を作るには、多くの放射線量計測を行う必要があるわけですね。

Pieter:

そうです。そんな理由から、できるだけ多くの人に関わってほしいと思ったわけです。すべてを計測したかったから。政府は立入禁止区域内部の放射線量計測に追われていましたから、我々の目標はそれ以外のすべてを計測することでした。

Image credit: Safecast

Tim:

あなたのガイガーカウンターキットは、そのプロジェクトの一部だったと?

Pieter:

自作のガイガーカウンターキットをリリースしたのは、その一年後でした。製造工程の複雑さに巻き込まれたくなかったし、この技術を誰にでも手に入れられるようにして、より多くの人に関わってもらえるようにしたかったので、Amazon でキットを約600ドルで販売しました。

Tim:

Safecast のコミュニティ参加者の多くは日本にいる人たちですか?

Pieter:

これまでに1,000個以上のキットを世界中に販売し、現在も急速に伸びています。データの約50%は日本からですが、アメリカやヨーロッパのユーザも多くの放射線量計測に貢献してくれています。

Tim:

ユーザは大学生なのでしょうか? エンジニア? どういった人たちなのでしょう?

Pieter:

それには、シンプルな答えはありません。個人もあれば、会社もある。日本内外の地方政府とも協業しています。

Image credit: Safecast

Tim:

政府官庁は、あなたと協業したがってるでしょうか? このような情報を収集・配信すれば、あなたが機嫌を損ねさせている政府官庁があるかもしれませんね。

Pieter:

まず、多くの政府や大学の科学者たちは(私たちの活動に)懐疑的でした。低価格の計測装置を使って、科学者でもない人たちが信頼のできるデータを作れるのかと、彼らは問いかけてきました。我々には初期の頃から、慶應大学や東京大学の科学者たちが関わってくれていましたが、我々の計測手法と懸念事項を記した査読論文を発表したときが真のターニングポイントになりました。それからは、科学や学術のコミュニティからの、我々に対する関心は着実に高まりつつあります。

Tim:

この種の「市民科学」は、他の分野でもトレンドになると思いますか?

Pieter:

そうなるでしょうね。そうなることが重要だと思います。市民科学は透明性の確保によってデータに対する信頼性を高めるだけでなく、より多くの詳細なデータの収集を可能にします。何百万個もの汚染計測センサーや放射線量モニターを設置・管理することは、どんな政府にとっても現実的ではありませんが、何百万人もの市民に一緒に活動してもらうことは簡単です。データが自由にシェアされれば、データの分析や洞察は、より多くの人々に開放されます。市民科学は費用をかけず、より細密なデータを集めることができ、それを全員にオープンにできるのです。科学の進め方を変えていくでしょう。


一般的に市民科学と言われるような Safecast のようなプロジェクトには、政府の科学者と市民の関係性を反転させる可能性がある。情報に関心を持つ科学者たちやそれ以外の人たちのために、市民が生データを収集し整理するという構図だ。

市民が政府官庁と直接的にコラボレーションすることで共通の目標に向かって取り組んだり、市民が科学者のコミュニティと直接協業したりすることは、いいことだと思う。政府や科学に対する人々の理解を改善するには時間がかかるだろうが、それはまた同時に、政府と科学両方の質や対応を改善することにもつながるだろう。

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