資金調達額は過去最高、ロンドン・パリ・ベルリンが三大テック都市ーー欧州スタートアップシーンの現状

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上:ベルリンのテックフェスティバル Tech Open Air (著者撮影)

欧州のテックスタートアップシーンの現状をまとめたレポート「The State of Europearn Tech」を、ベンチャーキャピタルのAtomicoが先週リリースした。

143ページにわたる詳細なレポートでは、欧州のスタートアップシーンの現状と将来をさまざまな角度から分析している。総じて、その内容はポジティブなものである。以下に、特に印象に残った部分をピックアップしたい。

欧州のテックシーンに対する見方は楽観的

まず、「1年前と比べて、欧州のテックシーンの将来について楽観的か」という質問では、ほとんどの地域で過半数の回答者が楽観的に考えていることがわかる。

上:「1年前と比べて、欧州のテックシーンの将来について楽観的か」に対する回答

レポートによれば、テック業界の雇用力は伸びており、欧州全体で2.6パーセント増よ業界全体の平均よりも3倍の伸び率だ。

資金調達額は過去最高を記録、トップはロンドン

欧州のスタートアップによる資金調達も好調だ。今年の資金調達件数は昨年よりも減ったものの、調達額は過去最高の190億ドルを記録した。都市別にみると、ロンドン、ベルリン、パリの順で調達額が多い。

ブレグジットに対する懸念は大きく、特に資金調達や人材獲得が不安

一方で、「過去1年で欧州のテックエコシステム対して最も大きな影響を与えた出来事はなにか」という質問に対しては「EU離脱プロセスを開始するための第50条が発動したこと」を挙げた人が多く、ブレグジットに対する不安は大きいことがわかる。

特に挙がっている懸念点としては、「資金調達、投資に関する状況が大きく変わること」「人材獲得」だ。一方で「影響はない」と考えている人も32パーセントおり、ブレグジットに対する考え方は多様であるようだ。

上:欧州のVCによる、自国以外のスタートアップへの出資件数

実際、欧州のVCが自国以外へのスタートアップに出資をする、つまり国境を超えた投資というのは、上のグラフの通り2012年以降大きく伸びている。英国を含めて一枚岩で語られることの多い「欧州のスタートアップシーン」であるが、その状況が英国離脱によってどう変わるのかは、当然関係者の大きな関心の的だ。

テックコミュニティは都市に集中、欧州トップ3のテック都市はロンドン・パリ・ベルリン

上:年間のスタートアップ関連イベント数と、アクティブなメンバー数の都市別比較

スタートアップコミュニティは都市に集中している。欧州でのミートアップの数は、2012年に比べると8倍ほどの数に増えている。中でも、こうしたイベントへの参加者が多い「ハブ都市」のトップ5は、ロンドン、パリ、ベルリン、アムステルダム、マドリードである。

ドイツではテックコミュ二ティの34パーセントがベルリン、スペインは32パーセントがマドリード、ハンガリーは87パーセントがブダペストと、一部の都市にコミュニティが集中する傾向にある。一方で、トップ20以外のテック都市で開催されるミートアップの数は徐々に増えており、こうした「テック都市」の数自体は増えている。

ファウンダーが起業の場所を選ぶポイントとして挙げるのが、「人材へのアクセス」と「事業を始める上の簡単さ・コスト」だ。都市に集中する背景には、人材(特にエンジニア)の採用しやすさと、事業を始めるにあたっての環境が整っていたり、関連の情報が多いことがあるだろう。

欧州でファウンダーを輩出している企業は、ロケットインターネットとノキアだった

その他、興味深かったのが、欧州でファウンダーを輩出している企業ランキングだ。

上:ファウンダーを輩出している欧州のテック企業

アメリカでは、GoogleやApple、Microsoftなどのいわゆるテックジャイアントを卒業したファウンダーは多く、こうした人材の循環がエコシステムを成熟させているといえる。

アメリカに比べると、その規模は下回るものの、欧州でもロケットインターネットやノキア、スカイプ、SAPなどのテック企業が多くのファウンダーを輩出しており、時間とともにエコシステムがまわり始めていることが見てとれる。

この他、エンジニアが集まっている都市やベンチャーキャピタルの投資状況など、詳細の情報はこちらのレポート「The State of Europearn Tech」を参照のほど。

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