教員6人で1000人規模を教える「P2Pラーニング」の仕組みーーFacebookやTeslaが積極採用するプログラマー養成学校「42USA」の実態とは?(後編)

by Takashi Fuke Takashi Fuke on 2018.1.12

Image by  42USA

前編では次世代型プログラミング教育機関「 42USA 」の紹介に留まりましたが、ここからは同校の詳細な教育システムに関して説明していきます。

「42USA」では学生が1,000人規模であるにも関わらず、6名の職員で運営しています。

筆者がキャンパス内を見学した際には、学生が各々の自由な時間にやってきて、自分の好きな位置にあるパソコンを無造作に選び、時には友人たちと談笑しながら課題プロジェクトをこなしている姿しか目に映りませんでした。職員はキャンパス端にある職員室でデスクワークに取り組んでいるだけです。

1職員に対して約170の学生の面倒を見る計算になりますし、自由に時間を過ごす学生のプログラミングスキルを4年間で効率的に伸ばすことができるのか、と疑問に思われるでしょう。

この職員と学生のギャップを埋めているのが「42USA」のユニークな教育システムであり、コンセプトである「放任主義」と「自動化評価システム」にあります。

カリキュラムの自動運営化

放任主義を具体的に述べると、生徒同士が学び合い、試験に備えたりする「P2Pラーニング」の仕組みをカリキュラムに組み込んでいる点が挙げられます。

「42USA」では、常にチームプロジェクトを課されます。その際、定期的にメンバーが入れ替わる生徒同士のチームが編成させられます。チームはランダムで選ばれた3-5人の学生によって編成され、学生同士で成績を付け合い、プロジェクトの貢献度を互いに監視、評価し合うのです。

社会に出れば、例えば顧客の前でも自分の主張を守る必要性も出て来ます。このようにプログラミングスキルだけでなく、自主性を養う点を考慮した上で考えられたのが「P2Pラーニング」の仕組みです。

一方、生徒同士の評価だけでは、談合や忖度が発生する可能性が大いにあります。そこで、チームプロジェクトとは別に、各学生は毎週コーディングのテストを受けなければなりません。個別テストがチームプロジェクトでサボっていないか、友達を口説いて不当に評価を上げていないかを監視する、言わばダブルチェックのような機能を果たしているわけです。

個別テストの採点をする上で、自社開発の評価システムが導入されてます。職員がチェックする必要もなく、コーディングの出来栄えが評価されます。

落第点を取れば、同評価システムによって判定され、即退学という厳しい振り分けシステムが導入されています。日本では教授が落第学生数を増やさないために、情けで落第点ギリギリ上の評価を付けたりしますが、「42USA」では全て自動化されているので、落第を言い渡されたら学校を去らなければなりません。

この自動化システムは、前述のチームプロジェクトにおいても適用されます。各チームの進捗や個々の学生の特性を考慮した上で、リサーチタスクを渡したり、学生に追加の宿題を渡したりします。

このように、プログラミング教科の採点や学生に合わせた宿題の提供は、機械によって全て自動化されているのです。

生徒同士で評価する「P2Pラーニング」の仕組みと、独自開発したテスト自動評価システムの2つを軸に、ほぼ全てのカリキュラムに職員が関与する必要のない運営の自動化と効率化に成功し、職員の数を大幅に減らした事例が「42USA」なわけです。

大学側の都合ではなく、生徒の主体性・多様性を伸ばす

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P2Pラーニングは従来の教育制度とは全く違います。構内を案内してくれたCOOのBrittany Bir氏は次のように語っていました。

「従来の大学制度の問題として、学生の将来からしたら何の関係性もない授業が必修として提供し続けられている点が挙げられるでしょう。これは大学側の都合によって発生している問題です。つまり、長年使い続けられている教育システムを運用・保持していくためだけに、学生目線でない授業が無理に提供させられているのです。

生徒側のデメリットを挙げれば、例えば朝の授業中には寝てしまうことがあるでしょうでしょうし、金曜には週末のことを考えて勉強に集中できないでいる。身体は学校にあっても、心は違う場所にあるという状態で4年という月日が経ってしまいます。

この点、大学を卒業した証である学位を持つということが重要になっているのが現状です。しかし、これからはどんなことが社会に出てできるのかという実用と社会人としての素養を培う点が大切だと考えます」。

日本の大学ではクラスを複数選択し、各クラス毎に全く別々の人たちと関わり、別々のプロジェクトを持ちます。確かに複数のプロジェクトを持つマルチタスクの仕組みとしては悪くはないですが、将来使えるのかどうかもわからない知識を学ばされる授業が混ざっている点が非効率だと主張するのがBrittany氏なのです。

そういった意味で常に1つの与えられたタスクやプロジェクトのみに取り組む、メリハリのあるシングルタスクの仕組みを取り入れ、効率的に生徒のゴールに向かって4年間を過ごせる「42USA」のカリキュラムには新規性が伺えます。また、1つの課題に対して集中的にチームでコミットするため、密なコミュニケーションが要求され、社会性が付く点も特徴としてあげられるでしょう。

教師側のデメリットがP2Pラーニングによって解消され、かつ生徒の主体性と多様性を尊重できるとも語っていました。つまり1人の職員が全てのクラス・生徒の管理を行うという多大なプレッシャーと責任の伴うことをする必要がなくなります。

その分、生徒それぞれが明確な責任を持ってプロジェクトに取り組むことができる環境を整えることができます。

そしてプロジェクトにどう取り組んでいくのか、やり方は生徒次第なので様々なアプローチを生徒自身が考える必要が出てきます。つまりアプローチに「答え」がないのです。様々なオプションが存在することを許容し、チームプロジェクトを通じて学ばせているのも大きな特徴であると語っていました。

慣習教育から社会との繋がりに重きを置く

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ここまで、「42USA」の運営方針を述べてきました。職員削減にもつながる、カリキュラムの自動運営化の戦略をみれば、日本のプログラミング教員不足を打破できるアイデアのきっかけになるかもしれません。

最後に、単なる運営方法だけでなく、「42USA」が考える教育に対してのミッションや長期視点を説明するため、生徒のモチベーションに関して述べていきたいと思います。

「42USA」はオンライン上で入学希望者の募集を世界中から集めます 。2回の論理思考テストを受けさせ、プログラミング学習に対しての素質があると判断されれば、仮入学が認められます。

仮入学の段階では、実際に「42USA」に来て、4か月間のトレーニング期間を体験することになります。この期間では毎日10-15時間のプログラミング学習を求められます。例えば朝8時から夜10時までプログラミング学習に付きっきりになる形です。4か月間の最終日の試験で、ようやく本入学の振るいかけられ、ここまで半年程度の時間と労力を費やしていることになります。しかし「42USA」は正式な大学組織ではないので、学位は出ません。

ここで思い浮かぶのは、生徒の中で、学位を取らずに社会に出て行くこと、そして周りとは全く違った環境に4年間もいることを怖いと思わないのか、という点でしょう。

Brittany氏からの答えはシンプルなものでした。

「生徒たちのモチベーションは既存の大学に通う生徒達とは違います。彼らはすでにプログラミングの基礎を習得しており、あとは実社会にどう適応して行くのか、次に学ぶべきことはなんなのかという「探求力」を強く持っています。そのため、大学に通うということではなく、社会に出て自分のバリューがどこまで発揮できるのかという課題を解決したい気持ちが強く、もっと勉強したいというモチベーションを糧にやってきます」

アメリカの大学における授業料は非常に高いです。 4年制の私立大学の授業料は80年代では年間約7,000ドルという時代から、5倍の約3万5000ドルという時代になっています 。4年間通うとしたら10万ドルの支出となります。

この非常に高い教育費用を払ってまでして4年間という大学生活を不毛に過ごしてしまう、そんな学生とは全く違う目的志向を持っている生徒が「42USA」にいることがキャンパスを訪問するとよくわかります。

高校に通っている学生の中で、すでに基礎レベル以上のプログラミングスキルを習得しているは多くいるでしょう。しかし、多額の授業料を払って大学進学したとしても、社会との直接的な関わりを4年間全く感じないことが目に見えているため「42USA」を選んだ、というのが入学の大きな理由だろうと学生を見ていると感じました。

あくまで学生も「42USA」側も、従来の大学が積み上げてきた閉鎖された慣習教育ではなく、社会というオープンなコミュニティの中でどのように貢献して価値を提供できるかを常に考えられる人材を輩出しようとしているのです。

「42USA」では選考過程が厳しく、入学時点でかなり高いモチベーションを持った学生集団が出来上がっています。この点、日本の必修化教育とは全く違った環境があります。

日本が直面しているプログラミング教員の人材不足は、「42USA」のように自動化評価システムの導入を参考にすることで突破口が見えてくるかもしれません。一方で、教員を必要としているのは、実は学校側の傲慢さであって、本来あるべき学生主体の教育姿勢を追求した際には、本当は人材不足のような課題は発生しないのかもしれない、ということもわかりました。

「42USA」は短期的な教員不足の解決策を示すばかりでなく、これからの教育システムがどうあるべきかという長期的な視点に立って、大きな示唆を与えてくれる良い例であると実際に訪問して感じました。

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