シード期の投資方法と課題を読み解くーースタートアップ目線で考える最近のシード資金調達(2)

by ゲストライター ゲストライター on 2018.1.10

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編集部注:寄稿者の猪木俊宏氏は弁護士としてファイナンスや企業法務などに関わる一方、起業から資金調達、上場審査、M&Aなど、スタートアップが直面する様々な場面での経験を生かした起業支援活動でも知られる人物。さまざまなスタートアップに投資するエンジェル投資家の顔も併せ持つ。

<これまでの連載>

近時のシード期の投資方法と課題

今回は、シード期の「普通株でも優先株でもない投資方法」について概観しつつ、それぞれの課題について考えていきます。

1.コンバーティブル・ノート(新株予約権付社債)

アメリカでは、10年ほど前からシード期に「コンバーティブル・ノート」という投資方法が用いられていました。シード期にバリュエーションを固定せずに、お金をノートで貸し付けて、その後、株式(優先株)での調達時に株式に転換するという投資方法です。日本でも「新株予約権付社債」を用いて同様の仕組みで投資をすることが可能であり、一時期、シード・アクセラレータを中心にこの方法が用いられた時期がありました。

2.コンバーティブル・ノートの問題点

しかし、コンバーティブル・ノートは、スタートアップにとっては「負債」になってしまうという問題があります。「プロの投資家」は、スタートアップから返済を受けることを想定していませんが、仕組み上は返済を要求することが可能であり、このことが問題であるという認識が徐々に広がり、また、日本においても、「社債」による「負債」となることの問題が意識されるようになりました。

スタートアップは、「エクイティ」で調達を行うのが基本ですが、少なくとも日本では、実際には金融機関からの借入を行うことも多く、この場合に「負債」でシード資金を調達していると「債務超過」になっているため金融機関からの借入ができないというケースが発生しました。また、「社債」という仕組みを採用しているため、条件を変更するには裁判所の認可が必要であるため柔軟性に欠けるという問題も出てきました。(※1)

3.コンバーティブル・エクイティ

(1)コンバーティブル・エクイティの誕生

そこで、アメリカで、コンバーティブル・ノートから満期と利息をなくした「コンバーティブル・エクイティ」という投資方法が提案され、これを受けて日本法のもとで同様の仕組みを実現する投資方法が模索されるようになっていきました。

一時期、「ゼロクーポンの無担保永久劣後債型の新株予約権付社債」や次回調達時の優先株に変更される種類株式なども考案されましたが、前者は仕組みとして複雑すぎることのほか、金融機関との関係を除きやはり「負債」なってしまうという問題があり、また、後者は通常の優先株同様に「種類株式」であるという問題がありました。

(2)有償新株予約権

2016年になり、前回取り上げた500 Startups Japanにより「有償新株予約権」を用いたJ-KISSという仕組みが公表され、同社を中心にシード期に使用されるようになっています。標準化された投資方法を公表することにより、(1)スピードと(2)透明性を確保しようとするものとされており、特に後者の透明性の点は高く評価されてよいと思います。

前者については、少なくとも日本では現時点では普通株との対比で考える必要があり、また、投資契約も非常にシンプルであるとまでは言えないため、スタートアップ目線で見るとスピードに勝るとは言い難い面もあります。

スタートアップとしては、この方法についてまず注意すべきなのは、前回述べたとおり、バリュエーション・キャップとディスカウントを適切に設定できるか否かという点になりますが、そもそも論でいうと、この調達方法の評価は、ストックオプション(無償で役職員等に発行する新株予約権)すら発行していないことも多いシード段階で有償の新株予約権を発行することがスタートアップにとって妥当かという点と、バリュエーションを固定しないことは本当にスタートアップにとって妥当かという点に関わってくることになります。

前者については、資金調達をする以上、起業家もある程度ファイナンスについて学ぶべきであると言われます。これは文句なく正論ですが、実際の起業家の理解レベルに過大な期待をしすぎている面があります(通常のストックオプションでさえよく理解していない起業家も少なくありません)。また、後者については、スタートアップだけなく後に投資する投資家の目線から考えた場合も、変数が1つ増えることになるため、複雑化しているという評価を受けることもあります。複雑化しているということは、次回のファイナンス時のスピードが遅くなる可能性があるということも意味します。

他にも、J-KISSでは、新株予約権が転換される前にスタートアップが買収された場合、投資額の2倍で金銭償還するか、バリュエーション・キャップで普通株に転換した後で買収されるとされていることも、評価が分かれる点になっています。500 Startups Japanの説明では、この点は、リターンを目的とするというより、起業家のモラルハザードを防止するという点に力点があるとされています。

また、投資契約書上に定められている投資家の権利や発行会社等の義務についても、スタートアップ目線では必ずしも妥当とは思われない条項もあり、よりシンプルでわかりやすいものにする必要があると考えられますが、その際はまず、有償新株予約権を利用する仕組みにおいて必須の部分と、投資契約一般に共通する部分を分けて考える必要があります。

(3)みなし優先株式

2013年からフェムト・スタートアップ(フェムト・パートナーズ)の磯崎哲也氏が考案した「みなし優先株式」も利用されています。「みなし優先株式」は、一定のバリュエーションをつけて普通株を発行し、全株主の合意(一種の株主間契約)に基づいて、次回の資金調達時の優先株に転換するという方法です。この方法についても、書籍等において、その仕組みが公表されている点は高く評価されるべきだと思います。(※2)

この方法の最大のメリットは、スタートアップがシード資金の調達時に発行するのが、通常の「普通株」であるという点にあります。種類株主総会の負担もなく、普通株を発行するという点は理解しづらいという問題もないことになります。

問題は、「全株主の合意(一種の株主間契約)」の内容がスタートアップにとって理解しやすいものであるかという点と全株主の合意を得られるかという点にあります。後者の点では、株主数が多く同意が得られない場合も考えられますが、シード期において株主数が多いケースは多くはありません。また、一部のバリュエーションの固定を望まない投資家にとっては、バリュエーションが固定されることがよいか否かということが問題になりえます。

また、この仕組みについても、全株主で締結する合意書上に定められている投資家の権利や発行会社等の義務については、よりシンプルでわかりやすいものにするために、「みなし優先株式」を利用する仕組みにおいて必須の部分と、投資契約(株主間契約)一般に共通する部分に分けて考える必要があります。

(4)スタートアップの選択肢は4つ

以上のとおり、現時点では、スタートアップの選択肢としては、普通株・優先株に加えて、「有償新株予約権」と「みなし優先株式」の合計4つがあることになりますが、次回は、あらためてシード期における普通株・優先株による投資について考えていきます。

※1 :コンバーティブル・ノート(新株予約権付社債)は、現在でもブリッジ・ファイナンスの手法として用いられる場合など、限定された場面では有用なケースもあります。

※2: 磯崎哲也「起業のエクイティ・ファイナンス」(ダイヤモンド社、2014年)147頁以下

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