「Googleは革新的じゃない」——Googleの著名エンジニアが東南アジアの配車サービスGrabに移籍した理由

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Photo by Mike Enerio on Unsplash

Googleで13年間エンジニアを務めたスティーブ・イェジ氏がGrabに移籍したというニュースが注目を集めている。イェジ氏は、「Stevey’s Blog Rants」というブログを運営していたブロガーとしても知られており、プログミングコミュニティの界隈ではよく知られる人物だ。Googleのエンジニアが利用する社内ツールGrokの開発も手がけ、Googleの前はアマゾンのソフトウェア開発チームを率いていた。

そんなイェジ氏は、先日「東南アジアのUber」とも称されるGrabのエンジニアリング、データインサイトのヘッドに就任した。そして、その理由をMedium上の長文記事で書き綴っている。

Googleを去った理由に「イノベーション精神の欠落」を挙げており、反対にGrabに大きなポテンシャルを感じ、「Web黎明期以来の大きな戦いを見ている」とコメントしている。彼がGoogleに失望した理由、そしてGrabに大きな希望を見た理由を紹介したい。

保守的、傲慢さ、ライバル中心主義・・・Googleを去る理由

まず、Googleを去った理由について。「私がGoogleを去った主な理由は、Googleはもはやイノベーションを起こしていないからだ」とイェジ氏はMediumの投稿で書いているが、主に次の4点が理由だという。

  1. 保守的である:守りに入っており、リスクをとることを恐れている。
  2. 政治に左右される:大企業であれば仕方ないけれど、実行する際のスピードが遅くなる。
  3. 傲慢である:社員一人ひとりは謙虚で非常に賢い人ばかりだけれども、会社としてここまで成功してしてしまった結果、自己満足に陥りがちである。
  4. 顧客中心ではなくライバル中心になっている:最大の理由は顧客にフォーカスしておらず、むしろ競合にフォーカスしている点だと彼はいう。「ユーザーにフォーカスしよう、そうすれば他のすべてのことがついてくる」という新しい社内スローガンが掲げられたものの、社内のインセンティブが顧客中心になるような仕組みになっておらず、機能やプロダクトのローンチの成功にインセンティブを置いており、その結果競合をコピーするという安易な方法に走る結果になっていると説明している。

Googleは、競合の動向ばかりを気にかけるようになった結果、競合のコピーのようなものばかりを作るようになった(Google+ はフェイスブック、Google CloudはAWS、Google HomeはAmazon Ecoを意識したもの)と批判する。もちろん、BigQueryやTensorFlow、Waymoなどコピーではない例外もあるけれど、全体的にコピー製品ばかりが増えてインスピレーションが得られなくなったという。

Grabに参画する理由は「現場主義、顧客中心主義、激しい競争」

一方で、Grabにジョインすることを決めた理由はどこにあるのか?

その感覚は簡単には言えないけれどと前置きしつつ「ゲリラ軍に囲まれて、文字通り革命戦争に参加しているような気分になるのです。生きるか死ぬかなのです」と彼は書いている。「こんな大規模なランドラッシュを目にするのは、Web黎明期以来であり、それよりもさらに大きなものかもしれない」と、その競争の規模の激しさと大きさに感銘を受けたイェジ氏の興奮が伝わってくる。

実際、東南アジアにおいては、ここ2年で自動車やバイクの配車アプリの流通総額、予約数は急速に成長している。毎日の配車の予約数は2015年の130万から2017年に600万に、配車アプリを運営する企業に登録してるドライバーの数も60万から250万と大きく成長している。

関連: 飛躍する東南アジアのインターネット経済、配車アプリ予約は2年で4倍、1日600万件に

また、競合の動向ばかりを意識するようになったと批判しているグーグルとは逆に、Grabのマントラは「Go to the ground(現場に行け)」であると、その現場・顧客中心主義を賞賛する。カスタマーのニーズと来たるべきマーケットの変化を読んで、すぐにピボットできるようにするためにユーザーとできるだけ頻繁に関わることを重視する同社の姿勢に深く共感しているようだ。また、こうした顧客中心主義を徹底しているチームだからこそ、「この領域の激しい戦いに、Grabは勝つことができる」と確信している。

Grab側にとっても、大きな資金も投入され、ネットのインフラも整ってサービスを拡大する基盤が整いつつあるものの、残る課題の一つはエンジニア、特にシニアレベルのエンジニアの不足であっただけに、イェジ氏の移籍は嬉しいものだろう。

また、今回のような米テック大手のシニア人材の東南アジアスタートアップへの移籍は、まさに世界のスタートアップシーンの中心が東南アジアにシフトしつつある状況を象徴しているようだ。

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