カメラと人工知能で会議をスコアリングーー営業系AIサービス市場3つのポイント(後半)

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「感情の読み取り」と「専門用語カスタマイズ」

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前半からの続き。営業電話の内容書き起こしスタートアップを他3社ほどご紹介します。

1社目が Gong.io 。2015年創業で、 2,600万ドルの資金調達 に成功しています。サービス内容はChorus.aiとほぼ同じですが、差別ポイントとしてAIによる感情の読み取りが挙げられます。

営業電話をする際、時にはユーモアであったり、優しい話口調が取引成約率を上げることがあるため、どのような気持ちの込もった話し方がパフォーマンスを高めるのかを分析してくれます。

実際、Gong.ioは顧客の心を掴む瞬間を「スティッキー・シチュエーション」と表現し、同シチュエーションがいつ・なぜ・どのように発生したのかを新人教育に活かすことにサービス開発を注力しています。

ここまで紹介してきたスタートアップ3社はB2B向けですが、一般ユーザー向けに書き起こしサービスを提供しているのが Tetra 。Yコンビネーター出身で、 150万ドルの資金調達 を行っています。同社はiOSアプリを開発しており月額9ドルから利用ができます。

Tetraは、単なる2C向けアプリの開発・提供だけで終わる戦略を考えていません。

Chorus.aiやGong.ioに代表される営業電話の書き起こしサービス市場が熱を帯びてきたなか、解析技術の精度がサービスの要となっています。

将来的に、このような企業に対して、同社が開発するディープラーニング技術及びAPIを公開することで、高レベルの書き起こし機能を広く活用してもらい、B2CとB2Bの両軸から収益化を図ろうとしているわけです。iOSアプリはあくまでもディープラーニングの精度を高めるためであり、なるべく多くのデータ収集を行い技術のブラッシュアップを図る施策でしかないのです。

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同じくYコンビネーター出身の AssemblyAI も、自社で直接書き起こし解析サービスの立ち上げを行うのではなく、API提供を通じたディベロッパー向け市場のポジショニングを狙っている企業です。

営業電話といっても顧客は様々な分野に渡ります。分野が多岐に渡るほど多くの専門用語が飛び交います。AssemblyAIは、専門用語の音声解析を行えるAPIを企業向けに提供しており、各企業のニーズに応じた書き起こし技術のカスタマイズ需要に対応しています。

この章で紹介したスタートアップのうち、TetraとAssemblyAIは、ニッチな戦略に方向性を振っていると感じます。とはいえ、長期戦略としてディベロッパー向けAPIの提供にサービス軸を構える点は、市場動向を見ても堅調な成長が見込まれそうです。というのも、すでに営業電話の書き起こしサービスは2015年に登場してきたChorus.aiとGong.ioの2社によって先行者利益を争っている様相をみせているからです。

会議室のイノベーション

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さて、ここまでは営業電話に関するサービスを中心に見てきましたが、最後に紹介するのは会議の質を最大化する製品です。

例えば、10-20人も社員が集まるにもかかわらず、2-3人しか発言しない会議を毎週行っていはいないでしょうか?

このような非効率なミーティング進行を解決するため、 Huddly は小型カメラを通じて会議内容の映像データを収集し、機械学習によって会議の質をスコアリング化、フィードバックする仕組みを提供しています。

同製品は150度の広角カメラで、会議室全体を隅々まで見通します。大きな特徴はソフトウェアにあり、コンピュター・ビジョン及び機械学習技術を通じて、各社員のミーティングへの貢献度や、マネジャーへ各会議の質をスコアリングして共有する機能を持ちます。社員の発言回数や発言内容を可視化する具合です。

どのタイミングで、どのような発言をして、最終的にどのような結論でミーティングが終わったのかを全て数値化することで、新卒社員の育成も効率的に行えるようになるでしょう。

カメラ本体は499ドル。ソフトウェアによる解析サービスは未だに本格ローンチされていませんが、 すでに戦略自体は明言されており 、近々登場すると予想されます。

生産性の成績通知表

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ここまで営業系AIサービス市場を3つのポイントにまとめて、6社のサービスを紹介してきました。北米では効率的に営業電話を行うための支援ツールが出揃い、市場の成長性を見越したAPIサービスまで登場してきています。

冒頭でもお伝えしましたが、AIによる営業マンの効率的な育成が行えるようになれば、アウトソーシングせずとも自社で優秀な社員を囲い込むことができます。実際、営業代行事業者は営業ノウハウの高さを売りにしていると思われますが、AIを使えば外部業者に依存せずとも成約率を上げるテクニックは自動で培われます。

興味深いデータもあります。なんと約2%の企業しか営業後の顧客満足度調査をしていないそうです。

言い換えれば、98%の企業が、顧客満足度を通じた営業アプローチの改善を行えていないのです。この点、AIを用いて即座に営業電話や顧客とのミーティングにおける先方の満足度を解析できるようになれば、どの企業でもPDCAを高速で回せる機会を得られるようになるでしょう。

加えて担当者が営業電話やミーティングを終えた際、瞬時に自分のトーク・パフォーマンスが数値化され、いかに生産的だったかがわかる「成績通知書」が自動で完成する時代になってきました。

営業部門担当は、各営業マンの成績や、テクニックを全てダッシュボードで管理して、チーム全体に営業ノウハウを共有できるだけでなく、人事担当者も日頃の定量データから社員を評価できるようになります。

このような、AIによって各社員の生産性を上げる仕組みや市場構造は、日本にも大きな波となっていずれやってくるでしょう。

 

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