ミレニアル視点で考える、これからの保険ーー「Cover」と「Lemonade」が変革する保険業界

by Takashi Fuke Takashi Fuke on 2018.2.23

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必要な所有物にだけ保険をかける、もしくは自分の身丈に合った最低限の保険料しか払う必要のない、新たな業態の家財保険を見かけるようになりました。「もしもの時のための保険」を謳い文句に、必要以上の保険料を支払う既存システムは、特に20〜30代を指すミレニアル世代の消費者心理を掴むことが難しくなってきています。

アメリカでは、アプリを通じて写真をアップロードしたり、ボットを通じたやり取りだけで保険加入できるシンプルなUI/UXを採用したサービスが評価されています。その中でも、最近急速に台頭してきた家財保険スタートアップが「Lemonade」です。 同社顧客層の75%が25〜45歳であると伝えられています。加えて、85%の顧客が初めて家財保険を利用しているそうです

このことから、従来の家財保険への加入プロセスにストレスを感じているミレニアル世代の顧客獲得が、昨今のスタートアップの大きな鍵になっているといえるでしょう。

それでは、アメリカのミレニアル世代は、なぜスタートアップの家財保険サービスを利用するようになったのでしょうか?彼らが持つ保険加入のインセンティブを探ってみましょう。

ミレニアルは「移住&レンタル世代」

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昨今登場してきた家財保険サービスの背景を語るには、ミレニアル世代の特徴を2つほど挙げる必要があります。

1つ目は、移住モチベーションの強さ。 全米で都市間を移動する移住人口の43%がミレニアル世代 です。また、ミレニアル世代の60%が家を所有するより賃貸で間借りする生活手段を選び、73%が大都市もしくは郊外地域に住むとの データ もあります。つまり、各都市をキャリアップや住み心地の良さで転々と移動し、特定の地域には留まらない傾向があるのです。

しかし、都市部への移住には問題が起きます。住宅価格の高騰です。たとえばサンフランシスコでは、ただでさえ一部屋3,000〜4,000ドルの賃貸価格が相場であるにもかかわらず、 2011〜2016年の5年間で7%価格が上昇 しています。このような価格上昇を背景として、シェアハウス/ルームシェアの形で何人かで一緒に生活するパターンが一般化する傾向にあります。

頻度の高い移住や、共同生活を強いられる生活環境の中で、大きな荷物やたくさんの所有物を持つことはリスクにしかなりません。そこで2つ目に挙げられるのが、レンタル/アウトソーシング文化の定着です。

「Airbnb」や「Uber」「Instacart」に代表される大手スタートアップサービス台頭の背景には、必要最低限の物しか所有せず、アウトソーシングできるものは積極的に外部サービスを使ってタスクを任せて、自分の時間を確保するミレニアル世代の行動心理が存在します。

移住生活に限って例を出せば、洋服が必要である場合、洋服レンタルのサブスクリプションサービスを利用すれば事が足りるでしょう。洋服レンタルサービスを使うことで、ショッピング時間の省略や、無駄な洋服を持たない、効率的な所有に繋がります。

別の都市に移動しても「Uber」や「Lyft」を利用すれば、移動手段の確保のために車を所有する必要がなくなりますし、タクシーや電車の待ち時間を限りなく省けます。

このように、洋服や車に代表される消費財の所有を極力行わなわない、移住意識の高い世代がミレニアルなわけです。

家財を多く持たないミレニアム世代向け保険「Cover」

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大都市間の移住を積極的に行い、所有物も少なく済ませる世代に対して、煩わしい申請・解約プロセスを要する既存の住宅保険のプロセスは上手く働きません。

理由としては、保険対象となる家財を多く持たないミレニアル世代にとって、従来の家財保険のシステムが合わなくなってきたことが挙げられます。

加えて、保険仲介業者に電話をかけて審査を行い、山積みになった書類にサインを書いて保険が承認されるのを長期間待つプロセスが、時間確保の希少性に高い意識を持つミレニアル世代に不評である点も指摘できます。

こうした時代の変化・流れ・消費者趣向の変化の中で登場したのがオンデマンド家財保険「 Cover 」です。同社はYコンビネータ出身で、2016年の創業でありながら、すでに 1,100万ドルの資金調達に成功しています

「Cover」はモバイルアプリを通じて家財保険申請を手軽に行えるサービスを展開。保険をかけたい所有物の写真を撮影して送信するだけで申請は完了します。

従来の家財保険では、仲介業者が間に入り、顧客情報を収集。業者のネットワークを通じて、保険会社を紹介するプロセスを経ていました。

業者側は個人情報を収集し、リストデータとして第三者に販売して収益を得られますし、紹介料を多く払ってくれる保険会社との間を取り持つことで、さらなる収益を得られる構図です。

一方、仲介を通じて申請が行われるため、申請者は非常に長い待ち時間を強いられますし、業者任せのブラックボックスな仕組みで紹介が行われるため、紹介された保険会社が自身にとって最適なプランを提案してくれるのかわからない、情報の不透明さが課題として残ります。

このような業界課題を解決するために、「Cover」はモバイルを通じた手軽な申請プロセスと、顧客のニーズに合った保険会社をリストアップして選択・紹介するシステムを構築。 一律15〜20%のコミッション料金 だけで、1個単位で家財保険をかけることができます。

仲介業者の仕組みを省き、1個単位で家財保険をかけられる「Cover」は、移住生活を前提とし、必要最低限のものしか所有したくないミレニアル世代にとって最適なソリューションであるといえるでしょう。

チャリティー意識と申請スピードを追求した「Lemonade」

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「Cover」はブローカー業界の構造を打ち壊しました。一方、冒頭でも紹介した「 Lemonade 」は保険会社の収益構造にまで手を出しています。

「Lemonade」は月額5ドルからの低価格な家財保険を、最短90秒で申請可能なサービスを提供しています。加えて、全米27州でのサービス展開を果たしており、全米の代表的な州への移住であれば、既存保険会社の煩わしい変更プロセスを経ずに、家財保険内容をキープできるわけです。

さて、「Lemonade」が確立した新たな収益構造の話に戻りましょう。従来の保険会社は、顧客から徴収した保険料をプーリングしておきます。そこから実際に顧客から請求された保険料を支払い、残ったプーリング金額が、そのまま保険会社の収益となる仕組みです。一方、保険会社が収益率を高く保つため、なるべく請求された保険料を低く見積もる方法が往々にして採られます。これでは、せっかく保険に加入をしていても、必要な金額が顧客へ支払われないリスクが伴います。

そこで「Lemonade」は、ユーザーから集めた保険料をプーリングしておき、余ったお金は社会保全活動に寄付されるチャリティーの仕組みを導入しました。

「Lemonade」は、利用料として家財保険料の20%を徴収しますが、プーリングされたお金には一切手をつけない収益方法を採用しています。こうすることで、消費者に最大限の保険料が支払われると同時に、チャリティー活動へ参加するきっかけ作りにもなります。

2,500名のミレニアル世代を対象に、 チャリティー活動の有無を調査した結果 、84%が何かしらの寄付を行い、70%が1時間以上のボランティア活動に奉仕したと回答があります。

このようなミレニアル世代の社会保全活動への高いモチベーションを背景に、保険会社の収益構造を変革したのが「Lemonade」なのです。そして、申請プロセスの速度も、ミレニアルの消費者心理にハマっているといえるでしょう。

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Image by  wealthpath financial

話を簡単にまとめます。

「Insurtech(インシュアテック)」と呼ばれる保険スタートアップたちは、 2016年度に合計16.9億ドルの資金調達を行い、年間比で42%の市場成長率に達しています 。一方、 アメリカでは90%の家財保険査定が電話で行われている とも指摘されており、未だにミレニアル世代のニーズに対応できていないのが現状であるといえます。

ミレニアル世代は都市部へ移動している傾向にあります。かつ、持ち家を所有したくないレンタル志向が強いことからわかる通り、必要最低限のものしか所有したくないモチベーションを持ちます。この点、従来の家財保険は所有物の少ないミレニアル世代には訴求力が弱く、かつ旧来型の申請プロセスへの疑問を持っています。

そこで、家財保険のサービス形態も、1個単位、もしくは申請・解約プロセスが容易な形へと変化を遂げており、別都市への移住の足かせにならない柔軟なサービス形態が求められているのです。

ここまでアメリカの事例を紹介してきましたが、都市部への人口移動が盛んな日本の事情を考慮した上で、家財保険の業態を再発明してみると、新たなニーズ発掘へと繋がるかもしれません。

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