Plug and Play Japan、初となる「Batch 0」のデモデイを開催——16チームがピッチ、大企業パートナー11社との協業内容を披露

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Image credit: Masaru Ikeda

シリコンバレー・サニーベールに本拠を置くアクセラレータ Plug and Play の日本プログラムである Plug and Play Japan は23日、アクセラレーションプログラムの BATCH 0(第0期)のデモデイを都内で開催した。「Plug and Play Japan Expo」と題したイベントには800名700名(3月15日、主催者による訂正)を超える参加者が訪れ、3ヶ月間に及んだアクセラレーションプログラムの成果や、大企業パートナー各社との協業成果に注目を集めた。

大企業とのオープンイノベーションをテーマに据えたプログラムは日本国内でも複数存在するが、複数大企業とのマッチング、海外スタートアップの受け入れを積極的に始めた点でユニークな試みと言えるだろう。イベントの冒頭、 Plug and Play Japan の代表を務める Phillip Seiji Vincent(フィリップ・誠慈・ヴィンセント)氏が登壇し、Bacth 0 には150以上のスタートアップが申し込み、うち21社が採択(海外からは14社)。これらのうち、16チームがデモデイでのピッチ登壇に漕ぎ着けたと語った。プログラム期間中、採択スタートアップの大企業とのマッチングは、250件以上に上ったとしている。

本稿では、参加者投票などの結果、受賞に至ったスタートアップを中心に紹介したい。

Global Startup Award: A; by Laboratik(日本)

国内スタートアップの中で世界展開の可能性が高い企業を表彰。Plug and Play シリコンバレー本部でのピッチ機会が提供される。

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リモートワークが進化する中、マネジメントが中央集権的な従来の方法では対応できない。Laboratik では、企業の組織問題克服を支援する、スマートな生産性向上ボット「A;(エー)」を開発、チームマネジメントを可視化および自動化することができる。Slack と連携することで、A; がチャット内容を解析しダッシュボード上に可視化、具体的に改善アクションを提示する。

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昨年2月に英語版と日本語版をクローズドローンチし、これまでに日米で800社以上が導入している。AI 特化型アクセラレータ Zeroth.ai の第2期に採択、また2017年の B Dash Camp 2017 Summer in SapporoInfinity Ventures Summit 2017 Fall in Kanazawa にファイナリストに選ばれている。

Plug and Play Japan Award: Artisense(ドイツ)

海外スタートアップの中で、日本市場への展開可能性が高い企業を表彰

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Artiense は、ドイツ・ミュンヘンのコンピュータビジョン(映像分析)研究施設からスピンオフした、自動運転やスマートシティの実現に必要な技術を提供する Deeptech AI スタートアップだ。自動運転には GPS や正確な地図情報などが必要になるが、都市部では高層建築物の遮蔽で衛星からの電波が届きづらく GPS が正確に動作しない場合もあるし、地図情報についても人間が見る以上に正確な情報を十分なペースで更新する必要が生じ手間とコストがかかる。

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Artisense では車に搭載したステレオカメラ(レーザーは使っていない)により、独自アルゴリアズムで地図やデータをリアルタイム生成する。これにより、GPS や地図情報に依存しない自動運転が可能になる。Plug and Play Japan の協力により、現在6つの実証実験プロジェクトが進行していて、約20社の潜在顧客企業を獲得しているとのことだ。

EXPO Gold Award: TenKYU(日本)

この日のイベントで、最も得票を集めたスタートアップを表彰

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読者の中にも高層住宅に住んでいて、地上階に降りてから雨であることに気づき、傘を取りに自室に戻る、という経験をしたことがある人は少なくないだろう。さまざまな便利なメディアを通じて天気予報が手に入るようになった今でも、このような不都合が起きるのは、人は知りたいと思う欲求があってからでないと、情報を取得する行動をしないからだという。そこで、必要になりそうな情報を邪魔にならない方法で予めユーザに伝えるアプローチが、このデバイスの狙いだ。

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TenKYU は人感センサーを備えた電球型のデバイスで、人が近づくとオンライン情報に応じて異なる色に光り、天気や為替、ラッキーカラーなどあらゆる情報を教えてくれる。電球デバイスの設定は、天気以外にもインターネット越しに取得できるさまざまな可変情報と連携可能。また、時間センサーを備えているので、高齢者の安否確認や不審者の侵入検知などにも役立てることができる。昨年には、第11期 KDDI ∞ Labo に採択された。

Expo Silver Award: Sureify(アメリカ)

この日のイベントで、2番目に得票を集めたスタートアップを表彰

Image credit: Masaru Ikeda

Sureify は、さまざまなモバイルアプリ、ヘルスデバイス、ウェルネスプログラムと連携することで、顧客の活動や置かれている情報を収集するカスタマーエンゲージメント環境「Health Platform」を提供し、ここから得られる体験を保険会社が提供する保険サービスへと反映させる。保険会社は顧客に対し、よりライフスタイルに合った保険製品を勧めたり、保険の切替を勧めたりすることが可能になる。

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一度契約してしまうと、契約している事実さえ失念してしまう保険契約において、Sureify は保険会社が顧客とのカスタマーエンゲージメントを高める効果を期待している。製品の性質上、同業他社との差別化が難しい保険分野において、保険会社が自社のブランド認知度や顧客体験を向上しようとする努力を支援する。

入賞はしなかったものの、Batch 0 に参加した他のスタートアップは次の通り。

  • No Password……パスワードに依存しない、位置情報やバイオメトリックなどによる多角的な認証サービスを提供。
  • Nikola Labs……オハイオ州立大学からスピンオフした、ワイヤレスで給電する技術を提供するスタートアップ
  • ipvive……人が顔に出す表情を定性的に分析することで、行動や感情の特性の識別を行い、人が求めているものの理解を支援する技術を提供。フジクラとは、健康ソリューションを開発する協業に至った。
  • Rei-Frontier……スマートフォンのライフログから得られる3.7万人分の情報をもとに、機械学習により人の心理推測ができるモデルを開発。東急不動産とは銀座の商業施設で、また、UFJ ニコスとは人の行動と購買活動との関係の研究、デンソーとは行動データを基にした自治体向けの健康増進ツールの提案で協業に至った。昨年、「東急アクセラレートプログラム」第3期に採択されている。
  • Pixoo……ソフトウェア開発に比べ、ハードウェア開発が遅れている現状をかんがみ、Pixoo は IoT でよく使われるセンサーをデジタルファブリケーションの活用によって安価に提供する「Webiot」というサービスを提供。センサーから得られた情報はウェブコンソールに集められ、サービス開発者はそれらをもとにさまざまなアプリケーションの開発が可能。
  • aba……介護される人、介護する人の負担を軽減するサービスを開発。一昨年の TECH LAB PAAK デモデイで披露されていた排泄を検知するセンサーデバイスが「ヘルプパッド」の名前で製品化され、フランスベッドパラマウントベッドとの協業で、介護ソリューションの一つとして提供されることになったようだ。
  • Phoenix Solution……RFID を産業用に利用しようとすると、金属との電波干渉により正しく読めない問題が生じる。Pheonix Solution が開発した技術は、たとえ金属裏に貼付された RFID であっても、まとめて正確に読めるものだ。これにより、在庫量のカウントなど人海戦術に依存していた作業の圧倒的な効率化が図れる。
  • Warrantee……家電製品の保証書管理に端を発する同社は、自動車分野や保険分野にも事業対象を拡大している。Plug and Play Japan プログラムへの参加では、特に海外展開に向けた支援が得られ、保険会社との新サービス提供に向けても話が進んでいるとのことだ。
  • Keychain……日本とシンガポールを拠点とする同社は、ブロックチェーンベースの分散型認証システムを開発。一般的に数ギガバイドのメモリを必要とする認証モジュールを圧倒的に小型化することに成功、数メガバイトの容量で、認証・セキュリティ・セトルメント・契約などのサービスが提供できる。IoT など多くの容量を持たないデバイスへの応用に期待でき、ブロックチェーンは認証のみに使っているため(データのストアには利用されていない)安全性が確保され、エンタープライズでの利用にも親和性が高い。
  • Sentiance……ベルギー発の同社は、スマートフォンのセンサーデータを使って、ユーザの行動パターンや現在状態を分析する。あらゆる会社が容易に顧客分析できるようになり、ユーザエンゲージメント向上やデータマーケティングが可能になる。
  • Skymind……エンタープライズ向けのディープラーニングソリューションを提供。これまでに、Y Combinator と Tencent(騰訊)から750万ドルを調達している。企業においてよくあるのは、部長などが「何かしら人工知能をビジネスに取り入れたい」と考え、それを人工知能にあまり詳しくないエンジニアに丸投げするようなケース。Skymind」ではハードウェアやエンジニアを擁するプロジェクトに最適なパートナーを紹介し、「Skymind Intelligence Layer を使って実装までの手順を効率化する。
  • BreezoMeter……政府が持つセンサー、交通情報、天気情報、衛星情報を集めることで、世界25万都市の空気の質や花粉の飛散状態に関する分析データと予測データを提供する。ターゲットとするのは、スマートホームやスマートシティ領域など。
Plug and Play Japan ローンチの模様
Image credit: Plug and Play Japan

Plug and Play Japan が現在募集中の Batch 1 ではフィンテック、IoT、インシュアテック、モビリティをテーマに約40社が採択される予定だ。採択されたスタートアップには、Plug and Play のメンターによるメンタリングやシリコンバレーでのピッチ機会が提供されるほか、東京・渋谷のコワーキングスペース「Plug and Play Shibuya powered by 東急不動産」をプログラム期間中は無償で利用できる。募集は3月31日まで実施され、プログラムは6月6日から開始される。

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