「自宅試着」×「SNS映え」——Appleを超えた、眼鏡スタートアップ「Warby Parker」が仕掛ける新たなアパレル戦略

by Takashi Fuke Takashi Fuke on 2018.2.2

Warby Parker Holiday Bazaar by Alexis Lamster
CC BY 2.0 via Flickr

アパレル商品を買った後に、サイズ違いや実際に着回してみたら相性に合わなかったと感じた苦い経験はおありではないでしょうか?通常、サイズ違いであれば、1-2週間以内の返品なら、どのブランドさんも受け入れてくれるでしょう。しかし、店舗にわざわざ行く手間がかかりますし、Eコマースの場合では送料は自己負担になってしまいます。さらに、自分の相性とやっぱり違った、との理由であれば返品は難しいでしょう。

そこで登場したのが購入前に無料で試せる自宅試着体験です。購入したいと思った商品を、購入前に何日か実際に試せるサービス形態です。

今回は、日本で話題の「インスタ映え」や「SNS 映え」を踏まえた試着体験を提供している「Warby Parker」の施策を簡単に紹介したいと思います。

眼鏡企業「Warby Parker」——ミレニアム向け D2C メーカー

Warby Parker Holiday Bazaar by Alexis Lamster
CC BY 2.0 via Flickr

現在、中間業者を省くことで低価格帯の商品を提供するD2Cアパレルメーカーが台頭しています。その先駆けとなったのが、ニューヨークに拠点を持つ眼鏡企業「Warby Parker」です。2015年には欧米のテック・経済メディア「Fast Company」が選ぶ、最もイノベーティブな企業リストに、Apple や Google を抜き、1位に選出されました。

「Warby Parker」は2010年に創業され、2.15億ドルの資金調達を果たしている大型スタートアップです。95ドルの一律価格で眼鏡を販売しています。同社がターゲットとしているのが20-30代のミレニアル世代。

起業アイデアの起点となったのが、眼鏡市場の寡占でした。2010年当時は Luxottica が眼鏡フレーム市場シェアの大半を握っており、シャネルやラルフローレンのブランドへ販売されるまで、数多くの中間業者が絡むことで、販売価格が原価に対して約20倍にも跳ね上がっていたとのことです。

しかしミレニアル世代は、同質製品にも関わらず、名ばかり売れて価格をつり上げた商品を展開するブランドを望んではいませんでした。

そこで「Warby Parker」はミレニアル世代の顧客ニーズと、寡占市場のギャップに目をつけて、製造から販売までを自社一括で行うことで広告費用を削り、安価でありながら高品質な眼鏡を製造・販売にこぎ着けて成長してきました。「アンチ・高級ブランド」の路線に打ってでたわけです。

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自宅試着は顧客への新たなアプローチ

Warby Parker
Image credit:Warby Parker

「Warby Parker」はEコマース販売を軸に事業拡大を進めてきた企業です。Eコマースの弱点は、冒頭でもお伝えしたように、販売商品が顧客のサイズ・趣向に合っているかどうか、顧客の手元に届いて実際に数日使ってみないとわからない点にあります。同社は、この弱点を購入前試着体験で補っています。

サービス名は「Home Try-On」。仕組みは簡単で、顧客はネット上で7問ほどの質問に答えます。回答後には、顧客毎にオススメの眼鏡がいくつか提案されるので、送ってほしい眼鏡を5つ選択します。自分で好きなフレーム・柄をカスタマイズし、5つ選ぶことも可能です。選択した後、配送及び返送無料のラベルが貼ってある眼鏡ボックスが届くので、5日間試着体験ができます。

「Home Try-On」サービスの特徴は2点あります。

1つは、ミレニアル顧客がこぞって自撮り写真をインスタグラムや Snapchat にアップロードする点に焦点を当てている点です。「どの眼鏡がかっこいい? 可愛い?」といった内容と共に、SNS に試着体験者がこぞって写真をアップするわけです。実際、43.5%のミレニアル世代が、購入した商品やサービスを SNS を通じて広めたいインセンティブを持っていると回答しています。

前述した通り、広告代理店に代表される中間業者を省いている D2C メーカーのため、顧客から自然発生する口コミやバイラルによって商品の良さを広めてもらう必要性があります。この点、「Home Try-On」では商品体験やコメントを SNS 投稿する導線を、自然な形でサービス内容に取り込んでいるのです。言い換えれば、試着体験者全員が、「Warby Parker」の広告塔になる仕組みを送料・返品料コストの自社負担のみで開発したわけです。

もう1点は、ブランドとの相互コミュニケーションを可能とさせた点です。届いた眼鏡を試着したSNS写真に、ハッシュタグ〝Warby Parker〟〝Home Try-On〟を付けると、専属スタッフからコメントが届き、似合っているかフィードバックをもらえます(もちろん、安易に「似合っていない」とは答えないでしょうが)。5種類それぞれの写真をアップすれば、眼鏡の知識のある人から、どれが自分の顔の形似合っているのか見分けて、手軽に意見を聞ける仕組みを作り出した形です。

例えば、女性がデパートの化粧品コーナーで、専属員から色々な意見やアドバイスを貰いながらメイクをしてもらうような体験を、「Warby Parker」はソーシャル上で作り出したイメージです。49%のミレニアルが SNS を通じたブランドとのインタラクションを好むとのデータからも、顧客と専属員を購入前に紐付ける「Home Try-On」のサービス設計は優れているといえるでしょう。

筆者も「Home Try-On」を試しました。SNS 投稿を積極的に行い、投稿に対しての心理的障壁の低い、特に女性層にはとてもウケると感じました。一方、送られてくる箱や、眼鏡は使い回しされているらしく、あまり綺麗でない点は改善の余地があると思いました。あくまでも製品の特徴や雰囲気をわかってもらうためのものであるとの印象でした。

長短所の両方が未だにあるサービスですが、どのような製品かを購入前に事前に確認出来る最低限のポイントは押さえられている点や、サービス提供の目的から導線設計は高い評価に値するでしょう。

ミレニアル世代の趣向に徹底的に寄り添う

Warby Parker
Image credit:Warby Parker

ここまで「Warby Parker」のコンセプトやサービスを簡単に紹介してきましたが、ミレニアル世代の消費者行動を軸に、起業アイデアから成長戦略まで洗練された形で練り上げられていることがよくわかります。

上記の内容に加えて、「Warby Parker」は1本の眼鏡を買うと、発展途上国に無料で1本眼鏡が支給される CSR の側面にも力を注いでいる点も、戦略の要として挙げられます。同取り組みも、ミレニアルの87%が商品購入を通じた社会福祉・環境保全へ寄与したいインセンティブを持つとのデータに裏付けされています。

ユニクロや GU のような大手アパレルメーカーは、なるべく多くの商品を低価格で大量に売り裁き、データを蓄積。自社でアパレル・トレンドを高速で解析しながら PDCA を回して次の製品開発を仕掛ける SPA の業態を採用しています。

しかし、「Warby Parker」のサービス戦略を見ていると、低価格だけが取り柄の時代は終わりつつあるといえます。低価格がどのような意図によって生まれて、そこからどのようなブランド・顧客チャネルを構築するのかが重要な視点となってくるでしょう。

「Warby Parker」は大企業・有名ブランドによって釣り上げられた眼鏡フレーム市場の寡占構造を打ち崩す救世主のような立ち位置で登場し、ミレニアルに洗練された商品だけを届けるメーカーとして認知されました。また、SNS 時代に寄り添ったプロモーション及び CSR 戦略も、ブランド・ロイヤリティー向上に寄与しています。

D2C 企業の立ち上げは、これから日本でも本格的に熱を帯びてくるでしょうが、ブランド形成におけるコンテキストと、価格以外のニーズ発掘・訴求が求められることが多いに予想されます。