FacebookのC2C売買プラットフォーム「Marketplace」、シンガポールでローンチ——先行する同業のCarousellに大打撃か

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Carousell CEO Quek Siu Rui 氏(左)と Facebook CEO Mark Zuckerberg 氏(右)
Photo credit: Carousell

Facebook は先月(1月)、シンガポールで中古品の売買が可能な消費者間取引(C2C)プラットフォームの「Marketplace」を静かにローンチした。

ソーシャルメディア界の巨人の参入で東南アジアの大規模な e コマース業界に衝撃が走ることだろうが、最も不安を抱いているのは間違いなく東南アジアの C2C ポータル、Carousell だ。

Marketplace は中古品の売買のためにユーザが設立した Facebook グループから発展し、まず2016年にアメリカでローンチされた。シンガポールのほかに、主に北米やヨーロッパの47ヶ国で運営されている。同プラットフォームがシンガポールに進出する以前は、東南アジアでは唯一タイに展開していた。

Facebook 最大のライバル

Applyzer によれば、本記事執筆時点で Carousell の iPhone アプリはシンガポールのショッピング分野の無料アプリで2番目(2月9日に Alibaba の AliExpress にトップの座を奪われている)に多くダウンロードされており、タイでは139位にランクインしている。

Carousell は iPhone 向けの無料ショッピングアプリランキングで台湾では24位、ニュージーランドで32位、オーストラリアで43位、インドで180位となっている。シンガポール以外のアジア太平洋地域で Facebook の Marketplace が利用できるのはこの4ヶ国のみだ。

Facebook は、App Annie によればアプリのダウンロード数では Apple と Google 両方のアプリストアにおいて世界トップではあるが、Marketplace 単独用のアプリはないため、その人気は推し量りがたい。だがその主要アプリは前述の6地域において Applyzer の無料ソーシャルネットワークアプリのカテゴリーでトップ3に入っている。

いくら Carousell より遅れてショッピング業界に参入したとはいえど、Marketplace はすでにこれらの地域にもかなりの浸透を見せているのだ。

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Facebook のアジア太平洋本部が入居しているシンガポールの South Beach Tower(右)
Photo credit: Pixabay

IDC のシニアリサーチマネージャー Lawrence Cheok 氏は Tech in Asia に対し、Facebook の C2C 参入は Carousell にとって「戦略的な壁となる」と語ってくれた。

Facebook が比較的有利であるのは同社が Carousell の展開する国々で膨大なユーザベースを持っているからです。すでに Facebook ページやグループを通じて Facebook を仮の売買用プラットフォームとして活発に利用しているユーザのコミュニティもあります。こうしたユーザの行動はマーケットの可能性を反映しており、おそらく Facebook Marketplace のシンガポールでのローンチのきっかけともなっているでしょう。(Cheok 氏)

Marketplace は、少なくとも、現在はシンガポールに数多く存在する Amazon、AlibabaのLazada、Sea の Shopee といった企業対個人(B2C)プラットフォームの直接的な競合になるとは考えられていない。

アメリカでは、Facebook はビジネス向けページや他社のオンラインストアの Marketplace への導入を試している。シンガポールマネージメント大学でマーケティング教育学の准教授を務める Seshan Ramaswami 氏は、こうしたサービスがシンガポールでも拡大すると既存の B2C サービスにとっては手強い相手となるだろうと The Straits Times に対し語った

Facebook の幅広い経験のおかげで広告を出す側もかなりニッチな顧客層をターゲットにでき、多くの販売店やサービス提供者にプラットフォームを選んでもらえるようになるでしょう。(Ramaswami 氏)

しかしながら、これが実現するまでは Marketplace には C2C の課題が残されている。シンガポールでは Carousell が最大の競合となるだろう。

多様なマネタイズ戦略

こうした対立関係がある中、Cheok 氏は2つのプラットフォームがそれぞれ異なるマネタイズ方式をとっていることから、両社の共存もありだとみている。

Carousell は数多くの有料コンテンツや販売者向けの BumpsCarousell CoinsCarousell Pro といったマーケティングツールを用意しているのに対し、Facebook はユーザデータや広告を強みに Marketplace で勝負に出るとみられる。

Cheok 氏はこう語る。

Facebook はもともと広告を主な収入源としているので、直接広告を配信する形か大規模なデータによるマネタイズ戦略をするのかのいずれにせよ、Marketplace を広告プラットフォーム化するのには納得がいきます。

例えば、Facebook は Marketplace をローカライズ型広告ターゲティング用のコミュニティベースの分析データ取得に利用することもできる。Cheok 氏はオフラインの企業が製品をオンラインでも販売するケースが増えているシンガポールにおいてのオンライン・ツー・オフライン間コマースに関する発見にも言及する。この点においては、Facebook は Carousell より一枚上手だ。Facebook Marketplace は場所に基づいた商品検索ができるが、Carousell の方は商品のカテゴリーに基づいている。

Carousell の強み

しかし、Cheok 氏によれば Marketplace も現在の形では、売り手と買い手の間に信頼関係を築くための適切な機能が欠けているという。例えば、Marketplace には売り手をレビューする機能はないが、Carousell ではユーザが商品を買った際に売り手に対しレビューをつけることができる。

同氏は次のように付け加える。

ソーシャルトラフィックの目的は物を買うことではなく、つながることです。Facebook Marketplace はつながりに基づいて商品を発見し、検討し、購入に至るまでにユーザが歩む道のりを作ってあげることにフォーカスする必要があります。

この点において、Carousell のシニア VP である Chai Jia Jih 氏は、自身も Marketplace の到来を予期していたが、Carousell は Facebook の先を行くと考えている。

同スタートアップの「明確な信頼と安全性」はライバルに差をつけ、健全で活気のあるマーケットプレイスの設立に寄与している、と同氏は Tech in Asia に語ってくれた。

ユーザの異常な行動やパターンを大規模に検出できる技術もありますし、こうした機能を継続的に開発していきます。現在、Carousell プラットフォームには信頼と安全性に関するガイドラインだけでなくユーザによるフィードバック機能もあります。

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Photo credit: Carousell

Carousell は AI を利用した Smart Listingsコンテキストベースのチャット応答、それから偽造品や詐欺業者をはじき出す機能といったユーザエクスペリエンスを改善する機能も搭載しているとChai 氏は語る。

より地元に特化

一方で、Chai 氏は Carousel lはシンガポールや東南アジア地域のユーザコミュニティの要望や期待をより理解しているという意味で対象のマーケットに近いという。

地域への密着性を生かし、ここ最近ではシンガポールにおける春節キャンペーンやマレーシアのムスリムのためのムスリムファッション企画などローカライズへの努力を続けてきた。

Facebook Marketplace はと言えば、昔からある市場に参入することで、シンガポールや東南アジアでどうやっていくかの筋道を明らかにしていけそうだ。

ニューヨークの GBH Insights の CSO(最高戦略責任者)兼技術部長の Daniel Ives 氏によれば、Marketplace は北米とヨーロッパでは「成績不振」に陥ったものの、ここ半年間で需要が改善する兆しも見えてきたという。

本来 Facebook の主戦場ではないこの分野で、Amazon をはじめとする e コマース企業と競い合うことはまるでエベレスト級の山に登るようなものです。

タイでは出だしは好調でした、まだ成功は確実ではありません。2018年内にさらに他の国でもローンチすることでしょう。シンガポールは Facebook が進出するのにうってつけのマーケットです。(Ives 氏)

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Image credit: Pixabay

バイアウトの可能性

スタートアップコンサルタントの Momentum Works によると、テクノロジー業界では Facebook が Carousell を買収し、アジアでの e コマース戦略を加速させ、完全形のプラットフォームを手中に収めるのではないかと議論する者もいるようだ。

だが Momentum Works は2つの理由からそうした動きに出る可能性は低いと考えている。

1つ目は、Carousell の値は安くなることはなさそうだということだ。9月の時点で8,700万米ドルを超える株式資本が支払われている。たとえ Facebook が出資したとしても、すでにユーザ数の面においては Facebook が深く根差している地域のユーザベースが手に入るだけなのである。

2つ目に、Carousell のシンガポールでの現在の地位は特に高いところにあるということだ。先に述べたように、Carousell はシンガポールで2番目にダウンロード数の多いショッピングアプリだ。2月9日に AliExpress に抜かされる前は、Carousell は11月末以降5日間を除いてトップにとどまり続けていた。App Annie によると、Carousell が過去2年間に iPhone 向けショッピングアプリのトップ5から脱落したのはたった1度だったという(11月に、Amazon Prime Now がランキングのトップへと急浮上したときのみである)。

それは「シンガポール国民が(Carousell を)地元初のスタートアップの成功のシンボルと見ているというだけでなく、国民が本当に製品を愛しているからだ」と Momentum Works のブログにはある。

Marketplace が Carousell に影響を及ぼしたと言うのにはまだ早すぎる。だが興味深い戦いの舞台は整った。

Tech in Asia ではこの件に関して Facebook 側に問い合わせしているところだ。必要に応じてこの記事も更新する予定。

【via Tech in Asia】 @techinasia

【原文】

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